91頁目 兄弟パーティと双侍鬼
「おい! 気を付けろよ!」
「大丈夫ですよ!
全身に風をまとわせて、一気に加速して敵
「よっし!」
……久々の怪物討伐である。
四月七日。暑季に入って一週間と一日。ようやく晴れて私の
ギルド側のミスとはいえ、
そして、二ヶ月前の事件というかやらかしから、討伐依頼受注には必ずパーティで行うこと。ソロで活動している人は臨時でパーティを組んで受注することと決まったので、私は人が集まるまでいつもの受付の兎型獣人の男性と世間話をしていた。
理由はすぐに分かった。銀ランク三人銅ランク一人の四人構成のパーティが一緒に依頼を受けてくれることになって詳細を聞いてみたのだが、これが何と数少ない歴戦個体の討伐依頼であった。ということはあの
四人のパーティは、銀に一人女性、後は男性で、全員が同じ種類の犬型獣人だった。獣人族は本当に多種多様おり、獣人のみの集落があったとしても、そのほとんどはバラバラの種類であったりする。この理由としては長い年月の混血によって、
ともかく、同じ犬型といってもその種類は様々。その中でも同じ犬種の獣人のみのパーティとは珍しいと思ったのだ。聞けば四人は兄弟だとかで、上からアジャン、ドゥヴ、リータゥ、チィットゥだそうだ。ちなみにリータゥが女性。
依頼内容は、コルヒの農園よりも更に北部にある集落付近にて、歴戦と思われる
アネモネは最初から魔剣ノトスの中に待機しており、久々の戦闘にウキウキしたような
「アージの武器は
「ぼ、ぼくは片手
「あたしは両手剣」
「チットは
それぞれ武器の紹介をしたのだが、何だこの極端な前衛寄りな武器構成は……
それと、片刃剣とは日本刀のような
「えぇと、私は弓矢と片手剣ね」
今回
移動には馬車の足でも
ハッキリとした姿は確認出来なかったようだが、姿形からして明らかに鉄大鬼種のようだ。肌は黒っぽい。戦鐸鬼が
そして目撃のあった北部へ向けて移動を開始する。
ただゾロゾロと歩くのではなく、いつかのタルタ荒野でカトラさんのパーティと組んだ時のように陣形を組んでいる。今回は弓矢による遠距離支援が出来る私が中央、先頭を長男のアジャンさん。後方に次男のドゥヴさん。右翼に長女のリータゥさんで左翼に三男のチィットゥさんという形だ。
私は
この周辺は
ここより更に北上すると、
「周りが木々に
長女のリータゥさん
現在、相手には動きはなく、どうやら武器の手入れをしているらしい。そんな知性があるのか。
「作戦を説明する」
長男のアジャンが切り出して、簡潔に言葉が
距離はまだ十分にあるので、相手には気付かれていない模様。ここからジリジリと距離を詰めていき、私の矢の射程範囲に入った所で停止。矢を放った瞬間に一気に駆け出すというものだ。
それぞれの距離が離れているので、言葉ではなく
事前の打ち合わせに
足場が悪いので
それぞれ緊張しないようにゆっくりと息を吐く。緊張してしまうと、その張り詰めた空気が相手に伝わり気付かれることもある。奇襲を仕掛けるならより自然、空気と一体となることが重要なのだ。
私は、ゆっくりと
矢の先端に風をまとわせ……発射した。
その瞬間、放たれた矢に続いて四人が同時に走り出した。その音に気付いたのかようやくこちらを向いた鬼だったが、既に矢は目の前。風魔法によって加速していたこともあり
敵の様子を
「「
周囲は湿原地帯。水は豊富にある。そこに氷魔法によって巨大なトゲをいくつも生み出すことで相手への追撃と動きの制限を行う。そこに抜刀の構えで接近するアジャンさんとクルクルと薙刀を振り回して勢いを付けるチィットゥさんが更に斬り掛かった。
「たあっ!」
「せいやあっ!」
しかし、そこは流石歴戦個体。氷魔法による
だが、双侍鬼はそれを気にする間もなく受け止めていたもう片方のアジャンさんに狙いを定め、空いた左の刃物で切り裂いた。今度は、ドゥヴさんは位置的に間に合わないし、受け身も取れない。しかし私が間に合った。
ノトスを抜いた私は一気に加速して左の刃物を受け止めて、軌道を変えて
そこでバランスが崩れた隙を突いて、体勢を立て直すべくアジャンさんは距離を置いた。そこを追撃されないようにとドゥヴさんが氷魔法で
「ありがとう!」
「気にしないで下さい」
そう答えて私はノトスを地面に突き刺して再び弓矢を構えて、放った。ドゥヴさんに気を取られていた双侍鬼だったが、こちらの動きを察していたのかすぐに身体を
身長一〇ファルトともなると、当然その脚も長い。それによって一歩の距離が長く、
「くっ」
「おい!」
「大丈夫ですよ!」
しかし、弓矢の距離であったことで、その一瞬の距離でも一瞬の時間があるだけに、そのほんの僅かな時間でノトスを抜いて受け止め、そこから受け流すことに成功していた。
だが、鬼はその勢いを止めるどころか更に一歩前に進み出て、私とアジャンさんの間を駆け抜ける。
「しまった!」
狙いはリータゥさんとチィットゥさんか!
「氷結晶・
両手剣を突き出すと同時に、地面から一本の人一人分の太さの長い槍が突き出された。それが命中することはなかったが、直進を防ぎ、ルート変更を
そのほんの小さな遠回り、そのほんの一拍の時間。その小さな空白が生まれたことで私は追い付くことが出来て背後から急襲する。
「
それを
当たり前だが、空中では踏ん張りなど利かないので、振り抜かれた勢いで私は距離を開けることになる。だが、相手をするのは私だけではない。今度はドゥヴさんが接近。リータゥさんが生み出した氷の槍に触れて、爆発させたことで再び礫の嵐が襲い掛かる。それに、ノトスは受け止められてしまったが、風魔法までは防げていない。その二つの魔法によって、鬼は更に傷口が増えた。
いずれの攻撃もダメージは体表に細かい傷が出来る程度でほとんどないに等しいが、ちまちまとした攻撃の応酬に、
脚が止まった瞬間を狙って、今度はアジャンさんとチィットゥさんが武器に炎をまとわせていた。
「「
正面と背後と二方向からの同時攻撃。しかし、それもまた再び二本の
「
風の刃を飛ばしつつ考える。突破口は……いや、突破口はある。ノトスの、アネモネの力を引き出せば可能だ。そして、せっかく私だけでなく他にも仲間がいるのだ。となれば、タルタ荒野のように連携魔法と行こうではないか。
私の意思を汲み取ったのか、ワクワクといった感じの風で私の
異世界諸国漫遊記 木入香 @ki-rika
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界諸国漫遊記の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます