68頁目 魔剣の擬人化と案件疑惑
「うーん……?」
あれ? 私はどうしていたのだろう?
ゆっくりと
「はっ」
思わず飛び起きる。
「はぁ、はぁ、あ、あれ?」
自身の状態を確認しようと思ったら、辺りが暗闇に
「え? よ、夜? じゃなくて、私、生きて……あれ? でも
「落ち着いて下さいませ。ご安心下さい。アレは、お母様の手によって倒されましたわ」
混乱の渦の中にいた私に、そっと知らない声が掛けられた。しかし聞き覚えのある声。確か、意識を失う直前に聞いた声のような……というか、お母様?
声のした方を見ると、私の右側に、ちょこんと座った二歳か三歳くらいの幼女がいた。
誰? と問う前に、ある光景に目を
「そ、それ……」
「これですか? はい、ご存知の通り、ノトスでございますわ」
幼女は、本人の身体よりも長いその
「はぁ……ふぅ……」
呼吸を整え、状況をまとめる。
まず周囲を見れば、ここは私が……多分昨日、時間経過の感覚が
そして、周囲が暗いはずなのに、こうして色々と認識出来ている理由。
次いで自身の身体の状態を確認する。
痛みはない。骨折したと思われる場所も、特に何ともなっていないようだ。その他も、
夢だった……?
「いいえ、夢ではありませんわよ」
疑問に答えたのは、やはりこの正体不明の幼女であった。
見た目は人間族のようだが、耳が若干
エルフ族と人間の中間のような見た目だ。ちなみにハーフエルフだからといって耳の長さが半分になる訳ではなく、長さ自体は普通のエルフと同じである。つまり、見た目で
身長からして人間族に当てはめると二歳か三歳くらいなのだが、身体付きが
髪は地面に着くのではないかと思われるくらいのロングストレート。色は
「
そう翡翠のような色合いである。
クスクス笑う彼女は「はいですわ」と答えた。子供のような
「あなたは誰?」
ようやくの質問だ。
長い時間、無視されていた形になるにも関わらず、一切不機嫌な様子を見せることもなく、私の言動を楽しそうに見つめていた。
「わたくしは、ノトスですわ」
「……はい?」
どういうこと?
驚き固まる私を見ても子供っぽい笑顔のまま、彼女は抜き身の
思わず受け取ったが、手元のノトスからはいつもの意思というものが感じられない。むしろ、目の前の幼女からすっかり
「本当にノトス?」
「はいですわ!」
彼女が身に付けている物は、
「えぇと、寒くないの?」
「寒さは感じませんわ! むしろ、ずっとポカポカしていますの!」
元気に答えるその姿は、まさに子供のようであるが、そのちょっと背伸びしたような口調はともかく、身にまとう雰囲気からただ者ではないことは
「精霊ってこと?」
「さぁ? 多分そうなんじゃないですの?」
「多分?」
「わたくしもよく分かりませんの。気付いたらこのような姿になっておりまして、岩人形を倒して倒れてしまったお母様をここまで運んで
「それは、その、ありがとう」
「はいですわ!」
明るく元気の良い子である。
色々気になることが多いが、
「その、お母様って誰?」
「お母様はお母様ですわ。わたくしを生み出して下さった、あなた様以外いらっしゃいませんわ」
「私が?」
「はいですわ! お母様の魔力をずっと受け取り続けて、ようやく実体化することが出来るようになりましたの!」
答えを一つ得たら、疑問が増えた。しかし、彼女のことを知る為には一つ一つ
「えぇと、つまり? 魔剣ノトスが私の魔力を吸い続けていたことで、精霊? の姿のあなたになったと。そして、あなたはノトスそのもので、相棒と?」
「はいですわ!」
「剣だった頃の記憶はあるの?」
「もちろんですわ。お母様との生活は、その全てが忘れがたき大切な思い出ですわ。ただ、ちょっと退屈していた時は何度もありましたわ」
「あー魔力制御の為に全然使っていなかったからね……」
「ですが、それももう解決したと思って良いですわ」
その力強い発言に、私は首を
「はいですわ! お母様は気絶されてしまったので、詳しく覚えていらっしゃらないようですが、確かに
「うん、それは一応思い出してきた……かな? でも、気絶していたんだよね?」
「疲労はもちろんですが、身体のあちこちを
「なるほど」
見た目に反して返される言葉はどれも、少なくとも私を納得させるだけの材料を持ち合わせていたことを考えるに、意外と理論的な子なのだろう。見た目に反して。
「というか何でその姿なの?」
「分かりませんわ。ですが、推測は出来ますわ」
「私の魔力?」
「はいですわ!」
よくよく見れば私の幼少期に似ていなくもないかもしれない。残念ながら私が幼かった頃は、鏡なんて物はなく、水に反射した姿で確認した程度なので、あまり詳しく覚えていないのだ。それに、髪の質感はそっくりだろうが色は全く違う。目の色も私が
覚えていないから断言は出来ないが、もししていたとしたら前世の私は痛すぎることになってしまう。
まだ理解が追い付いていない部分がいくつもあるが、とりあえず彼女はノトス本人……本剣? で、それが私の魔力によって実体化して精霊? のような存在になったと。しかし、その格好は何とかならないだろうか。
私も人のこと言えないが、雪山でワンピース一枚。それも
以前の幼女
とりあえず私は上に着ていた
「その服装はちょっとどうかと思うから、とりあえずこれ羽織っておいてね。あなたには大きいから動きづらいだろうけど我慢してね」
「わたくし寒くありませんわよ?」
「見た目の問題。他人から見たら私、あなたを
「そういうものなのですか?」
「そういうものなの。靴の予備はないから、また後で動物を狩るなりして用意するわ。皮の加工から始めないといけないから時間掛かるけど、まだしばらくここで
「もちろんですわ。わたくしはお母様の剣。お母様がしたいことでしたらわたくしの身体、どのようなことにもお使い下さいませ!」
「うん、そういうことは他の人がいる前では言わないようにね」
「?」
無自覚爆弾発言ロリとか、時間が分からない時限爆弾を
しかし爆弾ならば捨てれば良いのだが、私はこの子を捨てることは出来ない。相棒であり、剣の頃のこの子と死ぬまで一緒にいる
それに、彼女は私を母と呼んだ。ならば、親としての責任を
「……母というより姉では駄目かな?」
これまでの関係を
「え? お母様はお母様ですわよ?」
「あ、はい」
アッサリと断られてしまった。
「それじゃあ、ノトス、これからもよろしくね」
「はいですわ! お母様のことは、この身の全てを使ってお守り
まるで騎士のような娘を得た。
それからは、夜が
しかし、彼女が興味を示すのは決まって戦いの話。武器なのだから仕方ないのかもしれないが、その
これから、時間を掛けてジックリとその辺りも直していこうと思う。
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