第20話

「な、なんだこりぁ」

 リリンたちに連れてこられた場所にはたくさんの生き物がいた。馬っぽいのとか大蜥蜴っぽいのとか狼っぽいのとかがいるんだが。今はどうでもいい。問題は目の前にいるヤツ。

「ハッ! ハッ!? オサ? アルジ? ヒサシブリ! オデカケ? オデカケ!? サンポ? サンポ!?」

 八つのあらゆる動物の頭が生えた体高20mはありそうな巨大な生物がドシンドシンと音を立てて跳び跳ねてる。え~っと。犬、虎、山羊、鶏、猿、蜥蜴、蛙、象……か? の頭がそれぞれ順番にしゃべっている。胴体は前半分が猛禽類っぽくて後ろが馬っぽいな。めちゃくちゃキモい。

「エイツ。揺れるから跳ねないで。静かにしないとリリン様に嫌われてしまいますよ」

「ディアンナ? ディアンナ! ソウダネ? ソウダネ! キラワレルノイヤ! キラワレタラダメ! イイコスルヨ? イイコスルヨ!」

 お、おう。見た目はキモいけど素直な子だな。少なくともこっちにきて一番好感持てるぞ。

「フム。しばらく放置していたし、興奮も仕方ないと思うがな。エイツ。出掛けるぞ。これからあいつに会いに行く」

「ホントウ!? ホントウ!? ママニアエル!? ママスキ! ママダイスキ! アルジクライスキ! ……オサ?」

 どうやらリリンの呼び方は「オサ」か「アルジ」のどちらかで定まってないらしい。決めてやれよ迷ってるみたいなんだから。つかママってことはこの生き物の育ての親なのかねリリンの知り合いって。

「ア! ア! ディアンナモスキ! ディアンナゴハンクレルノ! チイサイテ! チイサイテ! ダケドナデテクレルヨ! ナデナデスキ! シアワセナキモチナルヨ!」

「ありがとうエイツ。私も好きですよ」

「ホントウ!? ホントウ!? ウレシイ! ウレシイナ! ディアンナスキ!」

 またしてもドシンドシンと跳び跳ねてる。ちょっと可愛く思えてきた。でもやっぱ怖い。

「では八頭車を繋げるぞ。動くなよ」

「ウン! ウン! エイツノクルマ! エイツノクルマ! ディアンナイツモキレイニシテル! コレヒッパルノスキダヨ! スキダヨ!」

「そうかそうか。良いから大人しくしていろ」

「ア! ア! ゴメンネ? ゴメンネ! イイコスルヨ! イイコデキルヨ!」

 リリンは影を使って大きな建物を一つ繋げた。あれ? こういうのどっかで見たことあるな。なんだっけ?

「では乗るぞ」

「あ、あぁ」

 あ、わかった。馬車かこれ。規模が桁違いだけど。で、引っ張る動物の頭が八つだから八頭車ね。なるほどだわ。

「ソウイエバ? ソウイエバ! ソレダレ? ダレダレ?」

「あぁ。我のお気に入りだ。これからあいつのところへ連れていく。というかそれが目的だな。ディアンナよりさらに脆いからじゃれつくなよ。死んでしまうからな。もし殺したら我が直々に処分するから覚悟しておけよ」

「ウン! ウン! キヲツケル! キヲツケラレルヨ! ジャア! ジャア! アタラシイオトモダチ? アタラシイカゾク? ヨロシクネ? エイツ! ナマエエイツッテイウノ! イイコデキルンダヨ! イイコデキルンダヨ! ナマエナニ? ナマエオシエテ?」

 自己紹介とかこれまた礼儀正しいお子さんですね。そのでっかい目でギョロリと見なければ百点満点だったよ。

「え、えっと。俺は才。よろしくな。世話になる」

「セワ? セワ!? ウン! ウン! オセワスルヨ! チャントデキルヨ!」

「そうか。ありがとな。エイツ」

「……!? サイスキ! ホメテクレタノ! ホメテクレタノ! サイスキ!」

 何度目かのドシンドシン。もしも見た目が子犬ならさぞ微笑ましかろうに。残念だ。こっちの生き物は漏れなく残念だ。

 そして注意されても跳び跳ねるエイツを無理矢理影で押さえつけてやっとのことリリンは八頭車に繋いだ。

「ほら、行くぞ」

「わかってるって」

「いってらっしゃいませリリン様」

 ディアンナに見送られ、八頭車に乗り込むリリンの後を追うようにして俺も乗り込む。

 中に入り内装を見ると、まるでリリンの部屋みたいだった。違いがあるとすればベッドがなくてソファがあるくらいか。他はほとんど変わらないように見える。あ、あと窓があったわ。リリンの部屋には窓がなかったな。城の中だし位置的に取りつけられなかったのかね?

「ノッタ? ノッタ! ジャアイクヨ! ディアンナイッテキマス!」

「えぇ、いってらっしゃい。しっかり勤めを果たしてきてね」

「ウン!」

 リリンは影で大きな扉を開けてエイツは待ちわびたかのように飛び出す。

「お、おおう!?」

 ものすごい勢いで加速していく。なのにまったく揺れないのはどんな原理だ? なにか特別な造りなのか?

「リリン。なんでまったく揺れてないんだ? なんか魔法でもかかってんのか?」

 揺れや慣性などを緩和させる魔法はあるし、その応用とかだとは思うんだが。ただほぼ家みたいなサイズだしかなり高度な魔法じゃないと。

「ん? 我が影で浮かせているだけだぞ。地面に合わせて影の底面を調整し続けてる」

 全然違った。本当なんでも有りなヤツ。つまりお前のお陰で快適な旅ができるんだなご苦労様ですわ。



 城を発ってから数時間走り続けているが、景色はほとんど変わらない。あるのは青白い砂漠に真っ白な枯れ木。それから俺たちの世界とは違う星空。

 最初は異界ということもあって興奮してる部分もあったんだがな~。こうもまったく同じ景色が続くと飽きる。リリンが退屈な世界と言ってた理由がわかるな。かといって外を見る以外特にやることはないんだが。おやつでも食べようかな?

「……ん?」

 今チラッと見えた木。なんか変だったような……。ところどころ歪に盛り上がってたというかなんというか。そういう品種って言われたらそれまでなんだけどさ。まぁ暇だし現地の人に聞いたほうが早いか。

「なぁ、さっきから見える木って細いのが多いんだけど。たま~に変な形のやつないか?」

 優雅に持参した茶を飲んでいたリリン。わざわざあっちから持ってきてたし、こっちの茶より美味いのか。それともこっちの茶が不味いのか。はたまた茶そのものがないのか。とりあえず紅茶のお供にビーフジャーキーってどんなチョイスだよ。合うのか?

「フム。アレのことか。アレは我の血族だ」

「……は?」

 思わず間抜けな声を出した俺を誰が責められるだろうか。いやだって木だよ? 木が身内とか言われたらそらね?

「どういうことだよ」

「先程リリアンが木になりたいのか? と脅した時やたら怯えていただろう?」

「そういやそうだな。アレも気になってはいた」

「我らが不死身なのはもう頭に入ってると思うが。体を木端微塵にしようか時が経てば元に戻るほど我らの生命力は強い」

「とんでもバケモンだな」

「逆に言えば殺しても死なん。死にたくなっても死ねない。だから我は考えた。死ななくても動けなくして放っておけば良いのではとな」

「ほ、ほう?」

「体をバラしてな? 内臓と筋肉と脳を引き離して木に絡みつけるのだ。筋肉と骨が離れていればさすがに我らとて動くことは叶わんからな」

 お、恐ろしいこと考えるなぁお前。そりゃ不死身だからこその恐怖だわ。不死身じゃない俺も想像しただけでチビりそうになっちまった。

「脳があるから動けないまま意識はある。かといって五感のほとんどは機能しない。あるのは痛覚くらいだろうな。そうなるようバラしているわけだし。剥き出しの肉から伝わる空気の感触に悶えることすら許されんのは生き地獄だろうな」

「わ、わかったわかった。もういいから。気分が悪くなる」

「そうか? まぁ案ずるなよ。我とて滅多にやるわけじゃない」

「……じゃあどんなときにやるんだよ」

「フム。そうさな。例えば赤い首輪をつけたモノに手を出したら許さんと忠告してあるのにも関わらず軽々しく壊した阿呆は漏れなく木にしてやった。それでも二、三十人程だがな」

 十分多いわ。だがなるほど。それで未遂だけど妹を木に縛りつけようとしたのか。

 俺にはまずリリンのお気に入りを傷つけられるほどの力はないが、一応気を付けとこ。リリンのことだから絶対俺たちみたいな一般人でも死なないように苦しめる拷問とか考えつくに決まってるからな。用心に越したことはない。

 ん? 普段蹴飛ばしてるから今さら? それはそれこれはこれ。これからも無断で寝てるときにくっついてきたら蹴り出すわ。

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