22頁目 拘束と連行
迷子のリンちゃんの両親の情報を得るべく王都を訪れた私達は、城門で足止めを食らっていた。その原因は、今手を繋いでいる彼女にあるらしい。
兵士が何度もリンちゃんの顔と書類とを目を行き来させながら、出来るだけ高圧的にならないように気合いを入れ、大声にならないよう注意を払いながら彼女に話し掛ける。
「もう一度お
「うん♪」
「やはりそうだ! おい、貴様! この子を一体どうやって
さて、何と言えば良いのだろうか。とりあえず正直に話してみることにする。聞き入れてもらえるかは……彼等
「一応自己弁護しておきますが、私は人攫いではなく、たまたま迷子だったこの子の親を探しに王都へと連れて来ただけですよ」
「親……まさか
あー……うん、なるほどね……これはもう無理っぽい。誤解は
「え? お姉ちゃん?」
「ごめんね。何か私悪いことしちゃったみたいだから、ちょっと離ればなれになるね」
「え、い、嫌!」
「いけません! セイリン様! コイツは危険な存在です! あなた様を
うん、
現時点で一番良くない展開のはずなのだが、あまりにも話がぶっ飛んでいるので逆に落ち着いてしまい、余計なことを考えてしまう。
涙ながらに突き放されるリンちゃん……セイリンちゃん? 様? の姿に、何もしてあげることが出来ず、
「はぁ」
自分自身は悪くないと言えるが
兵士数人に縄で縛られて王都の中を歩くこと少し、連れてこられた先は、王城であった。そしてその前にそびえる立派な城門が、来る者を
一人の兵士が、城門の横の扉から中へ入る。そこが詰め所になっているのだろうか。
「隊長! セイリン様を無事発見、保護しました! しかし、どうやら
「うむ、ご苦労。しかし、早朝に起きた
「はっ! して、犯人の方は?」
「
エルフ族は耳が良いので、そんな
いや死なないけど。死にたくないし。
そんなことを考えていると、詰め所から、先程入っていった兵士の後ろに
うん?
「メトヌタ?」
「俺の名前を知っているか。だが人攫いの
「とりあえず、話聞いてもらって良い?」
「え、い、いや、その、って、え? フ、フレン、シア……さん? えぇと、何で? というか人攫い?」
「まさか、あなたが王都を守る兵隊の隊長とはね」
「あー、いや、その……」
「おい、貴様! さっきから隊長に向かって失礼だぞ! 言葉に気を付けろ!」
「いや良い。えぇと、この人はな。一〇年前まで王都で冒険者として
「は?」
その言葉を聞いて、先程から厳しい口調の兵士はポカンとしてしまった。その兵士だけでなく、私を捕まえている兵士、
「もしかして、隊長の話で
「あぁ、そうだ」
一〇年経ってもその小っ恥ずかしい二つ名は、まだ生きていたようだ。そして、まさか一五年前に新米卒業して無事に冒険者デビューしたばかりの、当時二〇歳の
メトヌタ・タリアス。私が冒険者デビューして一年後、活動の
私が王都に移ってから四年後、新米冒険者を卒業して本格的に冒険者となった彼と出会い、度々彼のパーティと組んで依頼をこなすことがあった。
私は基本的にソロで活動していたが、効率や人数制限の問題から、時々他のパーティと一時的に組んで共に行動をすることがあった。
メトヌタのパーティもその中の一つで、数ヶ月一緒に依頼をこなしていた。その頃に出来た縁がこうしてまた繋がるとは、人生とは面白い物である。
あの頃のメトヌタはパーティのリーダーを務めていた。しかし、実力も人望もあるのにも関わらず、不運な目に遭いやすいという点でいまいち本来の実力を発揮出来ない節があった。しかし、それを
その能力が買われたのか分からないが、今こうして王都の兵隊の隊長を務めるに
そんなしみじみと思っていたところで、周りは
「フレンシアさん、申し訳ありませんでした」
「いや、良いよ。誤解を解こうとしなかった私も悪い。無実を証明する証拠もないのだから仕方ない」
「それでも……」
「いや、それよりもあなたが隊長で助かったよ。礼を言うわ」
「いえ、そんな!」
「それとついでに聞いても良いかな?」
「は、何を?」
「何でリンちゃん……セイリン様? は、あんな所にいたのかな?」
「あんな所とは?」
「ここから南西の村、そこから更に南南西かな。街道から外れた
「まさかそんな! それでは、他に人攫いが!」
その彼の疑問を、やんわりと否定する。
「多分違うと思う。彼女の服や髪などに乱れた所はなかったし、何よりも彼女自身が
「はぁ」
「もしかしてあの子、魔法使った?」
「魔法? いえ、そのはずはないのですが」
「どういうこと?」
「それは……」
メトヌタは周りを見渡し、
「セイリン様は、魔法を使えないのです」
「……どういうこと?」
「それが、女王様のも旦那様のも、どちらの魔法も受け継がれなかったのですよ」
「魔法は遺伝で引き継がれる物でしょ? それが引き継がれなかった?」
「そのようです」
魔法が使えないとはあり得るのだろうか。あくまで私の知る限りでは、そのようなことはなかったはずだ。そう考え込んでいる間にも彼の話は続く。
「顔付きこそは母親である女王様そっくりですが、眼の色は旦那様の色を受け継ぎ、とても
「ねぇ、セイリン様にもう一度会うことは出来ない?」
話の途中で顔を上げ、質問を投げ掛ける。それを聞いたメトヌタは、立派なアゴ髭を
「不可能ではないと思います。しかし、それよりもまず女王様に
「むしろそんな気軽に女王様に会えるの?」
「いえ、普段は無理です。しかし『迅雷』様が戻られたと聞けば、お会いになると思います」
「知らない所で、一体どうなってるのよ。私の二つ名は……」
「ははは、今でも有名ですよ。何せ、数々の難しい依頼を一人でこなしてきたのですから。それが一〇年前にパタリと姿を消した。伝説になるのも不思議ではありません」
「黒歴史よ……」
「は?」
「何でもないわ。それよりも
その言葉に驚いたのか。彼は詰め寄って来た。
「何か原因を知っているのですか!」
「近い」
「あ、失礼」
「構わないわ。それよりも、原因は分からないし、仮説と言っても証拠も何もない妄想のような物よ。でも、あり得ないことじゃない。それを確認したい」
「一体何を……」
「彼女、セイリン様は……」
ここで言葉を
「魔法を使える」
「しかし、ご両親のどちらの魔法も」
そう、魔法は原則として両親のどちらかもしくは両方から、遺伝として受け継がれるのが一般的である。しかし、彼女はその受け継いだはずの魔法が使えない。しかし、それでも何らかの魔法が使える場合それは……
「それは恐らく、彼女の遠い先祖に、そのような魔法を使える人がいた。その可能性があるわ。メトヌタ、
「
「お願い」
そこからはメトヌタの指示を受けた兵士達が、バタバタと城内を駆け回ることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます