第4話

ヤスさんは、こっそり私を見に来てるのではないかー

私が気づかないように。

ヤスさん自身の家庭も壊さないように。

希望がぽっかり胸に灯ることもあったのだった。


それは、飲んだくれた父が暴れた日の夜ではなく

学校の帰り道。ランドセルを背負って雨上がりのツユクサをのぞき込んだ瞬間。

とぼとぼと帰る道。今日は父の機嫌がいいのか、悪いのか。

何をきっかけに父の機嫌はああまで爆発してしまうのか。

私が何かいけないのか?

活発で人気者の兄が家にもたらす何ひとつ、私は持ち帰れない。

人気。クルクルとよく動く感情豊かな瞳。

傍ら、私は愚鈍なほど内気で痛々しい口の重い子どもだった。

授業参観の日。一言も口をきいてなかった私の姿に失望して帰る母。

昨日の兄は、クラスでいちばん輝いてる男の子だったというのに。


父の不機嫌は、私に失望して怒っているから・・・

父は、子どもが邪魔なんだ・・・

「女の子は泥棒飼ってるようなもの」と両親で昨日は言っていた。



それを言われても、いったいどうしたらいいものか。



家に向かう傍ら、しゃがみこんだ道端の青々とした野原の間。

夕焼けの大地を見た、海原のボートの上。




でも、ヤスさんだってとっくに結婚などしているはず。

そして、自分自身の子どもをこしらえ、存分に慈愛を降り注いでいるはず。

私のことなど、記憶の片隅に追いやられ、そして次第に消え去っていってしまっているはず。あたかも蝋燭の光がすっかり燃え尽きるかのように。

いい想い出となって。

義務すらなかった女児を慈しんだ自分にすっかり満足して。

すると、ちょっとした怒りすら私に浮かんだ。

でも、義務がないからこそ、だからこそ愛しいところだってあったのではないかと。


父のアルコール依存は進み、私は少女となった。

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