69頁目 宙に浮く幼女と岩人形の核
雪山で
夜が明け、私達二人は
「これ、私が?」
「はいですわ! お母様の魔力とわたくしの魔力が
「そう、すごいわね」
昨日は戦闘直後に気を失ってしまい、目が覚めたのが夜であったので気付かなかったが、戦闘を行った区域は辺り一面荒れ果て、積もった雪は吹き飛ばされたか溶かされたかで、地面が
現在
しかも、歩いてはおらず、浮かんでいた。
「何で飛べるの?」
「分かりませんわ!」
自信満々に答えられた。
まぁ、精霊だからとか、風を
周囲が岩だらけな上、これまでにない程にバラバラなので、どこからどこまでがあの物体の身体の部分なのか判別が難しいが、これから探すのは核となっていたと思われる部分。こういう存在には必ずあるはずだと、これまでの冒険者生活で得た直感に
「どんな色、形、大きさをしているのか分からないから、思ったよりも時間掛かりそうね。それに、普通の石と同じような素材を核として使われていたとしたら、絶望的だし」
「一応、わたくしも魔力探知で
やはり
そうやって二人して一つ一つの石を、ひっくり返しては
「ねぇノトス」
「はいお母様!」
「あなた、名前どうする?」
「? わたくしはノトスですわよ?」
「そうなんだけどね、これから一緒にいるということは、当然人のいる場所にも
「わたくし自衛くらい出来ますわよ」
「強いの?」
「もちろんですわ! 何て言ったって、お母様の剣ですわよ!」
「それじゃあ、後で軽く訓練してみようか」
「はいですわ!」
幼女と戦闘訓練をすることになったが、一応元々剣なので大丈夫だろう。
「話を戻すけど、強いからと
「……」
ノトスは作業の手を止めて、考えている。私も彼女の答えを聞くことを優先して、しっかり向き合う。
「今すぐ決める必要はないわ。でも、心の
「いいえ、その提案、お受け
「良いの?」
「はいですわ! わたくしの今の名は、作られた時に
「じゃあ、考えてみるね」
「よろしくお願いしますわ!」
それから私達は再び作業に戻り、石をひたすらひっくり返していた。しかし脳内では、
実は一つ、パッと思い付いた名前があった。しかし、それだと何も考えていないように思えたので、何か他に案がないかと考えていたのだ。だが、結局は最初の案に戻ってしまう。彼女を
「ノトス、決めたわ」
「喜んで名乗らせていただきますわ!」
「早っ、えぇと、まだ何も言っていないのだけど?」
「お母様がしっかりと考えていたことは、わたくしにも伝わっていますわ。それで悩んで決められたのでしたら、わたくしに
「そ、そう……それじゃあ改めて、あなたには『アネモネ』の名を
「はいですわ! 喜んでお受け致しますわ!」
ノトスの名前の由来は前世の物語、ギリシア神話に登場する
南風の他にも、北、西、東それぞれの方角にそれぞれ神様がおり、それらを総称してアネモイと呼ばれていた。そして、それが語源となっている花の名前としてアネモネがある。
もちろんこの世界にもアネモネの花はあるが、ギリシア神話がない以上、語源は不明である。
当然、花言葉もこの世界にはないので、この名前に付けられた想いは誰も知ることはないと思う。
花言葉は「
ようはおみくじのようなものだ。後付けでもこじつけでも、共通点を見つけてあげればそこに意味が出る。
ちなみに、アネモネは
「それじゃあ、これからはアネモネと呼ぶからよろしくね。二人の時とかならまたノトスと呼ぶけど、しばらくは名前に慣れる必要があるからアネモネで行くわね?」
「はいですわ!」
こうして、娘の名前が決まった。
それからも作業は続き、そろそろ時間帯としては昼を回るだろうと思われた矢先に事態は動いた。
「お母様、これではありませんか?」
「これは気付かないわね」
その石は、真っ二つに割れているようで、実際の大きさはもう少し大きいのだろうと思われる。
色は
宝石の、例えば
つまり、今手の中にある石は、そんな感じの蒼玉から色の濃い部分だけを取り出したかのような暗い色であるので、
「これが核なのだとしたら、多分魔石の部類。魔石であるなら魔力を
「恐らく大丈夫かと思われますわ。岩や石は完全に本体と分離、更に心臓部もこうして割れてしまっていますので、制御機能は失われていると見て良いはずですわ」
「分かった。一応、念の為に警戒をお願い」
「はいですわ!」
そう声を掛けてから目を閉じ、集中して静かに魔力を送り込む。
危険性なども考慮しながらなので、本当に少しずつ、ちょっとでも
結果で言えば、これは魔石であった。
「……ん」
魔石を持った手がじんわりと温かくなるのを感じてそっと目を開けると、先程まで光を通さない暗い石だったものが、内側から光を放って蒼色に静かに輝いている。太陽のような
「違う」
月でもない。でも月に近い……そう、夜の海の波間に時々チラチラと反射する月の光のような、そんな小さな輝き。
「
「そうだね」
アネモネの感嘆に同意する。
そのまま魔力を注入することを継続しながら、周囲の様子を探る。
「特に石とかが動く気配もないわね?」
「そうですわね……お母様? わたくしにもそれ貸して下さいませんか? わたくしもやってみたいですわ」
「うん、良いよ。気を付けてね」
「はいですわ!」
そういって、彼女の小さな手に載せると、
可愛い。
ただ、私以外に人がいないので問題ないのだが、あまり宙に浮いたままはしゃぐとワンピースの
というか、ちゃんと下、
そんなことを考えていたからか、アネモネから注意が
「お母様! すごいですわ! 見て下さいな!」
「え? あ、うん、どうした……の?」
宙に浮く幼女が、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます