72頁目 古代の文字と娘の寝顔
「それは何ですの?」
「多分、古代エルフ文字だと思う。といっても私がそう呼んでいるだけで、実際に別の名称があるのかもしれないけどね。この服の模様を見てもらって良い?」
「わぁ、美しいですわね! アレ? これ、この石に掘られている形に似ていますわ」
「そう。この服の文字と思われる記号はね、私達の種族に代々伝わるものなの。とはいえ誰も読むことが出来ない失われた言語なんだけどね」
「誰も読めないんですの?」
「分からないわね。少なくとも私の
あらゆる言語を
現代の主な使い方としては、リンちゃんの父親が外交官みたいな役職で他国と交渉する際に言語魔法を
ちなみに、私はこの世界に生まれ落ちてから、少なくとも自我というものを持ったと認識した頃から
「ライヒ王国かな」
「? どこですの?」
「この山の向こう側よ。私達がいた国との間にこの山がずっと壁のように続いているから、隣の国ではあるんだけど交流がほとんどなくてね。主に北西の隣国であるベベリー王国経由で情報を得るくらいよ」
「んーよく分かりませんわ」
「まぁ、そういった地理などに関してはゆっくりと覚えると良いわ」
「はいですわ!」
うん、素直でよろしい。
せっかくこのウェル山脈を降りれば反対側の国、ライヒ王国へ行けるのだから次の目的はそこにしようと決める。ただ、降りると簡単に言うものの、一枚の壁のようにある訳でもなく、いくつもの山々な
「今年中の下山は無理そうね」
「飛べばすぐですわよ!」
「いや、私飛べないし」
「そうでしたわ!」
本当に私の娘は規格外である。
しかし、ライヒ王国へ行って仮に言語魔法を使わずとも会話が成り立った場合、私は知らずの内に言語魔法を習得していたことになり、最大でも二つの魔法が原則のこの世界に
転生特典であらかじめ言語習得とかあったのかもしれない。世界を旅する目的なのだから、会話がスムーズに進むのは悪くないしむしろ良いことなのだが、どのように
他国での活動中は回復魔法を使用しないようにするべきか。何だかまた面倒だが、自分がやりたいと決めたことなので
会話が出来るならそれで良いが、次の問題は文字に関してはどうなのだろうかということ。こちらは、この世界に生まれてから父に教わりながら文字を覚えたので、恐らく共通リトシ語しか読み書きが出来ないと思われる。
言語魔法の持ち主は、会話だけでなく読み書きのスキルも魔法発動と同時に得られるはずなので、会話は出来るのに文字が読み書き出来ないというのは不自然だろう。ここはエルフ族特有の、習得まで時間が掛かるという言い訳を用意しておくことにする。
エルフ族は文字が書けないが定説であるので、多分それで通ると思う。
しかし、もしも私が言語魔法を使えたとしたら、この文字を読むことが出来たのだろうか。それとも魔法を使っても解読出来ない
「とりあえず記入しておくわ。これが文字なのかただの記号なのかは分からないけど、どちらにせよ正確に模写する必要があるから時間が掛かりそうね。アネモネは好きに過ごしていて良いわよ? あ、でもあんまり遺跡壊さないようにね。それと、何か気になることがあったらまた呼んで?」
「はいですわ!」
そう元気に返事をして、彼女はフヨフヨと浮かびながら遺跡の周りを浮遊していた。だからワンピースの中の下着が見えるから
溜め息を
そうやって次々と記入しては移動しを繰り返し、空中散歩に飽きたのか私の頭上で浮かびながら寝るという器用なことをする娘にまた
暗いと思った時に、つい無意識に
「アネモネ?」
「ふわぁ~あ、あぁ、お母様ぁ……」
「うん、可愛いけど、とりあえず夜になったから野営の準備しようか。丁度、遺跡の中なら雨風、いや雪風は防げそうだから中に入ろうと思うのだけど、危険はなさそう?」
「ん~大丈夫だと思いますわ。少なくともわたくしの魔力感知には何も引っ掛かりませんわ」
「ありがとう。私以上に頼りになるわね」
「そんな! わたくしはお母様あってのわたくしですわ! お母様がいらっしゃらなければ、わたくしなぞいる意味がございませんわ!」
「すごい
「当然ですわ!」
「まぁいいわ。それじゃあ野営の支度するから手伝って?」
「はいですわ!」
まぁテントも調理道具も寝袋などもないので、ただ
「私の服のこの一文字とかこの文字? に似ているから、多分古代エルフ文字だけど……」
それの読み方や意味などはサッパリ分からない状態である。
前世でも
対してこの古代エルフ文字、私の知る限りでは、この文字を研究している人はいないと思われる。そもそも継承すべきエルフ族が、古代エルフ文字どころか文字そのものを損失するという退化を果たしたのだから研究するだけ無駄なのかもしれない。
私も何度も本に書き写した記号と、記憶にある共通リトシ語から共通点を見出そうとしても、全く繋がりが見当たらなくて、早々に投げ出したくなってしまった。
「うーん、分かんない!」
というか投げ出した。
「ん、お母様ぁ……」
「あ、ごめんね」
寝ていた我が子を起こしてしまいそうになった為、優しく頭を撫でてご機嫌を取っていると
アネモネはまだこの精霊としての身体を持って一日しか経っていない。にも関わらず、初日の夜は私が倒れてしまったことで看病してくれ、その翌日は
起きている時は元気が有り余っている様子であったが、見た目通りまだまだ幼いのだろう。幼い子供が公園で遊ぶ時に、まるで
「頭が良いから、つい無理させ過ぎちゃったわね」
普通の人間ならそうなのだろうが、この子は精霊。しかも私の魔力から生まれたからか、その身体の特徴にエルフに似た少し
「母親としてまだまだね」
そう、この子は魔剣として生まれたのは半年前、そして精霊の身体となったのもつい昨日のこと。幼くて当然なのだ。子供本人が気付かない信号をいち早く
いや、別に親になったつもりはないのだけれど、こう何度もお母様と呼ばれれば、
「ん~お母様ぁ……」
こんな優しい寝顔な上で、寝言とはいえそんな甘えた声で呼ばれてしまえば、もう撃沈、轟沈間違いなしである。
ただ、普通の子供と違うことは……
「さっきもだけど、寝る時も浮くのね」
ずっと私の周りをプカプカと浮きながら寝ていることだろう。可愛いから問題ないと言えば問題ないのだが。
「浮いて寝るということは、
また、一部分への体圧の負荷から来る血流、酸素と栄養の
「さて」
古代エルフ文字が解読出来ないことからの、現実逃避というか夢物語に思いを
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