第21話
「フム。着いたようだな。ほれ、起きろ」
「ほあ?」
ペチペチと頬を叩かれ目を覚ます。どうやら暇すぎて寝ていたらしい。
「んー……っ! はぁ。今何時だ?」
「こっちに時間はない。が、向こうで言えば十八時十二分といったところだな」
「……あれ、お前時計とかあったっけ?」
「数えてるだけだ。ほれさっさと行くぞ」
数えてるって……。どんな体内時計だ。こいつが万能なのは今さらだから深くは考えないけどな。お前がいれば時計の代わりになって便利だなーって思っとく。
持ってきていた荷物を手に取り八頭車を出る。
「ツイタ! ツイタヨ! エライ? エライ?」
出迎えたのはやはりエイツ。八頭車に繋がれているから跳び跳ねることはできないが、地団駄を踏んでいる。お陰で小刻みなドシンドシンがきておりまーす。
「あぁ。ご苦労。ではしばらく待っていろ」
「ウン! ウン! イイコニシテル! イイコニデキルヨ! エライ? エライ!?」
「偉いぞ~エイツ。帰りもよろしく頼むぞ」
「ウン! ウン! デキル! デキルヨ! ソレジャマッテル! ア! ア! ママニヨロシクネ! アイニキテクレタライイナ! イイナ!」
無視するリリンの代わりに誉めてやると満足そうにお座りという名の待機姿勢に入る。本当見た目とサイズ以外は愛らしいよお前。
さて、改めて辺りを見回す……っていうかまずドデカイ屋敷が建ってらっしゃって視界がほぼ屋敷を囲ってる柵でしたわ。
後ろを見ると離れたところに城とその周りに町のようなものが見える。
「なぁ、あれもやっぱお前の身内の城とかだったりするのか?」
「いや、あれは我の城だな。といってもほとんど墓のようなものだ。気にするな」
城を持ってるのは別に驚かなかったけど墓ってなんだよ。怖いから詳しくは聞かないけどさ。
「じゃあこっちの屋敷は……」
「我らの目的だな。起きてると良いのだが」
「え、今夕方くらい……ってそうか。時間とか関係ないんだったな」
「……いや、あいつの場合はそもそも生活リズムというものがない」
「というと?」
「フム。ずいぶん前のことだが、七日間不眠不休で研究に没頭していたり。逆にやる気がなくて二百日ほど寝溜めしたとか言っていたな」
リリンとは別の意味でめっちゃくちゃだな。逆にどうやって二百日寝たのか気になるわ。絶対途中で起きちゃうだろ。
「では会いに行こうか。おっと。扉を開ける際は耳を塞いで口を開けておけ」
「は? 爆発でも起こるの?」
「まぁ……そうだな。運が良ければそれで済む」
「……」
爆破で運が良いとかわけわからんこと言ってるが。とりあえず言われた通り耳を塞いで口を開ける。あ、対爆防御姿勢ならしゃがんだほうが良いんじゃないか? っておい。早速開けようとするんじゃない。耳は塞いでてと心の準備がまだなんだが!
――カチン……キィィィィ
「ブギャラララララララララララララ!!!」
扉を開けた瞬間爆音が響き渡る。耳を塞いでいるのにうるっさい! 鼓膜が破れる! 脳が揺れる! や、やっば。一瞬で気持ち悪くなってきた。吐きそう。
「今回の出迎えはあいつか。チッ。運が悪い」
「……ぷはぁ! はぁはぁ……。き、気持ち悪。え、今のなに? つか運悪いの?」
爆音が止み、リリンに目をやると珍しく舌打ちをして顔をしかめていた。
お前が運が悪いとか言うの不吉すぎるので思ってても口に出してしくなかったな!
「ここの出迎えは当番制らしくてな。今回のは我が一番嫌いなヤツのようなのだ」
「お前が露骨に嫌がるところ初めて見たんだが」
「そうか? まぁそうかもな。関わるだけで頭にクるのは恐らく唯一だ」
「ずいぶんな言い方でござんすなぁ!!?」
声のした方。上へ目を向けるとなんか飛んでいる。しばらく旋回したあとこっちに向かって突っ込んできた!
「ぶほあ!?」
そして地面に激突した。ここは町の付近だからか砂ではなく整備されていて堅くなってるらしく、頭から刺さってしまった。ピクピクと痙攣してるけど大丈夫なのか?
「その下手な着地。変わらんなハジエロ。余計な演技はいらん。さっさと案内しろ」
ピタリと痙攣が止まり、今度は勢いよく頭を地面から抜き、全貌が顕になる。エイツほどではないが、それまた歪と思える姿をしている。頭はたぶんハゲ鷹に鶏のトサカ。胴体はわからないがとりあえず大きな鳥。そしてダチョウのような強靭そうな足。そんなごちゃ混ぜ鳥類がスーツを着ている。
見た目に楽しいのはわかったがいったいどこが気に入らな――。
「つれない! つれないなぁ!? かんわいい顔してるのに相変わらずもったいないなぁ!? でもそんなところもエロいね? 勃○しちゃうね? ちょっと抱かせろよダーリン」
お、おうふ。これはまた見た目以上にハードパンチが飛んできた。下品極まりねぇぞこの鳥!?
「黙れ。良いから案内しろ」
「抱かせてくれたら良いぜ? 俺のたくましいモンで気持ち良く喘ぎ狂わせてやるからさっさと全部脱いで股開きな。それとも無理矢理が好みかいこのドスケベロリータ? それか初めてはベッドの上で優しくしてほしいのかいセニョリータ?」
「何が喘がせるだ。そもそも貴様は雌だろうが」
え、雌なの!? 完全にド下品な男にしか思えないんだけど! つか雌なら生えてないんじゃ?
「雌でも生えてるしタつのは知ってるだろうがい。あと俺は心は男の子。孕むより孕ませたい願望が強いのさ。ま、玉は無ぇから満足することもないんだけどな! 壊れるまで抱いてやるよ。ブギャラ」
「ぬぅ~……」
わーわー。一応会話にはなってるけどことごとく話題を変えられてイライラし始めてる! 眉間のシワが深すぎて紙とか挟めそう!
「おいおい怖い顔するなよ。そんな顔されたら射○しちゃうぜ。ま、玉無いんだけどな!」
限・界・だ。と、言わんばかりに影を展開。ハジエロを縛り上げた。うん。良く耐えていたと思うよ。俺はお前の味方だ決して責めない。
「初体験で緊縛しかも攻め側とかレベル高ぇなこの処女!」
「もういい。貴様をバラして畜生の餌にする。あいつも我がしたことならば文句は言えまい」
「……え? マジかい? それは困ったなぁ。俺三度のセッ○○より三度の飯派。性より精より生派だしなぁ。あ、ナマ派じゃないよ? ナマのが良いけど」
「まずはその喧しい口から……ム?」
「バルゥ。申し訳ないが矛を納めてもらえないだろうか。姫さん」
「……遅いぞルィーズ」
いつの間にか背後に立っていたのはブルドッグの頭に猪みたいな牙がついた甚平を着た珍獣。ハジエロもそうだが若干骨格は人間に近い感じだな。
「へぇ。すいやせん。今日は非番だったもので準備に手間取りましてな。シャワーを浴びたのは良いんですが乾くのにどうも時間が……」
犬頭で甚平着ておっさんみたいな声と口調なのにシャワー浴びて遅れるとか……女子か!
「いくら洗ったところで臭いものは臭いぞ。それといい加減こいつを出迎えに寄越すのをやめろ。殺したくなる」
「はぁ。それは無理な相談でしてな。まだ言葉をちゃんと話せるのが少ない上にサイズ的な問題もあるんでさぁ。……臭いますかね? フガフガ……バルゥ」
自分の臭いを嗅ぎながら悲しそうな顔になる。そんなに体臭気になるのかおっさん。
「まぁいい。さっさと新しいヤツを置くように伝えろ。それで、今はあいつ起きてるのか?」
「バルゥ。伝言承りました。一応伝えてはおきます。しばらくは無理と思いますがね。そいで母ちゃんですが起きてはいるんですが、ちと集中状態に入っておりまして今は誰の声も入りませんな。……言うほど臭いますかね?」
まだ臭い嗅いでる。なんかちょっと見てて切なくなってきた。おっさん強く生きてくれ。
にしても今は都合悪いのか。となるとどうしたら良いんだ?
「フム。ならば我は庭にいる。都合がついたら迎えを寄越せ。ただしそこのハゲ鳥は目に入った瞬間殺すからな」
「お~怖っ。玉が縮み上がるぜ。無いけどな! ブギャラ!」
「バルゥ。子宮取ったら多少落ち着くかもですな。あるから性欲が湧く。これも母ちゃんに伝えておきますか」
「あぁ。そうしろ。なんなら処分してしまえ」
「ちょ!? マッマを出すのは卑怯じゃない!? マッマそれ面白そうでやっちゃう頭パラッパラッパーなクレイジーマッドサイエンティストなんだぜ!? いやそもそも俺たちのマッマな時点でまともな神経なんざねぇけどね?」
たしかに。こんな珍獣供の生みの親とか怖くて玉が縮み上がるわ。あ、俺にはちゃんとあるからな?
「ところで庭ってなんだよ」
城の近くに開けた場所でもあんのかな?
「いや、あの町そのものを庭と言う。我らの好きにできる箱庭という意味でな」
違った。
また不穏な表現をしてまぁ。お前はあれか? 俺をそんなにビビらせたいの?
「フム。しばらく目を離していたし。良い暇潰しかもしれんな。お前を案内してれば時間も過ぎるだろ。なんならほしいモノがあればくれてやっても良いぞ」
「そいつぁどうも。本当になんかあったらもらうからな?」
お前にその手の遠慮はしないぞ。ダメならダメって絶対言うもん。気兼ねなくおねだりしたるわ。
「そういえばさっきからいるこの人はなんですかいね? 母ちゃんへの土産とかですかい?」
「ブギャラ。今気づいたわ。リリンたんがエロフェロモンプンプン匂わせてるから目に入らなかったぜ」
酷い言われよう。ルィーズのおっさんに同情したの少し後悔したぞ。ハジエロも性欲に従いすぎだろ。それがこっちの人間の扱いなのかもだけどさぁ~。すぐに適応はできないもんでなんだかなぁって感じ。
「フム。用件を言うのを忘れてたな。こいつをあいつに会わせるつもりで足を運んだのだ。こいつは我が今一番大事にしてる存在なのでな。傷をつけただけでも命はないと思えよ貴様ら」
きゃっ。リリンったらイケメン。惚れそう。
まぁあっちにいるためには俺がいないといけないからな。じゃないと移動もできないし。
「バルゥ。なるほど。姫さんがそこまで気に入るのを見るのは初めてですな」
「本当それな! ズルいぞガキ! 俺も気に入られたい! そして抱きたい! 贅沢言わないからせめて抱いてくれ! あれ? てかそうなるともしかしてリリンたんもう処女じゃない? 穢れた? 穢れたの? え、なにそれ萎える」
本質的には同じじゃねぇかこのエロハゲ鷹。しかも処女じゃないなら興味なくすとか最低すぎかよ。
それにリリンが気に入ってるのは俺がたまたまマナの密度があって俺のいる世界がリリンにとって面白いってだけでなにも特別じゃねぇよ。
……いや、マナの密度が濃いって特別なのか。
「用件も伝えたし。もういいだろ。行くぞ」
「あ、あぁ」
「では後程お迎えにあがります。バルゥ」
「俺は心の傷を癒すためにちょっと部屋でチョメチョメしてくるわ……」
「お前さん当番だろう。職務だけはこなしてもらわないと困る。本当に母ちゃんに去勢してもらおうか?」
「わ、わかったよ。どうせほとんど客なんて来ないのに……」
「……来てたじゃないか」
「たまたまね!? 今日はたまたまね?」
少しばかり賑やかな見送りを受けて改めて八頭車へ。さてさて次に向かうリリンの庭とやらには何があるやら。
好奇心もあるけど何より恐怖心がスゴいんだよなぁ。今ゴールデンウィークなのに初日でもう学校より疲れてるぞ……。
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