1年生 5月 前編
第18話
「た、頼むからもうやめ……んひ!?」
「んむ……ちゅる。れろ~……。仕方あるまい。こうでもせんと我の匂いがつかん。保険をかけておかないとこっちじゃ貴様はすぐに死ぬ。というか殺される」
「だ、だからって……。だからってよ……。舐めることないだろ!?」
俺は今、知らない部屋の知らない天蓋付きベッドの上に上半身裸で縛りつけられ腹から首までをひたすらリリンに舐められている。
必要なこととは聞いてるが思春期にはキツすぎる仕打ちだぞ……って。ひゃ!? どこ舐めてんのよ変態! お嫁に行けなくなっちゃう!
「……ん。口にしてないだけ有り難く思え。お前がどうしてもと言うから除外しているのだぞ」
「そ、そうだけ……どっ。そうじゃねぇよ。舐める以外の方法がないのかって聞いてんの!」
つか口はお前もテンション上がりすぎて抑え利かなくなるから控えるって言ったんだろ! さも俺が懇願したかのように言いやがって!
「匂いをつけるだけなら我の血で風呂でも作れば良いのだがな。血の匂いというのが問題だ。それだと我の気に入った玩具と認識されない可能性がある。唾液ならばそっちの意味で取る確率が高い」
「じゃ、じゃあ汗とか……。抱き合うだけでも匂いとかつくだろ」
「我は汗をかかん。体臭もほとんどないはずだ。唾液と血とて他よりは匂うだけで本来嗅覚をあまり刺激せんよ。だから唾液以外選択肢はない。……まぁ、一部唾液の匂いから性玩具と思い至った瞬間襲ってくるのもいるかもしれんが。ちゅっ」
……いや血の風呂なんかに入りたくねぇけどさ。グロいし。ただ襲われない予防のためにしてるこれのほうが危なくなる可能性あるってのも納得できないんだが? じゃあなんでこんなことしてるんだよ! どっちも危ないならしなくて良いじゃんか!
というかお前舐める以外のこともするのやめて! 唇這わせたりとか少し吸ったりとか絶対要らないよな!?
「とりあえず大人しくしろ。もうしばらくすれば終わる」
「それって。あとどんくらい?」
「ウム。順調にいけばあと一時間くらいだな。それまでの辛抱だ。我慢しろ」
うっそ……。すでに三十分は舐められてると思うんですが!? さらに一時間とか大人のお店のフルコースかよ! 俺にはまだ早いぞ!?
「クハハ。まぁ紹介料と思って受け入れろ。会いたいんだろう? 魔法の専門家に」
「そりゃ……もちろん」
そのためにこっちに来てこんなことされてるわせだし。すでに三十分舐められて引き下がれるわけあるか。
「であれば大人しく終わるまで待て。抵抗すればそのぶん遅れるだけだ。れろれろ」
「うひゃ!? ……くぅ~っ!」
くっ! 殺せ!
あ、違う。殺されたら困るわ。ついつい。
ともかく俺はしばらくの間。この
なんで俺最近こういう目にばっかあってんのかな? 恨むぞ神様。
俺がリリンに舐め舐めを受ける数分前。演習試合から数日が過ぎた頃まで時を遡る。
あの一件でジュリアナは未だ意識が混濁しているらしく。治療のために休学した。才能のあるヤツだったが、あんなことになれば仕方ないだろう。命に別状はないらしいからそのうち戻ってくるんじゃねぇかな?
俺はというと全治一週間と診断されしばらく学園内にある医療施設(もうめんどくさいから病院でいっか)のベッドの上で生活していたよ。お陰で四月最後の演習には参加できなかった。あんな状態じゃ仕方ないわな。
それで入院している間、俺よりも早く治ったミケとか他の連中も見舞いに来てくれて、中学までボッチだったとは思えないくらいだ。ありがたいねぇ。
リリンはあの時から無理に迫ってきたりはしていない。まぁ多少触ってきたりとかはあるけどな。隣に座って体預けてきたりとか。だけど性的なことは控えてくれてるので許容している。
たま~に添い寝とかしようとしてくるけど。もちろん蹴り落としてる。女子供だろうが容赦しないよ俺は。そもそもあいつババアだし。バカ強いし。気にするほうが失礼。
そして退屈な一週間は過ぎ、退院する頃にはゴールデンウィークが始まっていた。
この学園では祝日に限らず新学期から五週目が丸々休暇。
最初の一ヶ月は新生活になるためハードになるから、五月頭は英気を養うためにとかなんとかでそうしてるらしい。相変わらず気前が良いこって。
俺からしたら二週間の休みになっちまうわけなんだがな。宿題も特に出ない学校だし。超暇になりそうなんだが。ん~。どうしたもんかな。
「おい。今日からさらに七日休みなんだよな? 暇か?」
自室で適当にくつろぎながら予定を考えていると、ゲームをしていたリリンに話しかけられる。ちなみに今やってるのはFPS。お供はぶどう、いちご、れもんのフルーツ大福セットと緑茶。中途半端に渋い。
「暇だな。特に予定はねぇよ。なんならお前どっか行きたいとこある?」
学園から小遣い出てるし、贅沢は難しいがちょっとした旅行くらいならできるだろ。
リリンは使える桁違うから海外でも問題なく行けるけどな。
「フム。丁度良い。であれば我のいた世界に行ってみないか? 異なる部分は多々あるが、人畜生も生活しているし突然環境の違いで死ぬということもあるまい」
「と、突然だな。まぁ興味はあるけど」
リリンについては知らないことのが多いし、こいつの強さのヒントもあるかもだし。行ってみたいな。強さの秘訣は種族とかいうオチな気はするが。
それにしても急にどうしたんだろうな。リリンから帰郷に同行しないかとか。こっちが気に入ってるみたいだし、今まで一度も帰ってないのに。理由でもあんのか?
「行くのは良いけど。なんで急に? お前のことだしこっちの世界でどっか旅行とかのが食いつきそうなもんだけど」
「ウ……ム。それはとてつもなく魅力的ではあるのだがな。優先順位の問題というところだ。今はお前を連れて行った方が利がある」
「……は? なに? どういうこと?」
俺を自分の世界に連れてくのが利がある? え? 両親にでも紹介するんすか? お前肉体関係求めても恋愛感情はなさそうだったのに意外だわ~。
「我のいた世界には異界からの移住者が一人いてな。我の半分程しか生きてないガキではあるが、博識なヤツだ」
「へ~」
「そいつは自称魔女でな。魔法の専門家と言っていた」
「はへ?」
思わず間抜けな声が漏れた。魔法の専門家? そんな人と知り合いなのお前?
「いやいや。前にお前魔法は詳しくないとかなんとか……」
「我は詳しくない。が、詳しいヤツを知っている」
「……そういう~」
ことですかぁ~。なるほどねぇ~。
「で、その人がどうかしたのかよ」
「ウム。お前に紹介してやろうと思ってな」
「マジか!?」
もしも本当に魔法の専門家ならこれほど嬉しいことないんだが!?
リリンマジ天使! 愛してる! 今ならキスしても良いかも!
「で、行くんだよな?」
「行く! 絶対行く! やっば準備しなくちゃ! おやつも買いに行くか!」
「……おおう。初めて見たなお前がそこまではしゃぐの。機嫌悪いときにテンション高いのは見たことあるが」
うるせぇ。魔法の専門家でリリンの世界で暮らしてられるとか絶対スゴい人に決まってる。その人紹介してもらえるなんて興奮しないほうがどうかしてんだよバカ。
とりあえず着替えと、おやつ……以外は特になくていいか。そもそも俺荷物少ねぇし。持ってける物がまずないわ。
「そうそう。重要なことだが」
「あ? なに? まだなんかあんの?」
「あぁ。恐らくそのようなことはないと思うんだが……。万が一にも我から離れないようにしろよ」
「は? ガキじゃあるまいしはぐれたって別に……」
「簡単に言うと人畜生を羽虫同然に思って目に入った鬱陶しい殺す。という思考のヤツらばかりだ。そいつらは我の血族だからそれなりに強いぞ。腕力だけならば我よりあるヤツはゴロゴロいる」
「……」
「無論戦力においては我より強い存在はいない。学園ではないから我に制限もかからん。が、我からはぐれたら死ぬと思え」
い、いやいやいやいやいやいやいや。怖すぎるだろ。なんだその殺伐とした世界。
はぐれたら死ぬとか難易度結構高い気がするんだが!?
「な、なにかはぐれた時のための対処法とかないのか?」
じゃないと安心して行けないよ!
「フム。基本的にヤツらは我を恐れている。力ある者が絶対の世界だからな。だから我の匂いとか我のモノという証を身に付けていれば比較的安全なはずだ」
「ほ、本当か?」
「まぁ行かなければ始まらん。準備を済ませたら声をかけろ。それまで我はゲームをしている。一度行くと数日は戻れんだろうし今のうちにやっておかねば」
「そ、そうか」
となると学園とかにも連絡入れとくか。つか異界に行くのって許可とか必要なのかな? そのあたりあんま詳しくないけど。とりあえず学園にメール入れて返事待ってる間に荷造りしとこう。
というわけで今に至る。
学園からの許可もあっさり下りたし酸素もあるし気温も少し涼しい程度で過ごしやすい世界ではあるんだが。なにぶんこの状況がなんとも……。
「な、なぁ……はふっ。ま、まだ終わらないのか?」
「フム。もう少しやっといた方が良いな」
「た、頼むから早く終わらせて――」
――キィィィィ……
「リリン様!? お帰りになっていたのですね!」
何かが軋んだような音がしたので目を向けると、そこには紺色の服にエプロンをつけた女性がいた。なるほどリリンが言っていた通り俺たちとそこまで違いはないんだな。不思議なことに。肌がめっちゃ白いくらいだろうか? リリンほどじゃないけど。
「不敬とは存じますがこのディアンナ心配しておりました。いったい今までどちら……へ――」
知らない言語だがグリモアの自動翻訳はちゃんと働いているようだな。意味はわかる。そして口調から察するに召し使いとかそんな感じだろう。
途中で言葉が詰まったのはもちろん俺たちのこの状況をしっかり見てしまったからである。上半身裸の男。そしてその男の体を舐めるリリン。このあとのことはお察しですね。はしたないと叱ってやってください。
「貴様何奴! 汚らわしい家畜がリリン様に触れるな!」
「えぇっ!?」
めっちゃ声裏返った。え、俺が怒られんの!? 明らかリリン主動だよねこれ!?
そういや舐めてる方が危ないヤツもいるとかなんとか言ってたけど、この人か!?
「フッ」
ディアンナと名乗った女性が息を吹いた瞬間姿が消える。同時に天井からスタッという音がしたので目を向けるとまるで重力がないかのように天井に着地していた。よく見ると片手で天井を掴み体勢を維持しているようだ。どんな握力だよ。
「死にさらせゴミ肉」
天井を蹴り一直線にこっちへ向かってくる! ちょっと待って。天井掴んでいられる握力で握られたらどこでも肉が抉り取られるが砕ける! あ、だからゴミ肉なのねそうなのね。
「喧しい」
「ふわっ!?」
扉が開いてもガン無視していたリリンが影でディアンナを拘束する。た、助かった。
「貴様。これは我の気に入っているモノだ。この言葉の意味がわからないなどと今更言うまい?」
「……っ! さ、左様でしたか。出すぎた真似をお許しください。足りぬとは理解しておりますが命で償います故どうか矛を納めていただきたく」
「矛なぞ出しておらん」
「重ね重ね申し訳ありません」
「……まぁいい。貴様を殺しても後釜を探すのが面倒だ。それに丁度良い。コレが終わったらどうせ呼ぶつもりだったからな。首輪を持ってこい。赤だ。それから八頭車の準備をしておけ。あのガキのところへ行く。あ、出掛けてる間はドレスを新調しておけ。前のは破れてしまってな。いくつかほしい」
「かしこまりました。すぐに用意を」
影から解放されたディアンナは部屋を出て行った。な、なんだったんだろあの人。
「おい。あの人って」
「我の……そうさな。わかりやすく言うと侍女といったところだな。細々としたことはアレにやらせている。他の連中は似たのをいくつか囲っているが我は煩わしいのが嫌いなのでな。アレ一つだ。だからやらかしても生かさなくては後々困るのが難点だな。お前へ殺意を向けても殺さなかったのはその為だ。許せ」
「いや別に殺さなくて良いけど……」
あっさり殺すとかアレとか一つとか。物みたいな扱いというか。普段こいつ殺せる力あるのに結構動きを封じるだけで済ませたりするから理性的なヤツと思ってたけど実は違うのか……。いやそうじゃないな。
「そうか? 悪いな」
ここではそれが普通なんだ。命が軽く扱われるのがこの世界の常識。ヤバい。チビりそう。めっちゃ怖い。
俺は決めました。リリンから極力離れません。おててでも繋いでおとなしくしてるねママ。
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