第45話

「ごくごく……。はぁ……! い、生き返ります……。皆さん、ありがとうございます」

「うっし。やっちゃんが復活したところで会議だ皆の衆」

 八千葉に水分を与え復活させ、今後の方針についての会議を開く。一応それぞれの契約者も同席させておく。

「まず最初に決めることは……。皆わかってるね?」

 幹事はやはり伊鶴。率先して話を進めようとする姿勢はあるが脱線の不安も多分にある。まぁ、酷いと多美が力ずくで止めるので反対する者はいない。

「最初に決めること? 役割分担とかペース配分じゃないの?」

「そうだな。どのタイミングで休息を挟むかは重要だろう。三日の移動が必要な距離となると道のりも険しいだろうし、どのタイミングで水筒の補充をするかとか」

「洞窟となると灯りも必要になるね。僕とジゼルが火を出し続けても良いけど……」

「あまり激しい火は場合によっては怖いですね。たぶん洞窟は突き抜けているはずですけど、仮に密室状態の場所とかあると酸欠や一酸化炭素中毒の危険もありますし。マナの温存も考えて松明とかほしいですね」

「う、おーい!? なんで話を進めてしまうのか!? しまうのか!」

「え? いやだってあんた……。最優先事項でしょこれ」

「いやいやいやいやいやいやいや。あるでしょ他に」

 首をブンブン振る伊鶴。そこまで否定されると、これ以外に重要な事があるのではと皆考えを巡らせ始める。が、五秒と待たずに伊鶴は答えを述べる。

「呼び方だよ諸君」

 ドヤ顔の伊鶴とは対照的に全員の頭に疑問が浮かぶのだが、すぐに相手にしなくていいと判断して会議を再開し始める。

「油みたいなのと布はありましたからその辺の気の枝とかに巻きつけて火をつけてみましょ。できれば生木が良いですね。枯れ枝でやる場合は樹脂のあるものじゃないといけなかったはずなので、この辺りの木じゃどれがどれだがわかりませんし」

「へぇ~。物知りだねやっちゃん」

「前にFVRのキャンプ体験ゲームをやったので」

「ほうほう……。って違う!」

「くぴゃ!?」

「急に大声出すんじゃないの! 漆羽瀬さん驚いてるじゃん!」

「ご、ごめんよやっちゃん……。じゃない! そうじゃないんだよ! 人のお話聞いてましたか?」

「なに? あんたはなにがしたいの?」

「やっと聞く気になってくれたかな? んんっ!」

 伊鶴は一つ間を置き、無駄に演技がかった動作で話始める。

「これから私たちは危険地帯に踏み込む。そのために会議は必要なこと。わかっている。私もわかっているんだ。だがね? その前に互いに命を預ける仲間なんだよ私たちは。故にまだ私以外呼び方が固いのはどうかと思うんだよ」

「は、はぁ……」

「まずは信頼と友情の証として皆下の名前かあだ名で呼び合おうじゃないか諸君」

「あ~はいはい。わかったわかった。皆も伊鶴の案に反対はないよね? じゃ、続きだけど」

 (´・ω・`)となる伊鶴を再び無視して会議を始める。これ以上強く言っても相手にされないとわかった伊鶴は大人しく参加する。

(一応意見は通ったし良しとしよう……。良しとしようじゃないか私……ぐすん)

 信頼と友情の証としての呼び方の提案をあっさり流され心に少しの傷を負った伊鶴であった。

「灯りの確保はやっちゃんの案で良いとして」

「水もまぁ、タイミングを見計らうとして」

「休憩も地形がわからないから落ち着けそうな場所が見つかる度に取るとして」

「問題は……地図だよね……。この中でこの地図読める人っているかい?」

 マイクの質問に伊鶴、多美、夕美斗が黙る。沈黙が答え。もちろん質問者のマイクも読めない。

「あ、私、読めます」

 全員が救世主の方へ振り向く。そう、八千葉の方へと。このパッと見もっさりしたメガネが皆には女神に見えた瞬間である。

「やっちゃん実は万能か!?」

「八千葉ちゃん。私たちの未来は貴女が握っていたんだね。一緒に頑張っていこう」

「漆羽瀬さん……いや八千葉さん。私にはこういう時役に立つ知識はない。だが少しでも八千葉さんの負担を減らしたいと思う。体力には自信があるから私が八千葉さんの荷物を代わりに持とう」

「ミス夕美斗。その役目は僕がやるよ。力仕事は昔から男の特権だからね」

「それだと私の仕事がなくなってしまう。では順番にしよう。マイク君は紳士だから女性を立ててくれるよな?」

「そう言われると弱いな。わかったよ。君の言葉に従おう」

「あ、あはは……」

 全員の圧に若干引く八千葉。だが困惑とは裏腹に、八千葉には安堵の感情もあった。

(好きでやってたゲームだけど。どこで何が役に立つかわからないなぁ。皆の足を引っ張るだけじゃなくなりそうで良かった……。絶対体力ない私じゃ森よりも足場の悪そうな洞窟じゃペース遅らせちゃうもんね……)

「え、えっと。私、多美さんみたいに気転を聞かせたり閃いたり出来ないし、マイクさんや夕美斗さんみたいに体力もないし、伊鶴さんみたいに皆を引っ張ったりするムードメーカーになったり出来ないけど。いっぱい頑張るので、皆さんよろしくお願いします」

 ペコリと頭を下げる八千葉。彼女なりに自分に自信がないがそれでも頑張るという意思表明故の誠意だったのだが……。

(((さりげなく全員を誉めるとかなんだこの子やはり女神か……!?)))

 この時、漆羽瀬八千葉はこのメンバーのヒロインとなった。



「ということがあり、やっちゃんは我らが女神ヒロインになったのさ」

「柄じゃないのでそういうの本当にやめてほしいです」

 口角は若干上がってるが……目が虚ろで焦点があってない。本気で嫌なんだな。つか、呼び方の話じゃなかったっけ?

「ま、無理強いはしないけどね」

「僕は無理強いするけどね! もっと親密になっていこう!」

「わかったから肩を抱くんじゃねぇ」

「お、おおう? 才、なんか前より力が強くなってない? 抵抗力が前より上がってる」

「知らん。良いから離れろ筋肉達磨」

「才殿は本気で嫌がっている。続けるなら食い千切るぞ。ガルルゥ」

「おっと。それは困る」

 ロッテの威嚇でやっとミケが離れる。よくやったぞロッテ。頭を撫でてやろう。

「~……」

「気持ち良さそうな顔しちゃってまぁ可愛い~お犬様だこと」

 今の言葉には加古治……いや伊鶴に同意。頭で考えてるときも下の名前で呼ばないと言い間違えそうで怖いな。苗字で呼んだら絶対絡まれるし気を付けよう。

「あ、で、続きだけどさ」

 個人的にはもう終わっても良いんだが……。せめてエンディングまでどのくらい時間食うか教えてくんねぇかなぁ……。

「フッフッフ~。気になる? 気になる? このあとの我々の大冒険が!」

 いや別に。そもそも半強制的に呼び出して話始めたのお前だからな?

「でも本日はここまで!」

 なんなんだよ。ここからさらに長くなるだろうと覚悟したのに無駄に終わったじゃねぇか。

「本当は私もまだまだ話したい! が! このあとまだまだ長くなるし、正直めっちゃ疲れてるからもう休みたい」

 自由か。あんま調子乗ってるとぶっ飛ばすぞこの野郎。

「あんたねぇ~……。簡潔にまとめないからこんなことになるんでしょうが……」

「私もビックリしました……。まさか最初の三日の話をそこまで長くするなんて……」

「いやだってさぁ~。せっかくだからかっこよく語りたいじゃん!? 私たちの修行と冒険の話だよ!? こんなことしましたなので強くなったんだぜで終わりたくないよ!」

 俺としてはそれで終わってほしかったんだが……。

「とりあえず夕食も取ってしまったし今日は解散で良いんじゃないかな?」

「疲れを残すわけにもいかないしね。ミスターの授業がまたハードにならないとも言えないし」

 ミケの言葉で俺を含め全員の顔が曇る。あの人が休み明けだからと温いメニューを用意するわけがない。しかもこいつらは異界で肉体的にもハードなことしてきたから良いが、俺はこの二週間まともに運動してないからな! 体鈍りまくってるぞ! あ~……明日のことを考えるだけで憂鬱だ……。

「……じゃ、そういうことで。今日は解散! 皆明日を無事に過ごせるように祈ろう!」

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