61頁目 脱獄と夜のスップ草原
楽しくも非常に疲れる魚人島の滞在を終えて本土に戻ってきた私は、荷物をまとめて出発の準備をする。
夕方であるが、まだ教会の
オカマの店主を呼んで、今日までの料金を支払って宿から出た。何でも、この宿が元々は
「それじゃあ、北へ」
今日出発する理由は特にない。
スップ草原に出ると、グリビまでの道を戻る形で進む。途中、日が沈む前に町に入ろうと足早に移動する商隊などとすれ違いながら、のんびりと歩く。時折、もうすぐ日の入りなのに外を
「今日は昼寝をしたから一晩歩き通しね」
日没後は、グリビで買った
「ノトス」
周囲に誰もいないことを確認してから名前を呼ぶ。
その声に反応して、喜びを表現するかのように風が舞う。
この数週間は、全く戦闘らしい戦闘はなく、仮に戦闘になったとしても弓矢や魔法で解決出来、魔剣ノトスというチートアイテムを使用するまでもなかった。魔力制御が上手くいかないと燃費が悪すぎるという点でも、中々に
このことに関して、ノトス側から不満の気配は感じられなかったが、やはり出番がなくて
この子には申し訳ないが、使い手である私の力量不足だ。移動の中で、時間を見つけては魔力制御の修行を、新しい魔法開発と平行して進めているが進展はあまりない。
タルタ荒野で
「ごめんね」
こんな力のない人が主人で。
そっと魔石灯の静かな光に照らされたことで怪しく
すると、鞘に収められた魔剣からの返答か、柔らかく、今の季節には似合わない温かい風がそっと私の頬へ触れた。まるで、気にしないでと言ってくれているかのようで、安心する。
「ありがとう」
うん、もっと自信を持たなければ。この子に選んでもらったのだ。ならば、しっかりと扱えるように頑張る。これしかない。いつまでもノトス自身の制御に頼り切りでは駄目なので、キチンと自分自身で制御を行いつつも全力全開で戦ってもバテないようにする必要がある。
気合いを胸に、暗闇が
時々、光に引き寄せられてか
「粘性体だから顔ないけど」
独り言に慣れるとセルフツッコミも増える。こういう時は寂しいとは思うが、かといって依頼でもないのにパーティを組んでゾロゾロと移動するのは
粘性体は常に狩られる側。新米冒険者のサンドバッグにされ、肉食動物や
まぁ、サンドバッグになるのはそう
「危険性がなければ
多くの生物から狙われる怪物であるが、全く
もちろん生き物だけでなく、
そんな静かに行動する彼等には
そんな冗談を
目指す場所はラスパズ村。
ウェル山脈へ行くには、このスップ街道沿いの集落の中ではラスパズ村が一番近い。その為、一旦あの村に立ち寄って
「昼間に通ると
周囲に聞こえる音は、私の足音以外では風が草原を撫でるものや、時折動物が移動するもの、そして乾季となって涼しくなったから鈴が鳴るような小さな虫の音がちょこちょこ聞こえる程度。
この自然の音だけで安眠出来そうな程の耳心地の良さだが、ここで
してしまうとたちまちに粘性体に食べられてしまうので
「暇だし、魔法の練習でもしようかな」
練習といっても直接撃ち出すものではなく、使いたい魔法をイメージして、それに合わせた呪文もしくは術式と呼ぶものを構成していく作業だ。ここでバンバンやっていたら色々と目立つし迷惑だろう。
「やっぱり改善するとしたら移動系統かな。
移動にのみ魔力を
「難しいわね」
ジスト王国女王ヨウラン様の娘、セイリンちゃんの移動魔法なら使いこなせば呼吸をするように瞬間移動とか出来るのだろうけど……やっぱりあの魔法はチートよね。
「私の魔法も十分強い部類に入ると思うけど、アレ見せ付けられちゃったらなー……それに雷耐性ある怪物、意外といるし」
雷という
いずれにせよ、電気信号を
「思考がズレちゃったわね。とりあえず移動。ノトスを介するから魔力の消費が激しくなるのであって、自分自身の魔力のみで解決すれば問題ない訳だから。当初の予定通り、私自身が雷になるという方向で考えますか」
夜はまだ長く、道もまだまだ続く。思考は終わりを見せないまま、ラスパズ村へ向かうべくその前に点在する集落を目指すのであった。
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