62頁目 酒場のバイトと落ち込み冒険者
ラスパズ村に到着した。そして数週間前と同じように酒場へ行って、ドワーフ族の店主のガルンドさんへまた給仕のバイトをするので部屋を貸して欲しいと頼み、了承を得た。
服装はエルフ族の民族衣装。私のは白や
お客からはご指名で引っ切りなしに注文が入るが、ここそういうお店じゃないので
まぁお
そうやって接客をしていると、ふと奥の席で一人、沈んだ面持ちで酒を
「どうかされましたか?」
「んあ?」
男性のテーブルには何本もの
「
男性冒険者は、量こそ飲んでいるがそこまで酔っていないのか、しっかりとした目でこちらを見つめ返してきた。すると、すぐに驚きの表情となって赤かった顔色がスーッと引いていくのが分かった。
「あ、あんた、フレンシアさんか?」
「はい。はい?」
名前を呼ばれて
その姿を上から下へまじまじと見る。
髪は灰色。
会った記憶はない。多分。思い出せないので直接聞くことにする。
「あの、どこかでお会いしたことありましたか?」
周りの
「あ、いえ、俺の方が一方的に知っているというだけで……あ、俺の名前はマイザー・エテローゼ、です。ジスト出身の冒険者の、特に雷魔法を使う冒険者にとっては、あんたは、『
他国に来てまでその二つ名で呼ばれる時があるとは。
しかし、雷魔法の使い手か。
この第二の冒険者生活に
「マイザーさんは雷魔法を使うのですね?」
「雷と炎です」
「超攻撃的な魔法構成ですね」
人気の攻撃魔法の二つとも持っているとは、中々珍しい。攻撃の
「ところで、他のパーティの方は? 姿が見えないようですけど」
「うっ……」
何か地雷を踏んでしまっただろうか。
「そ、その、お恥ずかしい話ですが、えぇと、今日、追い出されてしまいまして……」
「……え?」
思わず動きが止まってしまう。
追い出された? 追放?
疑問は出るが、ここはとりあえず、ありきたりだが
「えぇと、それは、災難でしたね。そのもし良ければお話聞きますよ? 相談に乗れるかもしれませんし」
彼の隣の椅子に座ってグラスに水を
まずは一個一個整理して、ゆっくり時間を取って話を聞くことにする。もしかしたら、現在の状況を好転させる案が出るかもしれない。
実際に言葉を
「えぇと、その、俺が弱いんで見放されてしまったというか……」
「え?」
弱い?
もう一度全身を見る。防具に隠れている部分は分からないものの、腕などを見るにしっかりと
「弱いとはどういうことでしょうか。見たところ身体付きも問題なく、動きからもどこか負傷もしくは障害を持っているようにも見えないです。魔法も雷に炎であれば、十分な戦力になり
「その、魔法が、どうにも駄目みたいでして……長いこと一緒にやってきたのですが、出会った頃から成長がないと言われて……えぇと、その……」
「うーん? えーと、つまり? 最初の頃は雷も炎も出せることでパーティでは重宝されていたけども、何年一緒にやっていても成長が見込めないから追い出されたと?」
「うっ、ま、まぁそんなところです」
私が
「あの頃は、ちやほやされて嬉しかったんです」
あ、
まぁ魔法の練習は地味だし最初の頃は呪文を覚えるのも面倒だし、イメージしながら長々と
私は鬼教官だったし、何より
「これからどうするのですか?」
聞くに、この村へ来る前に
見慣れない怪物と戦闘になったのなら、まずは観察が重要だ。またパーティ内に情報を持つ人がいたら共有することも必要。敵の特性を理解した上で適切に対処する。初期対応としては遠回りだが、結果として最善となるのだから、連携するのであればちゃんと考えて動かないと駄目である。
ゲームならゴメンで済むけど、現実だからね。たった一つの小さな
「まだ決めてないです」
私は勝手に人が集まって、勝手に付いてこられなくなって、勝手に脱落する感じだったから、私自身が追放をしたりされたりは経験がない。もしかしたらあったのかもしれないけど、当時はただひたすらブラック企業のように次から次へと依頼をこなすことに夢中になっていたから、気にしていなかった。
一通り話したマイザーさんは、私の質問に
今のままでは、仮に別のパーティに入ったところで同じことの繰り返しになるかもしれない。この追放が尾を引いていれば多少は改善されるだろうが、脳筋はそう簡単には治らない。私がそうだ。
ちなみに私は脳筋でもゴリ押せるように、色々と戦う
私の脳筋ゴリ押しで一番だと思う戦法は、雷魔法で身体強化して継続ダメージを受けつつも、それを継続回復魔法で無理矢理回復し続けて
我ながらアホだとは思うが、これが最も簡単で楽なのだ。身体的には楽ではないが、敵の攻撃さえ食らわなければ機動力で
それが出来ずに腕を切り落とされたのは、今のところこの魔剣ノトスの素材となった
「先に言っておきますが、私、今は同行者を必要としていませんので、付いていくという手段はナシです。一応寒くなる前に行きたい場所があるので、足並みが
「あ、はい」
「何ですか?」
何か彼の返事に引っ掛かりがあったので聞き返す。
「その、ちょっとは期待していました。一緒に行けば鍛えてもらえると。ただ、言う前に断られてしまって……それに、言動が噂通りでしたし」
噂とは、一〇年前までのレガリヴェリアでの活動の件だろうなと見当を付ける。
「まだ冒険者を続けたいですか?」
「え?」
断られると予想していたが、実際にその通りになって自分自身に苦笑しているようだ。そこに未練のようなものを感じた。
続けるにせよ、引退するにせよ。真っ当な道を進むなら良いが、これで
「はい、続けたいです」
私の質問の
小さく溜め息を
「分かりました。一週間時間をもらえますか? 私としてはすぐにても
そこで言葉を句切って、しっかりとマイザーさんの目を見つめて続きを口にする。
「私は鬼教官として評判でしてね。新米冒険者を三ヶ月で卒業まで導きました。もし、覚悟がありましたら指導を受けてみませんか?」
「え、良いのですか?」
「やりたくないのでしたら良いのですよ? 私は早く旅に出たいですからね」
「い、いえ! やります! よろしくお願いします!」
「それでは明日朝から早速、村の外で訓練にします。ただし、ひたすら地味で退屈ですよ? 覚悟していて下さい」
そう言って席を立つ。
まだバイト中なのだ。まぁ落ち込んでいる人を立ち直らせるのも同業者としての使命ということで、許してもらおう。
それから接客を再開した私だが、先程の会話を聞いていた他冒険者からも「俺も参加したい」「私も」「一対一でお願いします!」等々の声を掛けられた。最初は一つ一つ断りを入れていたが、それが酒場全体にまで広がると収拾が付かなくなった。
面倒になった私は、全員まとめて電撃によって
スタンガンだから大丈夫。命には別状ない。
一応、店主には当たらないように調整したが、それ以外の店内のお客への
ガルンドさんは苦い顔をしていたが「まぁ全員冒険者だし大丈夫だろ」と言って、店の外へ行き、閉店の看板を出した。
掃除も程々に、机や床で寝ている彼等を放って私は
明日は魔法の訓練でもしようかな。
そう思いながら、手記を書いていくのであった。
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