43頁目 祭の準備と演奏練習
あの後、夜間依頼を受注した私は、溜め息を
依頼は何のトラブルもなく無事に終了した。しかし、夜間は王都の門は閉じられている為に帰ることは出来ず、朝まで外で過ごすことになったが慣れたもの。
休憩もそこそこに、朝までの暇な時間を、様々な生物の夜間での行動を観察することに
「依頼を受ける
それから二ヶ月近くの間、私は個人で依頼を受注したり、時折パーティを組んだり、気晴らしでギルドに内緒で二週間程タルタ荒野へ出掛けて野営しつつ生態調査をしたり、それについてミリーからまた説教を食らったりと、充実した日々を過ごしていた。
この滞在期間の間ですっかり仲が良くなり、もしくは
「いやー、覇王竜も怖かったけど、それ以上にミリー怖かった」
タメ口から敬語にするだけで人って
何はともあれ、当初はここまで長期に渡って滞在するつもりはなかったが、思わぬ出会いやちょっとしたトラブルによってズルズルと引き延ばされて今に
「えぇと、確かこっちだったはず」
その依頼をこなすべく目的地へ向かっているのだが、
滞在期間を延ばすことを決めた訳だが、そうなると空白の時間が出来る。その
六月最後の
古い
そこに、名ばかりの収穫祭は廃止してもっと
「まぁ楽しく
かなり大規模な行事であり、一応祭りの日は六月二九日の一日となってはいるが、それより一週間前から町は
滞在日数を増やした理由はこの祭りにある。この日は国内の各地から様々な芸術品や催し物が持ち込まれ、楽団によるコンサートホールや特設会場で行われる演奏から突発的な路上ライブなど、大盛り上がりとなる。
すごく楽しみである。
そして、その祭りをより一層楽しむべく、今私はある所へ向かっていた。
「こんにちはー!」
「おお、フレンシアちゃんいらっしゃい。今日もキレイだねぇ」
「ありがとうございます。皆さんは?」
「もう集まっているよ」
とある建物の入り口を
「こんにちはー!」
「おお、フレンシアちゃんが来たぞー!」
「いやーやっぱり華があるねぇ」
「そりゃそうだよ。こんな年寄りばっかりの集まりの中で
「そんでもフレンシアちゃんの方が年上なんじゃがの! がっはっはっは」
「ちょいとじいさん、声が大きいよ!」
私が入室したことで、室内にいた三〇人程の高齢の男女が一気に賑やかになる。
ここは、王都にある高齢者施設である。とはいってもここに入居している訳ではなく、老人会の集まりなどで用いられる建物で、今回のような集まりの他にも様々な交流の場として活用されている。
この世界には、前世と違って
回復魔法は怪我の治療には使えるが、病気や毒などの状態異常には効果が薄く、そういった場合は魔法薬が
中世の
とはいえ、この世界の抵抗力は人体の血球などによるものだけでなく魔力の影響を受けるので、高齢者だからといっても必ずしも感染するとは限らない。特に冒険者経験のある人達は、肉体も魔力も
ここに集まっている人達は、かつて冒険者を
彼らが現役だった頃は、私はまだルキユの森のエルフの里で過ごしていた為、商隊の護衛として里を訪れた彼らと何度か会ったことがあるし取引をしたこともある。
もちろん、全員が生きて老後を過ごせる訳ではないし、高齢になってから病気や事故、事件または寿命で亡くなっている場合もある。
「皆さん元気そうで良かったです」
「元気なもんかい、最近は足腰が弱って仕方ないよ」
「でもあんた、そう言う割に今でも
「ありゃ息子共が情けないからだよ。冒険者
「あの人はどうしたい? コンリャのじいさんは?」
「あぁ、コンリャさんなら
「へぇいつからだい?」
「去年頃だったかな」
「はぁお気の毒になぁ」
認知症やガンなどはないとは言ったが、この世界ならではの病気ももちろんある。誰もが魔力を持つが
私が以前なってしまった
認識病は認知症に近い病気で、魔力の異常な増減や活動などによって時間、場所の認知障害や記憶障害、手足の
前世の認知症に当てはめれば、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病に近い症状が出る。またこの二つの症状を掛け合わせたようなレビー小体病とも取れる。
とはいえ、人格が
「それじゃあ、そろそろ始めるとしようかの」
「そうですね。それでは、時間もないですし、最初から通して確認しつつ楽しく演奏しましょう!」
「よっしゃやるかのぅ」
「おぉおー!」
今回施設訪問の目的は、彼らと一緒に芸術祭の野外特設会場で演奏会を行う為の練習である。
こういった施設があるのを知ったのは二ヶ月前。ギルド長のベランドさんとお茶を飲みながら世間話をしていたところ、そういえばと切り出されたのが今回の芸術祭とそれに参加予定の演奏者の方々の存在だ。
特に滞在期間を決めていた訳ではないし、急ぐ旅でもなかったことからこの件を了承。そして実際に顔合わせで訪れてみるとビックリ。皆が皆、かつて会ったことのある元冒険者の方々だったのだ。
冒険者ギルドの長からの紹介ということで、予想すべきであったことかもしれないが、このサプライズに私は驚きと共に喜び、どさくさに紛れて私のお尻を触ってきたおじいさんに説教したりした。それから都合の良い日に集まって、練習を重ねてきた。
「いよいよ明日からお祭りの期間ですね。では、頑張って演奏しましょう!」
私の合図を元に、それぞれ楽器を構えて演奏を開始する。
一応
楽しい、ワクワクする音色で、オカリナを吹く私も笑顔で
「一回休憩を
三曲を通して二回ずつ演奏したところで休憩に入る。演奏時間も曲数もそんなにある訳ではないが、彼らが高齢者であることを忘れてはならない。人のお尻を触るくらいに元気とはいっても、そこはしっかりと
下旬とはいえ、暑季なのだ。
冷暖房などの機器がないこの世界では暑季は暑く、寒季は寒い。寒さは服を着込んだり、
一応現在はノトスに魔力を送り込むことで室内に風を
私が風魔法を使うことが出来ないことは周知なので、一応珍しい魔導具を見つけて、それを使って風を吹かせていることにしているが、相手は長年冒険者業務を続けてきて生き残って引退した
バレたくないなら力を使わないべきではあるが、目の前で体調不良になられるのも嫌なので、この役目を引き受けた以上は、ちゃんと彼らの面倒を見るのが年長者である私の務めである。
「ちゃんと水分を取って下さいね」
「いやはや、フレンシアちゃんが私らの健康を
「はいはい。休みながらで良いので聞いて下さい。演奏は問題ないと思いますので、今日は後何回か演奏したら終わりにしましょう。次は……本番が四日後の
「良いんじゃないかい?」
「もうちっとフレンシアちゃんとお話したいんじゃが」
「ばあさんやあの子にも予定があるだろうから」
「分かっておるわい」
昔会ったとはいえ、その数はわずか数回。ほとんど交流なんてしていないはずなのにここまで
その後も曲目を確認しつつ軽めに練習を重ね、各自問題ないことを確かめた後に解散した。
時間もあるし、ちょっとフィアの店でも覗いて行こうかな。
そう思った私は、その足を
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