第17話
目を覚ますとそこは知らない天井。と、思ったが最近ミケの見舞いで来てたわ。つまりは医務室だな。
「いっつ……!」
体を動かそうとするが痛くてピーンってなった! ピーンって!
そ、そういや俺マナ暴発させたんだったな。色んなところの血管破裂したのを覚えてる。相変わらずメチャメチャ痛いわこれ。
「……お前、なにがしたいんだ?」
横に目を向けるとよく知った顔があった。白金の髪に整いすぎた顔。まさしくリリン。
「お前こそなにしてんだよ。人の横で」
「添い寝だな」
そういうこっちゃない。理由……は聞くまでもないけどよ。どうせ気持ちいい心地良いからだろ。
「お前があまりにも濃厚なマナを送り込んできたのでな。グリモアを経由しているとはいえ未だ火照った体が治まらん」
「さいですか」
そら御愁傷様。そんなことより人の横で身をよじるな。足が当たって痛い。
「まったく。……そういやあのあとどうなった?」
「お前が倒れた後か?」
「あぁ」
「フム。あの後はすぐに影を広げてあの植物を握り潰した。逃げようとしてゲートを開いていたので残骸は元の世界に送り返してやった。あの状態では復元もできんだろう。よって雌畜生との繋がりも断たれ、元……とは言い難いがとりあえず人畜生のままだな」
「……そっか」
あの金髪女は正直どうでも良いが、もし人間のままでいたかったならちょうど良かったんじゃないかな。人間やめるつもりだったらすまん。邪魔したのはわざとじゃないんで許してくれ。
だけどまぁ。ともかくとして。
「逆転勝利おめでとう。良かったわ。結果的にお前が負けることなくて」
試合中にハッキリ自覚した。俺はこいつに憧れている。
力も聡明さもその在り方も。全てが強者であるこいつに憧れている。
本気出したら世界を滅ぼせるようなヤツに憧れるとかまるで小学生か中二病だな。
「何を言っている。あの勝利は我のモノではないだろう?」
「は? どう……いった」
どういう意味かと尋ねる前にまたがられた。痛いから下りろって。なにがしてぇの。
「我らの勝利だ」
「……っ」
その言葉を聞いて心臓が高鳴った。
「お前のマナと我の能力であの植物を滅した。ならば我らの勝利だ。……いや、この場所のルールを思えばお前の勝利と言えるな」
ヤバイ。目頭が熱くなる。
今までの人生で勝ったことなんてない。負け犬で落ちこぼれの俺が勝った。
前回の試合ではリリンが圧倒し過ぎて俺がなんにもしなくても終わっちまったから納得できなかったけど。今回は俺も少しだけ何かしたって、思えるから。だから……。
「どうした? 目が潤んでるぞ」
「……うる、さい。お前……が、また……がってるか……ら手足とか……色々痛ぇん……だ……よ……」
涙が溢れる。我慢なんてできない。
だってよ、魔法師目指してまともに肯定されたことも何かで競って勝ったこともないんだ。それを初めて肯定してくれた憧れのヤツにお前が勝ったとか言われたらさ。嬉しいに決まってる。泣いて何が悪い。
「フム。そうか痛むのか。それは悪いことをしたな」
そう思うんなら声にもう少し申し訳ないって気持ち込めろよ。それとどけ。痛いのは本当なんだよ。
「では傷を治す手助けをしてやろう」
口をモゴモゴし始めたと思ったらブチッと嫌な音がした。それからなぜか顔を近づけてくる。何事何事?
「え、お前なにするつもり? ま、待てって今動けな――むぅ!!?」
こ、こいつ! 事もあろうに! き、き、き、き、き、き、キスしやがった!!!
「むちゅ。れろれろ……。ちゅる」
それだけじゃ飽きたらず舌を俺の口に滑り込ませて無理矢理口をこじ開けて来やがる! つーか舌強くね!? 口閉じようと抵抗してもまったく意味がないんだが! あ、あ、ダメ。俺初めてだしそんなにされたら変な気持ちに……!
「うぷ」
今度はなにか流し込んでくる。唾液……じゃない。とろとろしててものすごく濃厚な味がする。ただそれが甘いのかしょっぱいのかどういう味なのかはわからない。ただただ濃厚なナニかが口の中へ流し込まれる。
「ぷはっ。や、め」
「動くな」
「むぅぅぅぅう!?」
やっと口を離せたと思ったのに今度は影で首から下を拘束されつつ頭を両手でガッチリ捕まれて完全に動けなくなった。
だが、一瞬口を離したときに何を口の中へ入れられたかわかったぞ。口の端に赤いものが見えた。恐らく血。さっきのブチッて音は自分の口の噛み切った音だったんだな。
本当なんてもの飲ませようとしてんの!?
ただでさえ幼女とキスしてることがもう大問題なんだが!
や、ヤバい。も、もう口の中いっぱいだ。さっきより強く頭を掴まれて逃げることもできない。
「んくっ……んくんく」
の、飲んじゃった……。不思議と嫌じゃないのがもう嫌なんだが? せめて嫌がってくれ俺よ……。
「……れるろ」
今度は何をするかと思ったら舌を絡めて無理矢理自分の口へ入れてこようとする。
え、終わりじゃないんすかリリンさん?
普段から触れたりするの好んでたし、前に人の唾舐めたり色々やらかしてたけど。こいつ実はめっちゃ性欲強いのでは? 人が動けないことを良いことにとうとう抑えが効かなくなったか! この痴女! 痴幼女!
「……はむ」
――ブチッ
「んんんんんんんっ!?」
連れていかれた舌を噛まれた! ち、超痛い! あ、穴開いたんじゃないか!? 心の中で罵倒したのバレ申したか!?
「ちゅるちゅる。れるれる」
次は舌の腹に舌の腹を擦りつけてくる。
痛い痛い痛い痛い。もうなんか痛すぎてキスして変な気持ちになるとかそういう次元じゃないぞ。ご、拷問だこれ。さっきとは別の意味で俺今泣いてます。
「ん~……ちゅ」
「ぷはっ! いっは! ほ、ほはへはひひははる!?」
やっと口が離れたので「痛っ! お前なにしやがる!」って言いました。口回ってないけど許してくれ。こちとらそれどこじゃないんだ。舌で上顎触って確かめてみたらやっぱ穴開けられてたんだ。痛いに決まってるわ。
はよ説明しろ説明。事と次第によっちゃただじゃおかないぞ幼女野郎!
「我の血をくれてやった。飲むだけでは足りぬ思ったのでな。直接舌を噛み切って血を混ぜ合わせた。そろそろ舌のほうは治ってるだろう。直に他の部位も治る」
あ、本当だ。舌を動かしてみるともう痛くない。どんな、仕組みだよ。お前は不死鳥かなにかか?
「り、理由はわかったけどなんでき、キスなんか……である必要があったんだよ」
ようは血を摂取すれば良いんだろ? だったら指先切って~とかやり方は色々あったろうに。なんでわざわざこんな……。
「体の火照りが治まってなかったから多少マシになるかと思ってな。だが、フム。これは良いな。むしろますます興奮してきた」
頬を紅潮させて舌なめずりをする。背中の真ん中がゾクッとするほどに色っぽい顔しやがって。表情は豊かなヤツだが顔色なんて滅多に変えないもんで余計にエロく見える。
だがしかし! 相手は幼女! 幼女なのだ! これ以上は俺の社会的立場が危険。いやすでに目撃されてたらアウトなんだけどな。それでも無抵抗じゃいられない。
「ま、前に言っただろ。お前みたいな幼女とそういうことは……」
「あぁ。言い忘れていたが。こちらの基準で我の年を数えたら齢二百は軽く越えている」
「……ん?」
に、二百……歳? は? え? ち、ちょっと待った。人生最大の混乱が今俺を襲ってる。こ、こんな幼女が二百歳!? うっそん!? い、いやでもそうか。見た目の先入観で決めてたが生物としてまったく次元が違うんだからそういうこともありえるのか。
「クハハ。まぁ我らの世界では年なぞ数えんから我にとっては大した意味はないのだがな。だが、貴様にとっては重要なことなのだろう? これで貴様を抑えていたモノは意味をなさなくなったわけだ」
「い、いやそれはそうだが……」
かといって急に割り切れるわけないじゃん? 見た目が幼女なのは変わらないわけだし。あぁでも実際はババアが未成年を襲ってる構図なわけで……。だ、ダメだ。もう頭が回らねぇ。
「いやはや。それなりに生きてきてこのような刺激は初めてなのでなぁ。どうにも抑えが利かない。いっそこのまま交わってしまおうか? なに案ずるな。我の血族……兄には畜生を交わらせるショーを観覧し楽しむのもいるのでな。我も幼い頃無理矢理見せられたものだよ。故にやり方はわかる。クハハ。あの雑魚もたまには役に立つものだな」
あ、お前兄弟いるのね。それに良い趣味をお持ちのようで。そのせいでリリンはそっち方面の知識もあるにはあるというわけか。恨むぞお兄様!
「では続きをしようか」
再びリリンの顔が近づいてくる。ゆっくりゆっくりと近づいてくるため唾で濡らされて少し光っている唇が目に入る。目もいつもとは違って少し蕩けているようで、赤くなった頬も人形みたいだった印象が陰を潜める。例えるなら……。そう。今こいつは、きっと女の顔をしているんだ。
普段だって結構ヤバいしあの時だってかなりキテたのに本気で発情されたら。こいつの味を本当の意味で知ってしまったら絶対に俺はこいつに溺れちまう。確信できる。
「や、やめ……」
女に現を抜かすわけには行かないんだって。俺は強くなりたいんだよ。お前の隣でも誰にも文句言わせないくらい。無理かもしれないけど。だけどやってみたいんだ。だからせめてそれまでは……。
「……フム。やめた。旨そうじゃなくなった。残念ながらお前にその気はないようだな」
やっとリリンの体が離れ、ベッドに座り直す。よ、良かった。一命は取り留めました。
「とはいえお前も途中まではかなりその気だったようだがな」
「うっせ」
あ~あ。最初は感動してたのに、次に変な気分にされるはめちゃめちゃ痛ぇことされるわ散々だわ。こちとら怪我人だぞ! 労れやロリババア!
ただ、アレだ。もう少しリリンのサイズが大人に近かったら確実に陥落していただろうな。ただでさえ今でもヤバかったわけだし。
「さて、そろそろ我は部屋に戻る。ゲームのアプデが終わった頃なのでな」
「おう行け行け。さっさと失せて俺を休ませろ」
「クハハ。口がそれだけ威勢が良ければ休む必要もないと思うがな。さっさと治してお前も早く戻れよ。お前がいなくては我が気持ち良くなれんのでな」
気持ち良く~とか言いつつも、先ほどまであった色気はどこかへ消え去りいつものリリンに戻っている。
いや、いつもと違うところが一つだけあったか。
些細なことだけど。呼び方が「貴様」から「お前」に変わっている。
まぁ、どうでも良いか。
リリンのせいでテンション上がっちまってたけど、落ち着いてきたらものすごく眠くなってきた。今はただ、休もう。
(クハハ。もう少し後になるかと思っていたが。もうあそこまでは引き出せるか。であればあのガキのところに連れていっても良いかもしれんなぁ。ともあれ治るのを待たねばならぬが……。手足と目、鼻の血管破裂。加え神経の損傷。一部筋肉の断裂。気づいてはいなかったようだが内臓もいくつかダメージを負っていたようだが、あの状態ならば数日で十分だろう。我の血も与えたことだし。……少々興奮して与えすぎたかもしれんがな。まぁ我の血に侵されはせんだろ。楽しみだ。才のヤツがどれほどの勢いで強くなるか。……最初は成長してから殺し合おうかと思っていたのだがな。今は別の道も良いと思っているぞ。さっさと踏ん切りをつけて我を貪りに来いよ。クハハ。あのマナでさえも我には過剰な快楽だったしな。本当にあいつと交わったら我、死ぬかも。それはそれで楽しみではあるがな。クハハハハハハ。退屈せんなぁ)
帰り際不穏なことを考えるリリン。しかし彼女の思惑を知るものは彼女を除いていない。
才がこれから彼女にどう変えられていくのか知る者はいない。
もしかしたらジュリアナのように存在を侵されていくのかもしれない。
リリンという存在との出会いが才にとって幸運だったのかどうか。それを知る者もいない。
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