90頁目 秘密の暴露と骨董銃
「ギンゼルさんに相談があります」
翌日、ギルドの帰りに再び工房に寄った私とアネモネ。彼女は早速おもちゃ作り遊びに取り掛かった。私は、丁度休憩に入ったばかりで水筒から水をコップに移していたギンゼルさんに話しをする。唐突な切り出しに、水を飲もうとしていた彼の手が止まる。驚いた様子であったが、すぐに真剣な表情となる。
「どうしたいきなり?」
「ギルドから、近い内に私の
「俺に出来ることと言えば、装備の整備点検くらいだが?」
「それもですが、私達二人を、この工房に住まわせて欲しいのです」
「はぁっ? ゴホッゴホッ、突然、何言い出すんだ」
聞きようによっては、
「突然と言いますが、これは以前あなたの方から提案したことと記憶していますが?」
「まぁ言ったな。
「はい。そのお言葉に甘えようと思いまして」
「だが、そん時に、あんたらには明かせない秘密があるって言ってたから断っただろ?」
「そうですね。ですから……その秘密を明かすことで、その問題を
「はぁ?」
「元々、あなたにはアネモネの異常性は知られています。しかし、そのことは誰にも
「そう思ってくれるのは嬉しいが、良いのか?」
「はい。むしろ、協力者がいてくれた方が、今後都合が良いのです」
「そうか、分かった。どうせ裏切ったらどうなるか分からんしな。ここに更に秘密の一つや二つ増えたところで、これ以上悪いことにはならないだろう」
そこもちゃんと覚えていたようで。しかし、これで話しやすくなった。と、そこでギンゼルさんがコップを作業台の上に置いて入り口まで向かう。
「込み入った話になるなら他の人が来ない方が良いだろ? 店仕舞いしてくるからちょっと待ってろ」
「お気遣い感謝します」
私も彼の指示の下で片付けの手伝いをする。その最中に「何だ。もう店仕舞いか」と冒険者のお客さんがいらっしゃったが、ギンゼルさんが「悪いな
「良いのですか?」
「最近飛び込みが多くてね。それでいて注文内容が鬼畜ときた。だから良いんだよ」
「でもさっき、お客さんが増えて良かったって……」
「あー忘れた忘れた。ほらさっさとやっちまうぞ」
色々と雑だが、その雑な中でも確かな優しさが見えて嬉しいと同時に
作業は間もなく終わり、店の奥の作業場へと場所を移す。
「アネモネ」
「はいですわ」
頃合いを見て、私はアネモネを呼んで横に立ってもらった。
「じゃあアネモネ、お願いね?」
「分かりましたわ」
そう言った彼女は、次の瞬間、柔らかい風が吹いたと思ったら彼女の姿が消えていた。
「は?」
開いた口が
「これが、私達の秘密なんです」
「姿が消えた……?」
「正確には違います。元の姿に戻っただけです」
「元の……?」
「はい。こちらが、アネモネの本来の姿です」
そう言って
「剣?」
「
「ま……けん……だと? 本当に存在していたのか」
「そうですね。私もそこそこ長く生きていましたが、この目で見たのはこの子含めて三本だけですね。内一本は剣の形ではなく別の武器でしたが」
「そうなのか。で、さっきの
「ですから、アネモネは元々魔剣だったのです。それが実体化して風の精霊として独立した生命として存在しているのです」
「はぁ?」
この話を始めてから驚いてばかりである。まぁ私もいきなりこのような話をされても、急に信じることは出来ないかもしれない。ただ、前世と違い、魔法も亜人も
「
「そ、そうか……いや、しかし、驚いたな」
「私も最初見た時は驚きました」
「経緯を聞いても?」
「話せる範囲であれば……」
それからはいくつか話をしたが、魔剣の素材は話すことが出来たが、その他、どのようにして実体化したのか、精霊とは何か、何故その姿なのかなどの質問に答えることは出来なかった。私も知らないこともあるし、アネモネ本人も分かっていないこともあるようなので仕方ないことである。
「ということで、宿屋暮らしでは、いつか
「つうか、俺に拒否権ないだろこれ。秘密を知ってしまった以上は受け入れないと、どうなるか分からんのだろ?」
「ふふっまぁそういうことにしておいて下さい。私としては都合の良い隠れ家が欲しい。あなたはそんな私に脅されただけ。それで良いんじゃないですか?」
「エルフ族っていうのは、皆がそんなにおっかない存在なのか?」
「私の知る
「多少か?」
「何か?」
「いえ、何でもない」
「そういうことですので、よろしくお願いしますね」
「分かった。で、具体的にはどうすれば良い?」
「部屋だけ貸して下さればそれで良いです。ようは、私とこの子は一心同体ですが、この子の見た目はまだまだ幼い子供。当然冒険者登録は出来ませんので、私が依頼に出る時には、一応宿に置いてくる
「つまり、俺は仕事でずっと工房にいるから、俺があんたの代わりに嬢ちゃんの面倒を見ている
「そういうことです」
「分かった。じゃあ部屋の案内するから来てくれ」
「ありがとうございます」
それからは、エルフ族の
「ここだ。他にも空いている部屋はあるが、一応ここが一番広い。まぁ好きに使ってくれ」
「ありがとうございます。それと、工房の機材をお借りしても良いですか?」
「ん? まぁ、お嬢ちゃんがずっと使っているから今更だな。いいぞ」
ウチの娘がすみません。
再び一階へと降りて奥の作業場へと進む。そこで私はずっと
「これは驚いた。それ銃だったのかよ」
「珍しいですか?」
「まぁな。俺もこの仕事していて色々な武器を見てきたが、銃を扱う冒険者なんて過去に二回くらいしか見たことがないな」
これは銃自体の数が少ないことが原因なのだが、その理由として挙げられるのが生産性の低さである。複雑な機構を持つ銃の生産は部品の一つ一つの加工が面倒で、それを手順通りに組み上げないと引き金を引いた瞬間に暴発などの事故になりかねない。
遠距離攻撃といえば武器ならば弓矢が定番で、他には
ジストでならば、貴族階級でなくても数は非常に少ないが、一定数の使用者がいた為に弾を扱う工房もあったが、ジストは鉱石の採掘、加工で成り立っている国家なので出来る。エメリナでは銃を扱う工房そのものがなかったことで、
「整備もだが、やっぱり弾代だよな。どんな武器もそうだが、手にしていきなり使える訳がないから当然練習が必要だが、そうなると練習で大量に撃っちまったら大損だな」
「そうですね。私も、弾代を抑える為に、
「そんな方法があるのか。じゃあ馬鹿正直に実弾撃ってる奴らは
雑談をしながら私は慣れた手付きでバラし作業に入る。取り外した部品は、いつも同じ場所に置いていき、ちゃんと
「俺は銃を作ったことがないし、整備の依頼も受けたことがないから初めて見るが、こんなにも複雑だったのか。いや、だが、この部分、こことかここは見たことも聞いたこともない作りだ。もしかしてこれ、
骨董銃。古い時代に使用されていた銃で、現代生産されている銃はその骨董品を
現代銃は骨董銃と比べて生産性は高いものの、性能は低く、仮に同じ射程距離を実現出来たとしてもその命中精度と威力に差が生まれる。
国にもよるが、骨董銃は美術館や歴史資料館などで展示されていることが多く、使用している人はただでさえ少ない銃の使用者の中でもほんのごく
壊れても、自分で修理出来ないならただの長い棒だ。それに骨董銃はその希少性から高値で取引されることが多く、仮に故障や劣化などで弾が撃てない状態だったとしても、歴史的価値があるとかで売買されることがあるらしい。
「今の銃の形態になったのは、大体三〇、四〇年くらい前でしたか?」
「さぁな。国によっても違うだろうし。少なくともスクジャで見られるようになったのは、二〇年くらい前かな。それ以前は知らんが、やたらと簡単な形をした銃らしき武器自体はそれよりも昔からあるらしいぞ」
現代銃の歴史は浅いのは知っていたが、思ったよりも新しい武器らしい。となると、父が冒険者の時代は、銃の存在そのものが貴重な存在だったということか。本当に父、あなたは何者だったのですか。ただの人間族の冒険者が、骨董銃に不自然に容量のある
どのくらいの性能差があるのかは、現代銃を使ったことがないので分からないが、前世の時代で考えれば、私の銃が一次大戦や二次大戦で使用された銃であると仮定すると、現在出回っている現代銃は江戸末期から明治初期くらいの差はあると思われる。その差はざっと半世紀、五〇年以上はある。
少なくともハーフとはいえエルフ族の私からすると、五〇年はあっという間だ。しかし、それはあくまで必要に応じて技術発展が行われての五〇年であって、魔法が主流のこの世界では銃の必要性は低い。よって、実際は一〇〇年くらいの技術差があるのでないかと思われる。
まぁ、この銃は父の形見であることから、少なくとも一五〇年。
「ということで、弾が欲しいので作ってくれませんか?」
「……はぁ……分かった。形は良いが、素材は何だ?」
「後で教えますよ。文字はまだ少し不慣れですので、口頭になりますが」
「分かった。いくつだ?」
「この
「あんたが一番鬼畜な気がしてきたよ」
失礼ですね。私はエルフですよ。決して鬼ではありません。
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