第13話
「それでは諸君。準備もできたことだし始めようではないか! かんぱ――ぶへっ!?」
「公共の場で騒ぐんじゃないの」
時間を合わせ食堂に集まり、食事も運び終わったところで伊鶴が乾杯の音頭を取ろうとするがタミーと呼ばれていた日に焼けたような肌色の金髪の女子に止められる。なんか金髪多いなこの学校。初日に絡まれたのも金髪だしリリンも金髪っていうか白金だし。
うん。でも止めたのは正しいと思うぞ。騒音は公害だもの。
見た目派手でヤンキーっぽいけど良い人そうだなこの女子。できれば陰キャだからと目の敵にしないでくれたら嬉しいな。面怖いから。
「だからと言ってフックはどうかと思うな? 軽くでもフックはフックだよ?」
「とりあえず軽い自己紹介しない? 伊鶴以外のことあんま知らないし。集まったんならそっから始めないとさ。正直名前もあいまいなんだわ」
「タミー聞いてる?」
しょぼんとして(´・ω・`)こんな面をする伊鶴を軽くスルーしてる。すぐにごめんごめんとじゃれ始めたから仲が良いが故の冷たいあしらいだったっぽい。
だけど自己紹介を提案してくれたのはありがたい。俺はミケ以外知らなかったからな。和宮内は流れで知れたけど。
「皆もそれで良い?」
「私もその方がありがたいな。一応全員の名前は把握しているが、それ以外がまったくだし」
「あ、あの。私も……。まだ名前のわかる人少なくて……ごめんなさい」
「ミスターが自己紹介する時間取らせてくれなかったから仕方ないね。しかもほとんど授業でヘトヘトになってからクラブだったし、余計に集まる
「俺もミケ以外とは特に付き合いないし助かるわ」
よし。ナチュラルに会話に入れた。一度参加したあとは空気と化すのみ。
ちなみにリリンはすでに食べ始めてる。マイペース過ぎるわ。羨ましい。
「ではでは待ちきれず食べ始めた食いしん坊もいるみたいだし、食べながら自己紹介をしよう。ご飯冷めるしね。まずは幹事の私からいかせていただきましょう」
じゃれていた伊鶴が無駄に大きなアクションを取りながら立ち上がる。元気なヤツ。
すぐさまタミーさんにたしなめられるまでがワンセット。
「私は一年E
「はや……って他に言うこともないか。一年E組十六番。
てっきり好きでやってるものかと。見た目で判断しちゃイカンね。心の中だけで思ってたし心の中で謝るわ。勝手にヤンキーと思ってさーせんした。
「では次は私が。一年E組五番。
顔を赤くしながら言うのは不覚にも可愛いと思っちまったけど。そんなすぐ気安くできるか。こちとら基本的にはコミュ障なんだからな!
「あ、えっと。それじゃ私が……。一年E組二十二番。
「才。先に僕がしていいかい?」
女子の紹介が終わるとミケが俺に確認を取る。順番とかどうでも良いからどうぞとジェスチャーする。
「僕はマイク・パンサー。一年E組四番さ。こんなにも美しい
美しいと言われても女子たちは照れた様子がない。ミケがあまりにもナチュラルに誉めるからか本気に取ってないのかは知らないけど。白けないのスゲェな。俺が言ったら絶対引かれる自信あるわ。
……あ、次俺じゃん。嫌だなぁ~。やるけどさ。
「一年E組二十四番。
「ちょい待ちーなさっちゃん!」
「さっちゃん言うな。で、なに」
「おいおい。いつもそうだけど今もそんなベリーナイスなロリータ連れ回しておいて何をちゃちゃっと終わろうとしてるんだい? このペド野郎が。さっさと紹介しやがれよアンダスターン?」
誰がペド野郎だぶっ飛ばすぞ。
「聞きたきゃ本人に聞けよ」
「いやなんか。黙々と食べてるのが可愛くて気が咎めます」
空気読めなさそうなのにそこは気を遣うのかよめんどくさ。
チッ。仕方ねぇ。せめて促してやるか。他のヤツらも気になるって面してるし。
「おい。リリン。お前もなんか言えよ」
「……フム? それは必要か?」
「とっても重要」
ここで断られたら変な空気流れるからマジでお願い。
「フム。わかった。我はコイツの契約者であり、名をリリンという。他に言えることは~……そうさな。最近はミックスベリーアイスをデニッシュに乗せて食すのにハマッてる」
「かわゆっ」
伊鶴こと賀古治(名字がわかったので呼び方変更)が顔を押さえながら後ろに背を反らして悶絶してる。
ってかリリンのヤツ最近そんな贅沢なことしてんのか。金たくさんもらってるみたいだし好きにしたら良いけどよ。
「にしてもこんなに可愛いのにB組に勝っちゃうんだから不思議だよね~。ミケちゃんも身動きとれなくされてるときあったし」
「ハハハ……。あのときは僕も若かった。今ならこの鍛え上げた体で……!」
「二週間前の話じゃん。てかポージングすな。目立つっしょ」
「あはは……。でもたしかにスゴいですよね。私ももっと頑張らないとです」
「そういえばパンサー君と賀古治さんもそれぞれ演習で勝っていた。……私は惨敗だったからよりスゴいことだと実感するよ」
もう一人の演習勝者は賀古治だったのか。ミケは知っていたけど。意外だな。残念キャラっぽいのに。和宮内が惨敗ってのも意外だけど。……武術ができても魔法には関係ないか。
「あ~それ私ゆーみんの試合見たよ。なんか顔こわばってたよね。あがってた?」
「……実を言うと。うん。恥ずかしながら」
え、あがり症なの? 本番に弱いってこと? でもミケ……のときはそうか。授業だもんな。
「重要な結果が出ると思うとどうにも緊張してしまうんだ……。だからああいう場でちゃんと結果を残した三人を尊敬してる。それで話を聞かせてもらえないかと思ってこの集まりに参加したいと思ったんだ。なにか参考になるかもしれないしと」
「んー。私は特に? やったら勝てたってだけかな。相性も良かったかもだけど~……。やっぱ言えることはないや。ゴメンね」
「僕も特別なことはしてないよ。相手が勝手に自滅してくれただけだから」
「そ、そうなのか……。えっと。天良寺君はどうだ? なにか秘訣とかないだろうか?」
秘訣って言われてもなぁ~……。俺のが一番参考にならないと思うんだが……。
「俺の場合はコイツが勝手に相手を封殺しただけだな。だから俺がどうこうよりもコイツと契約できたのが良かったんだろうよ。詰まるところ運」
「貴様から好意的なことを初めて言われた気がするな。我をそこまでぞんざいに扱えるのは貴様くらいだぞ」
「別にお前気にしちゃいねぇだろ? 雑にしてても」
不満そうな顔されることはあるし不思議そうな顔をすることもあるが、それだけで特別怒られたりしたことないしな。実は温厚なのかコイツ? いや、ないな。質問に答えなかったってだけで影で締め上げた過去は忘れんぞ。
「そ、そうか……。そういうものなのか……」
別に狙ってそうしたわけじゃないけど。落ち込ませてしまった。悪いな。
「でも和宮内さんは僕を手玉に取るくらいの技も戦略もあるだろう? だったらあとは場数がなんとかしてくれるさ!」
「そそ。まだ入学したばかりだし。気にするな~とかは言えないけどねい」
「つか私もデビュー戦こけたし。悔しいから次はリベンジするつもり」
「わ、私もやれるだけのことはするつもりです。一緒に頑張りましょ?」
俺以外の連中が慰めの言葉をかける。俺はやらないのかって? 必要性を感じないもので。言葉も思いつかないし。
「皆、ありがとう……。そうだな。そもそも入学できたのも奇跡のようなものだし。もう少し長い目で見ることにするよ」
「んだんだ。とりあえず食って寝てデカくなれよ」
「こ、これ以上身長が伸びるのは困る!」
「あァん!? そりゃあちきへの当て付けかい? このチビカスへの挑戦状かい嬢ちゃん!?」
「え!? い、いやそんなつもりは!」
「絡むな。絡むな。……ドチビ」
「貴様! 侮辱したな!? オレはそいつを挑戦と受け取ったぞ! やるかこらタミィィィィィイ!!!」
「騒ぐんじゃないのって」
「おふっ! 瞬・殺!」
激昂した賀古治の耳裏にチョップをかまし一撃で黙らせる宍戸司。今のは賀古治も効いたらしくフラフラしてる。
「あはは……。賑やかだなぁ……」
「ん~。少し荒っぽいけど女の子同士が仲良くしてるところを見るのは心が安らぐね」
いや荒っぽすぎるだろ。一人結構な打撃受けてるじゃねぇか。まぁ騒ぎの元凶だから仕方ないけど。
だけど良い感じに空気になったようだな。俺はこのままさっさと飯食って帰るわ。
「んむ……」
と、思って口に入れたフライなのだが。苦い。これ牡蠣だ。苦手なんだよなカキフライ……。ミックスフライの内容見ずに選んじまったのがいけなかったな。どうしよう。
チラリと横を見るとほとんど食い終えてるリリンが目に入った。
……。
「食う?」
「ウム? 食う」
聞いてみたら即答だった。ラッキー。
俺はフォークに刺した食いかけのカキフライをリリンに差し出す。リリンは躊躇せずそのまま食らいついた。
「……フム。悪くないな。コレはなんだ?」
「牡蠣って貝」
「ほう。貝か。前に食ったアサリの酒蒸しも美味かったがこれもイケるな」
「……渋いな」
甘い物にハマってるかと思えば今度はつまみかい。何でも食うなこの雑食幼女。好き嫌いないのにチビのまんまなのが不憫だわ。
ま、食ってくれるならちょうど良い。牡蠣らしきものはひたすらリリンに食わせちまおう。
刺して口に運ぶとパクパクとどんどん食べる食べる。餌付けしてる気分だなこれ。
そして最後の一つを与えたので俺は付近でフォークを拭う。
「って、拭くんかい!」
「うるせぇつってんだろ」
「あふんっ!?」
「は?」
突然大声をあげる賀古治。いやいつもだけど。今回は俺に向かって、だ。
そしていつもどおり宍戸司に暴力という愛の鞭を食らってるわ。今度は顎をかすめるように殴られて足にきておられる。
「い、いやだってさタミー……。幼女との間接キスでも目論んでるかと思えばこの男拭きやがったんだぜ? 自分は食べかけそのまんま与えたくせに」
「私もそこはあん? って思ったけど。騒ぐのは別の話。いい加減静かにするってこと覚えなさい」
「さぁーせぇーん」
「聞いてんのか?」
「んなこたぁどーでも良いんだよタミー! ヘイそこなボーイ! 幼女の唾液を拭くとは何事だよ! フォークについたらありがたくベロベロ舐めるのが紳士だろう!?」
いやそれはただの変態だ。一発でブタ箱でも良いレベルの。
「んんんんんっ! タミー……! 極ってる極ってる……。本当に入ってるこれ……!」
大声をあげたため今度は裸絞めを食らってる。宍戸司も今度は注意とかせず無言で技に入りました。
「あ、と、スゴい……の、あたってる……おっき、くて、やらか……い、のが……っ!」
どんどん絞めあげられてるのにブレないなお前……。たしかに宍戸司のは制服の上からでもよくわかるくらいデカいけどよ。
「タミー……。ヤバイ……落ち……る……」
「静かにできる?」
「……しゅる」
「よし」
白目を剥き始めたところでタップをし、やっと解放された。紳士うんぬん以前に女子として白目剥くまで怒られるほど悪ふざけするのもどうなのか。
「ピュー……フコー……ピュー……フコー……」
……アレは呼吸音なのだろうか? なんか変な笛の音みたいだが。大丈夫か?
「……さっちゃん。とにかく。舐めようぜ?」
なんでだよ。つか本当にブレないなお前。ここまでくると尊敬するわ。逆に。
「お前! 今舌打ちしたろ!?」
「……えぇ。舌打ちしてしまいましたね。不覚にも。ですが、それでなんで呼び止められなくてはいけないのですか?」
「俺たちにしたからだろうが!」
「被害妄想ですね」
食事を終えて部屋に戻るためにロビーに行くと、複数の男子と一人の女子が口論になってるっぽい。何事だし。
……あれ? 女子の方はたしか……説明会で絡んできた金髪女か。また絡んでんのか? え、ヤンキー?
「……お前、たしかA組だったな。俺たちがE組だからバカにしてんのか?」
「育ちも良さそうだしな。人を見下すのが好きなんでちゅか~? おこちゃまでちゅね」
あ、こっちもヤンキー? つか同じクラスかよ。誰だよお前ら。見たことねぇぞ。モブ過ぎるのかそれとも登校したことないのかどっちだ?
「お子様はどちらでしょうね? 言いがかりをつけて人を小馬鹿にした態度をとって。とても稚拙で下品な品性。なによりも小汚ない無意味なプライドの高さ。見ていて不愉快」
「やっぱりバカにしてんじゃねぇかよ! 女だからが通用する時代は終わったんだよ!」
「男が女より強い時代も大昔に終わってますよ」
E組男子の一人が殴りかかるが、金髪女は瞬時に何かの蔓を召喚し拘束した。
あの金髪。グリモアも出さずに召喚していやがる。しかもゲートを維持して一部だけ。俺の記憶が正しきれば超高等技術だったはずだぞソレ。本当に学生かよ。
普通召喚はグリモアにマナを送り込み契約者に呼びかける。グリモアは魂と同化してるから認識さえできればマナを送り込むのは難しくないらしいが。実際にできるのはかなり上位の魔法師だけのはずだ。
「お、おいなんだよこれ! は、離せよ!」
「ふ、ふざけんなよ! こんなこと許されると思ってんのかよ! ハハ! こんな暴力沙汰退学だ退学!」
「……私は一つ嘘をついていました。舌打ちをしたのは貴方たちにです。それだけは謝罪します。が」
一拍置き金髪女はさらに蔓を出現させる。いったいどんな仕組みでこの蔓操ってるんだ? 本体は見えないし蔓に目がついてるとも思えないし。なにか察知する能力でもあるのか?
「私が不愉快と思ったのは事実。貴方たちの話が聞こえてしまったから不愉快担ったんですよ。午後の授業をサボっても怒られなくて単位ももらえる。あんなキツいだけで無駄な授業を行かないほうが良いですって? どんなことをしてるのかは知りませんが、向上心のない者が同じ学園にいるのはとても不愉快です。貴方たちのような者を残すような学園には私もいたくない! 退学したほうがマシです!」
「ひっ!」
「おっと。面白いから傍観してたけどこれ見てる場合じゃないね!」
「とにかく止めなくては!」
「え、で、でもどうやって……」
「わかんないってそんなの!」
たしかにありゃさすがにマズイ。止めなきゃあいつら殺されるかもしれない。だけどこれどうやっても間に合わないんじゃ……。
「この距離なら突っ込んだ方が早いよ!」
そう言うとミケは渦中へ飛び込んでいく。いくらフィジカルが強くても生身じゃ危ないんじゃないか!?
「来てくれマイレディ! ジゼル!」
いつの間にか手元に出現していたグリモアにマナを注ぎ込み、ミケは契約者を呼び出す。
ゲートから飛び出たのは鹿。だが、もちろんただの鹿ではない。炎を纏った角のない鹿だ。
「……っ!」
火鹿は蔓を焼き切るが、全ては無理だった。残ったいくつもの蔓がE組男子たちに襲いかかる。
「Oops……これはマズい」
もう間に合わない。さすがにミケも逃げるべきだ。ミケだけならばあの身体能力だ。かわせる。
「ミケ! 逃げろ!」
「……ハハ。才。ここで逃げたらダメだろ? 僕は
そう、聞こえた気がした。おいおいお前。こんなときにかっこつける気かよ。
「……っ!?」
ミケはE組男子の盾になり蔓の餌食になった。
蔓に撃たれた背中は制服が裂け、血肉が飛び散っている。
「……いてて。……大丈夫かい? 怪我はしてないよね?」
「あ……あ……」
「どうやら大丈夫そうだ……。よいしょっと……。おっとと」
フラフラしながらミケは立ち上がり、金髪女に向き直る。
「ハードだねレディ? 今日はそんなにもご機嫌なのかい?」
「……ジョークは嫌いです。でも身をていして彼らを守った貴方のことは尊敬に値します。怪我をさせてしまって申し訳ありません。学園に処分を求めるなら私はどんなことでも受け入れます」
「そんなことしないさ。僕もサボりは嫌いだからね。ヒステリーを起こすのはどうかと思うけど。気持ちはわかるよ。僕も目の前で言ってるの聞いてたら殴っちゃってたかも」
軽快にしゃべってはいるが、血はどんどん流れて汗も異常に噴き出している。
これ、無理矢理にでも医務室に連れてくべきじゃないか?
「えっと~。騒ぎがあったようで来てみたんだけれど。どうなってるのか誰か教えてもらえると嬉しい……かな?」
突如現れたボサボサ頭の丸メガネ。そう。我らが学園長。
誰か教師が事態の収集にくるとは思ってたけど学園長が直々に来るとは……。
「……私が騒ぎを起こして彼に怪我を負わせました。責任は取るつもりです」
「彼? って、え!? 君その怪我大丈夫!? いや大丈夫じゃないね! 医務室に行きなさい! いいえ誰かつれてってあげて!」
「……あっはっは。目の前に憧れの人がいるのにすぐに別れるなんてしたくないですよ。羽刃霧紅緒さん……。いいえ、学園長」
「あ、憧れ? や、やだな~。生徒に口説かれちゃった……かな? は、ハハハ。アハハハ~……」
結構ガチ目に照れてるよ学園長。それどこじゃないでしょうに。
だが、今のミケ。かなり真剣な。それでいて嬉しそうな顔してた。まるで尊敬していた有名人が目の前にいるような……感じの。なんとなくの雰囲気だけど。
「でも、さすがに僕も限界みたいなので。一つだけ良いでしょうか……?」
「え、あ、うん。なに? どうしたの?」
「彼女の処分を……軽くしてもらえませんか?」
「……君に怪我をさせたのに?」
「それは僕の体が弱かったからさ! だからこれは僕が悪い」
学園長も……金髪女も……そしてその場にいる全員が絶句した。
ミケよ。そんな大怪我しといて。紳士が過ぎるぞ。
「わかりました。ではこの騒ぎを起こした人全員への処分はなしにしましょう」
「それは太っ腹……です、ね……」
ガクンと膝から崩れ落ちるのを学園長が受け止める。
「……勘だけど。君は強い魔法師になりそうね。では解散! この子は私が連れていきます!」
「ちょ、ちょっと待った! 俺は納得できない! その女は暴力事件の加害者だぞ!」
「そ、そうだ! 学園長ならそんな危険なヤツさっさと処分しろよ! 職務怠慢だぞ!」
「……ん~。君たちはよくわからず契約書に名前書いちゃうタイプかな?」
「は?」
なにを急に的外れな。という顔をするE組男子だが、野次馬の何人かは察したような顔をした。俺もその一人。
「この学園内において私が決めたことは絶対。また、国と世界の法律は私の一存により適用外にすることも許されている。そういう契約のもと学園への入学を許可してるんだけど?」
簡単に言うと契約魔法によってこの学園内は完全に独立していて。学園長という法によって裁かれる。そういう場所なのだ。
とんでもないが事実であり、政府も認めてる。
契約書は入学前に記入し提出してるはずなんだがな。不合格ならば破棄されることもちゃんと書いてあった。
恐らく学園長は記入したはずの契約書のないようについて言っている。
「それに、君たち授業をサボってたよね? 授業中の時間帯にうろうろしてるの見かけたよ。担任の先生にそのあたりは任せてるけど。私個人はサボる子って嫌いだから。むしろ『全員処分なし』に感謝しないとだよ? もう一度、今度は分かりやすく言うけど。この場では私が法律なの。それでは今日のところは食事を済ませたらすぐに部屋に戻ってね」
淡々と事実だけを述べてミケを抱えてその場を去っていく学園長。
その場に残された俺たちも改めてこの学園の異常さを見つめ直していた。
魔法にすがりつくために最後にたどり着いた場所が学園長の好き勝手できる箱庭の中ということを。
……まぁ、あの学園長が好き勝手酷いことをするとは思えないけどな。
たぶん今わざわざ言ったのはその場を穏便に治めるための脅し。
これ以上騒ぐなら……ってね。
「……とりあえず帰ろっか? ミケちゃんには学園長がついてるし」
「そうね。いつまでも突っ立ってるわけにも行かないし」
「あ、明日あたりお見舞いにでも行きましょ」
「んだね。そんじゃバイバイ。また明日」
賀古治。宍戸司。漆羽瀬はそれぞれ部屋に戻っていく。
和宮内は怖い顔をしてまだその場に残っている。
「……お前は帰らないの?」
「…………天良寺くん。彼はスゴいな」
「あ? あぁ。そうだな」
ミケのことだろう。あいつのことで思うことでもあったのかな。たしかに珍しくかっこいいと俺も思ったしり惚れたか?
「とっさのことなのによく知らない他人を守った。そのあとも大怪我をしてるのに平然を装って話していた」
「……そうだな」
なんであんなスゴいのと友達やってんだろうな俺なんかが。本当に不思議なことだよ。
「私はなにもできなかった。なにもしなかった。ただパニックになってただけで。ただの野次馬で」
そういう意味じゃミケ以外の全員がそうだな。俺なんかなんとかしようとも思ってなかったよ。
……俺じゃあどうにもならないって身に染みてるからな。
「私は彼を尊敬する。私の目標は彼だ」
「そっか」
ご勝手に。お前のしたいようにしろよ。
「ハハ。簡素な返事だな」
「……悪いな」
「いや良いんだ。誰かに聞いてもらいたかっただけだから。だから、ありがとう。私も帰るよ。また明日」
「おう。またな」
和宮内は言うだけ言って帰っていく。ま、さっきよりかはスッキリしたような良い顔してたし。良かったんじゃないかな。
「そういえば。お前大人しかったな。結構好戦的だと思ってたんだが」
珍しいというかなんというか。リリンはずっと俺の近くで黙って事の成り行きを見ていただけだった。
てっきり突っ込んで金髪女縛り上げるものかと。
「我への敵意も、お前への敵意もなかったからな。我も戦うのは好きだが殺戮者ではない。せめて互いにやる気でなければな。それと好みを言えば後手が良い」
なるほどな。たしかにいつもヤられてからとかアクション起こされてってパターンだった気がするわ。
「まぁお前が襲われた場合は言われずとも戦ってやるさ」
「それは心強いことで。……帰るか」
「ウム」
いつもどおりの俺たちの空気感。先程の騒ぎがなかったかのようなやりとり。
正直言って、今自分がこんなに落ち着いているのが不思議で仕方ない。
友達が大怪我していたのに。
ミケが平然を装っていたからだろうか? それとも俺が冷めてるからだろうか?
もしも、またさっきみたいなことがあったら。俺は……どんな気持ちになるんだろうな。……どうするんだろうな。
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