55頁目 王都リギアと獣皮紙
道中は特に何もなかった。もちろん完全に何もなかった訳ではない。様々な生物が息づく大自然だ。当然
「あれが、王都リギア……」
小高い丘を越えた所で、ついにエメリナの中心部が見えた。
ラスパズ村を出発して一週間と二日。途中三つの村を経由してようやく城壁と海に囲まれた巨大都市を目にすることが出来た。
「あれが海」
「
日の光に照らされて、キラキラと輝いて見える。
その前に立ちはだかる
こんなこと、外国人の私に話して良かったのか疑問であったが、お酒を
仮に
昨日立ち寄った村で、少しでも宿代を
隣に座ってそれぞれお酒を注いでやると、すっかり全員酔ってしまい、何も聞いていないのにあの城塞都市のことを教えてくれたのだ。
やっぱり私は悪くない。
「ここから半刻程の距離かな」
まだ一時間は歩くことになるが、ただ闇雲に歩くよりも目的地がハッキリ見えていた方が気合も入りやすい。何もない場所をひたすら
まだ森の中なら、様々な木々や草花を
普通の人なら延々と先の見えない
そんな私であるが、ここで生まれて
「まずは宿を取って、それからギルドに行って……それで海、かな。あ、でも本屋か図書館にも寄らないと……あぁでも海、早く近くで見たいなぁ」
到着してからの予定を組み立てつつ、眼下に広がる城壁に囲まれた都市へ向けて歩き出す。
見た目の印象としては、レガリヴェリアとは大きな違いはない。都市全体を高く分厚い石造りの壁で囲まれ、内側には数多くの建物がひしめき合い、その中心部に巨大な王城が建っているところも共通している。しかし、似ているようで全く違うのが、城壁の形である。
「形が不規則……でも、こっちの方が格好良いかも」
ジストの王都は平地にあり、多少荒野と
近い物を挙げるとするなら、同じフランスの城塞都市であるが、レガリヴェリアはエーグモルトに近く、リギアはカルカソンヌに近いかもしれない。リギアは水辺ということもあり、一部分はスペインの
あくまで造りが似ているというだけで、その規模は数万人が暮らす大都市であることから巨大な物である。それに水辺といってもトレドはタホ川という河川に隣接している一方で、リギアは海辺という違いもある。
「結構、人も多くなってきたね」
王都が近いからか、複数ある門から伸びる道々に多くの人々が行き交っているのが見える。今私が歩いている街道も、グリビへと繋がり、その先にはレガリヴェリアがある。よって、人通りも多く、今日だけで三度、商隊とすれ違った。
ジストと違って、本当に草花の多い豊かな土地である。それに町が近いからそこかしこに
近くの草むらでは、人と思われる
目も鼻も口もなく性別さえも、そもそも生き物なのかも不明な怪物だが、何となく
王都に近付くと、通例の門での
あくまで冒険者活動が認められた国に限るが、冒険者という名の便利屋は所属国でなくても金を落としてくれる存在なので、ほとんどの国で活動が認められている。
あの人間族至上主義であるソル帝国でさえも、資金の
獣人族を含めて世界に
その数少ない亜人というのは私であったりするのだが、当初の予定としてはここから海沿いに南下してソル帝国へ入ろうと思っていたところ、先日のユニコーンの噂話を聞いて興味が沸いた私は、逆に北上してウェル山脈を目指そうと思っている。
「身分の確認をします。何か証明出来る物はありますか?」
「はい、確認をお願いします」
順番が回ってきて、門番の衛士に首から下げたタグを見せる。
「冒険者でしたか。はい、確認出来ました。ようこそリギアへ。ギルドはこの道をそのまま道なりに行くと、大きな交差点にぶつかりますので、そこを左に曲がってすぐの所です。案内板がありますので、迷うことはないと思いますが、分からなかったら近くの人に聞いて下さい」
「ご丁寧にありがとうございます」
「ごゆっくり。はい、次の方どうぞ」
門を
紙の店だろうか。
ジストだけでなく、ここでも広く紙が使われているのだなと思い、手触りを確認しようと
「
その様子を見ていたのか
「いえ、ジストでは近年広く紙が
「なんだい嬢ちゃん、
「獣皮紙?」
聞いたことがない。
説明を求めると、
話を聞くに、
羊皮紙は皮を剥いで専用の
対する獣皮紙は、主に水幡獣の皮を使うことが多いらしく、特に水辺の町では
加工の仕方は、皮を剥いだらまず火で
ゴム質のような物なので伸ばすことは難しくはなく、前世時間で一〇分弱程の時間で良いのだが、一日置けば元の大きさに戻ってしまうので、形を覚えさせるまで毎日ひたすら叩いて伸ばす作業を続ける必要がある。
十分に引き伸ばされ、形も安定したら、後は羊皮紙と同じように適正のサイズに切って表面に専用の薬剤を塗って完成とのこと。
単純な作業のみで一度にまとめて製造出来るので価格はそこそこに
また、獣皮紙に書く為のインクも特殊な物を用意する必要がある。
通常のインクでは弾かれてしまって書けないという欠点があるらしい。だがそこで、インクにウロウの実を
ニチニチソウではなく、ニチニチニチソウらしい。うん、分からない。毒性があり、それで獣皮紙の
正確には細胞だとか毒性とかの話は出ていないのだが、話を聞くにどうやらそういった作用があることを理解して古来より
ウロウの葉は、食材や薬品を包むのに広く使われているが、実にそんな力があったとは知らなかった。知らずに食べていた。実を
ちなみに、リギアで主に使われる紙と言えば獣皮紙だが、ジストとの貿易で普通の紙もそれなりに出回っており、製本などでは主にパルプから作られた紙で行われている。獣皮紙に比べて耐久性は落ちるが、
大工などの土木業に
「ありがとうございました」
獣皮紙は興味あるが、インクとペンをセットで買わなければならないので、今回は見送ることにする。その代わり、迷惑料と情報料を込みで銀貨一枚、こちらの単位で一ピッコをチップとして支払いお店を後にした。
次は宿屋探しだ。しかしそれもほぼ解決している。
「丁度良い宿屋も教えてもらったし、急ごうかな」
聞き出した情報の中には宿屋や本屋についても含まれていたのだ。早速手に入れた情報を元にその宿屋へと向かうことにし、歩を進めるのであった。
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