77頁目 赤いユリと蔓鞭植
何度目かの休憩を
休憩の
剣と精霊との間には、別に有線で繋がっている訳でもないのにも関わらず、どういう理屈か魔力の行き来が出来ているようだ。一体どういう仕組みなのか疑問に思う。
日が沈み始め、暗くなってきた時点で、犯罪者のギンゼルさんが光魔法で光球を生み出してくれたことで、ぼんやりとだが周囲の様子が視認出来、活動することが出来ている。
任意の場所に光球を出せて光量も調整出来るので、ギンゼルさんのような職人にとっては暗い場所での作業で非常に重宝する魔法だろう。音魔法に関しては、集中する為に周囲の余分な音を
「そろそろね。アネモネ、お願いね」
「はいですわ」
声量を
アネモネは魔剣ノトスの精霊だ。そしてノトスとは前世のギリシア神話に登場する南風の神様の名前。その神の名に恥じない
「おぉ、風魔法も使えるのか」
「むしろ、この子は風の方が得意ですね。私も風を使うのですが、残念ながら足下にも
「すごいな」
「自慢の娘ですから」
ここで、私が使える魔法を風と言語の二つに
「こっちですわ」
「そのようね。ギンゼルさん、匂い分かりますか?」
「あぁ何か甘い匂いだな。これがそうか?」
「はい。
「あ、あぁ、分かった……」
アネモネが先行して、その後を私とギンゼルさんが付いていく形だ。基本三角形のような陣形だが、幅が
しばらく進むと、目的の花を発見する。
「薄い赤色ですね。ジストでは白色でしたが、
「わ、分かった」
緊張した
瓶一本分の蜜を採取出来たところで、
「出来るだけ急ぎましょう。ここは夜猛鳥の縄張りですが、その他にも蜜の匂いに誘われて様々な野生生物が寄ってきます。それらと
「あ、あぁ」
「アネモネ」
「道案内はお任せですの」
「お願いね」
来た道を戻ろうとした時に、アネモネの足が止まった。
「アネモネ?」
疑問を口にするが、私は既に警戒態勢に入っていた。何か来る。
「残念ですが、
「なっ……」
すぐに
「
「おいおい本当かよ」
「お母様、四体ですわ」
「意外と少ないわね。まぁ蔓鞭植のいる森だからね。食べられたか元々少数で活動しているか。周囲の様子に気を付けて、
「はいですわ」
その瞬間、アネモネから魔力が
風が
「なっ……」
驚きで言葉が出ないギンゼルさんを放っておいて、私は弓矢を構える。先程からエルフ族特有の長い耳にキンキンと超音波のような高音域の音が響いていた。非常に聞き取りづらいが、間違いない。夜猛鳥である。恐らく縄張りに侵入してきた狼鳥竜を追い払いに来たのだろう。
音を頼りに、暗闇へと矢を放つ。風を切る音がしたと思ったら、何かが刺さる音がした。命中だ。しかし、姿が見えないので、どこに当たったのかまでは確認出来ない。
一方で、アネモネは狼鳥竜四体とぶつかり合っていた。
「お母様」
「駄目よ」
「えー」
「えーじゃないわ。目的を履き違えないで」
「ぶー分かりましたわ」
一応、ギンゼルさんもただ守られている訳ではなく、光魔法でいくつか光球を生み出して周囲に展開することで、昼間程の明るさは望めなくとも、戦闘を行うには十分な光量を得ることが出来ている。
私達の方に、私達とは違う風が飛んできた。夜猛鳥の風魔法だ。直接傷を付けるような効果はないが、その風によって私が放つ矢の
ならばと、
「
呪文は
剣をフェンシングの突きのように前へ押し出し、その勢いに
姿はぼんやりとしか認識出来ず、羽音もしないので、超音波のような高音の鳴き声を頼りに位置の予測を立てる他ない。雷魔法の応用で索敵用である
アネモネの方は、二体目に傷を負わせることに成功したようだが、それでもまだまだ四体ともピンピンしているようで、引っ切りなしにアネモネに襲い掛かっている。四体全ての攻撃を、その場からほとんど動かずに全て対処し、自身は傷一つ付いていないので本当にすごいと思う。
時折、狼鳥竜がギンゼルさんや私を襲う
と、ここで、アネモネが何か
「どうしたの、アネモネ?」
「お母様、もういっそのこと、アレを使いますわ」
「アレ?」
何のことだろうか。
疑問が解消さぬまま、彼女は行動を起こしていた。
「そいやーですわ!」
空中で振り回される剣に
「「は?」」
思わず私とギンゼルさんは声を出してしまった。何と地面に降り立ったはずの狼鳥竜の姿が消えたのだ。そしてそれからすごく嫌な予感がする。周囲の木々や地面を
「嘘ぉ!」
思わず叫んでしまった私は悪くない。
こんなにも近くに
元気に
私は息を吐いて、右手に魔剣を
そう思っている間に、動きの鈍った三体を相手に
いや、終了ではなかった。
「どうするのよ。これ?」
先程思ったことを、今度は口にする。
周囲に展開された蔓鞭植の迷路。しかも壁に触れた
かといって、
「それで、アネモネ? 何か手段があるの?」
「ありませんわ」
「ないの?」
「んーないこともないですわ」
「ハッキリしないわね」
「捕まらなければ良いのですわよね?」
「まぁ、そうね」
「それでしたら、捕まえる蔓を全部切り落としちゃえば良いのですわ」
「それが出来るのかどうかは聞かないわ。出来るから言っているのだろうし。だけどね、あまり周りの自然を壊して欲しくないかなぁって……」
「無理ですわ♪」
「えー……」
「お母様言っていたじゃありませんか。わたくしの名前はどこかの国の神話に登場する破壊の風の神の名前ですわって」
「まぁ、うん」
「その名に恥じぬ素晴らしい働きをしてみせますわ!」
「あぁ、はい。もう好きにして……」
もう娘の暴走を止めることは出来そうにない。
周囲が蔓で囲まれて逃げ道はないにも関わらず、親子二人で
「どうするんだよ。このままじゃあ死んじまう! どうやって逃げるんだよ!」
「さぁ?」
「さぁって……」
「私の娘が何かを思い付いたようですので、とりあえずお任せすることにします」
「そんな無責任な」
「まぁ周囲を、この
「はぁ?」
私達が会話をしている間にアネモネの準備が整ったようだ。彼女から「頭を下げて下さいな」と言われたので、ギンゼルさんの頭を抑えて地面に押し付けて、私も姿勢を低くする。すると突然竜巻が発生した。
ものすごい
ここは丁度、竜巻の中心部であるが、風の影響はほとんどなく
風が
夜中である為に詳しい状況は分からないが、どうやら結構広い範囲を荒れ地の更地の空き地に整地してしまったようだ。草木は勿論、蔓鞭植も細かく切り
私は、やはりかと呆れて溜め息を
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