第44話
「と、言うわけで今の私たちはものすご~いレベルアップしたわけなんだよさっちゃん!」
食堂に集まるや休日の間の話が始まった。しかもこれだけ話してまだ半分。最後の休みなのにめちゃめちゃ時間食ってくなお前らの思い出話。お前らつか、主に話してるの賀古治だけど。
「先月まではさっちゃんに置いてけぼり食らってたかもだけど、もう私らのが強いかもだぜぇ~? 最早お前の時代は終わった!」
「ほ~ん」
「
そんなこと言われてもな……。どう反応したら良いかわかんねぇし……。そもそも俺も循環はやってたからなぁ。お前らと違ってネスさんとリリン頼りだからやり方結構違うと思うけど。俺の場合そもそもマナを送るのが負担だからそこの改善のために色々力業行使してるみたいだし。
「天良寺はいつもこんなもんでしょ? 今さらノーリアクションに目くじら立てんなよ」
「あ! タミーアウト! 私たちの間で苗字呼びは禁止で~す。下の名前かあだ名で読んでくださ~い」
「いやその話天良寺知らないじゃん……」
まったくだよ。なんの話だよそれ。と、思いつつ口には出さない。絶対また長い話が始まる。
「それもそうだね。では回想に戻ろう。ほわんほわんほわんほわ~ん」
どっちにしろ始まんのかい……。
「さて、君達に残された時間は四日……いや最終日の朝にみっちゃんが迎えに来るから今日を含めて三日だね」
「もぐもぐ……。時間の話……むぐ……するってことは、はぐっ。なんか新しいことでも……ごくっ。やるの? 危険とか言いつつ、あ、これ美味しい。危険な目に合ってるの今んとこ私だけ~。あ、ハウちゃんテーブルにお手て乗せちゃダメ! ってかその肉私の! だから循環だけで終わるって思わなかったけど」
「食うか聞くか躾るかどれかにしなよ。忙しいなぁ……。つか朝からそんなガッツいて平気なの?」
朝食にも関わらず伊鶴は手当たり次第に用意された物を口に入れていく。見た事のない色の肉だろうが得体の知れない物体だろうが食べ物というカテゴリーならば伊鶴に食えない物はない。美味ければ良い精神。
「食べなきゃおっきくなれないんだよタミー? そんなんじゃ背もおっぱいも私に抜かれんぞぉ」
「寝言は寝てる時に言いなよちんちくりん。あんたの成長はもうお腹とお尻と太股と二の腕と頬っぺたくらいにしか未来は残されてないよ。縦はない縦は」
「あァん?」
伊鶴珍しく多美に戦闘体勢を取る。よくわからない骨で多美を指し、啖呵を切ろうとする。
「おめぇこの伊鶴様の身長が伸びねぇってそう言いた……」
「話続けて良いかい?」
「あ、さーせん。どうぞおなしゃす」
ド・ニーロに話の腰を折られ潔く食事に戻る。静かになったところで今日の予定について改めて説明が始まった。
「まぁ、まだまだ君達のマナ操作はおぼつかないというか。この短時間で循環を多少なりとも行えるだけでもすごいんだけどね。それでも全員合わせて及第点くらいにはなってると思うんだよね。ってことで君達には所謂危険区域に行って三日間野宿を行ってもらいます」
「ちょっと待って話についていけない」
頭を抱える伊鶴。伊鶴だけじゃなく全員が話についていけていない。
「え~……つまり。全員合わせて及第点というのは戦力面という意味だろうか? 私達はこちらで戦闘なんてほぼ行っていないはずだが」
「私はやったけどね」
「あと一応それぞれの契約者の能力はちらほら使ってるから……それを見てじゃない?」
「あ、でも。ミス漆羽瀬さんの契約者の能力は見た事ないかも」
「じ、実は私もほとんど知らないっていうか……ごめんなさい」
「あ、いや無神経な事を言ってしまった。ごめん。許してほしい」
「理由なんてどうでも良いよ。ワシが判断したんだから。で、だ。君達はこれからこの森の猛獣達に三日間命を狙われるわけなんだけど」
「いやだからなんでまず野宿???」
「た、たしかに。そこの説明をまだされていない。実力を少しでも認められたのは嬉しいが……」
「イコールそれが危険なところで野宿。とはならないよね」
「ん? 簡単だよ。実戦より経験値積める事ってないだろ?」
「「「あ~……」」」
全員納得してしまった。特に伊鶴は先日経験済みである。
「じゃ、ご飯食べたら出掛けようか」
ド・ニーロに荷物を持たされ、一行は森の奥へ進む。慣れない荒れた足場に苦戦しつつ約四時間歩き続けると、洞窟の入り口のようなものが見えてきた。
「到着」
「へぇ……へぇ……。普段走らされてるとはいえこれはまた違った辛さ……!」
「……」
「インドア現代っ子の漆羽瀬さんに至っては疲れすぎて弱音すら吐けてない……。大丈夫?」
「……」
八千葉はプルプルと震えながらも右手を上げ返事をする。辛そうなのでそれ以上誰も話しかけようとはしなくなった。そんな八千葉を余所にピンピンとしている体力馬鹿が二人。
「普段と言ってもまだ一ヶ月とかそこらだし仕方ないね」
「日々の積み重ねとは何年という時間を経て表れるモノだからな」
マイクと夕美斗である。単純な肉体のステータスならば一位と二位の二人。この程度では疲れない。
「で、これからどうするんですか? サバイバルという話だが」
「うん。これ地図。このルートを三日で踏破して。スタートは洞窟からね。鞄の中身は食料と食器類と防寒具ね。水はないから自分達で探すように。じゃ、ワシはゴールで待ってるから」
口を挟まれまいと駆け足で説明し、ド・ニーロは先に洞窟に入っていく。去った後には羊皮紙で作られたような地図しか残らなかった。
「「「……」」」
「あ~……。とりあえず休憩しつつ作戦会議ってことで良いかな? レディたち」
沈黙を破ったのはマイク。全員マイクの提案に賛成。今にも崩れ落ちそうな八千葉を見て、今すぐ行こうなんて言える人間はいなかった。
「さて、各々荷物の中身は確認したね?」
「うん。ド・ニーロさんが言ってた通り最低限しか入ってないね。食料の比率が多いけど、獲物仕留めてその場で捌くみたいなことにならなくて良かったわ」
「経験がないものな……。家庭料理ならともかくこういった環境となると……」
「我々現代っ子に野人料理なんてできんよ。やるとしてもあれね。爆炎調理」
「炭を食えと言ってるのか己は。つか料理じゃねぇ」
「食えないよりかはマシかなって」
「そりゃそうだけど……」
「ま、まぁ食料だけは十分な量を用意されたのだし。良いじゃないか。問題は水だ」
「たしかにね。水はかさ張るのはわかるけどないのは死活問題だよ。というか今すぐ用意しないと」
「……」
「うん。やっちゃんが死ぬね」
「ん~……。パンサー。契約者喚んでくれる? あ、和宮内さんも」
「良いけど……。なにするんだい?」
「水を作ろうかと思ってさ」
「よくわからないけど。とりあえず喚ぶよ」
「なにか当てがあるようだな」
マイクとはグリモアを具現化し、ジゼルを喚び出す。夕美斗と、それから多美も契約者であるニスニルとクテラを喚ぶ。多美はさらに荷物から鍋らしき物を取り出した。
「え~っと。まずニスニルさん。この辺りの空気の汚れとかそういうのって取り除けます?」
「私の事は呼び捨てで構わないわ。空気の浄化ね。可能よ」
「じゃあお願い」
「わかった」
ニスニルの体からそよ風が吹く。これでもう空気は綺麗になったらしい。
「良いわよ」
「オーケー。クテラ。氷をこの鍋の中に作ってくれる? あ、いっぱいにはしないでね。半分くらいで良いから」
「ギャウ」
クテラは空気中の水分を凍らし鍋の中に氷を作った。水分がなくても作れるが、こちらのが負担が少ないようだ。
この段階まで来ると、多美の意図を皆が把握した。
「じゃあ……」
「あたしゃもジゼルで良いよ」
「うん。わかった。ジゼル。炎でこの氷溶かしてくれる?」
「フン。お安いご用だね。良いように使われてる気がしないでもないけど」
「ごめんよ。でもお願い。じゃないと僕たちが死ぬ」
「……それは穏やかじゃないね」
召喚されたばかりで現状把握ができていないジゼルだが、マイクの本気の顔を見て即座に炎で氷を溶かす。溶け終わったところで炎を消し、程よく冷えた水が出来上がる。
「うん。上手くいった。水筒みたいなのはあったからまず水分補給した後、全員の水筒に水を入れていこ。話はそれからって事で」
多美の気転により水事情は解決した。しかし、彼女達のサバイバルは始まったばかりである。
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