第3話
ヤスさんは、こっそり私を見に来てるのではないかー
私が気づかないように。
ヤスさん自身の家庭も壊さないように。
希望がぽっかり胸に灯ることもあったのだった。
それは、飲んだくれた父が暴れた日の夜ではなく
学校の帰り道。ランドセルを背負って雨上がりのツユクサをのぞき込んだ瞬間。
とぼとぼと帰る道。今日は父の機嫌がいいのか、悪いのか。
何をきっかけに父の機嫌はああまで爆発してしまうのか。
私が何かいけないのか?
活発で人気者の兄が家にもたらす何ひとつ、私は持ち帰れない。
人気。クルクルとよく動く感情豊かな瞳。
傍ら、私は愚鈍なほど内気で痛々しい口の重い子どもだった。
授業参観の日。一言も口をきいてなかった私の姿に失望して帰る母。
昨日の兄は、クラスでいちばん輝いてる男の子だったというのに。
父の不機嫌は、私に失望して怒っているから・・・
父は、子どもが邪魔なんだ・・・
「女の子は泥棒飼ってるようなもの」と両親で昨日は言っていた。
それを言われても、いったいどうしたらいいものか。
家に向かう傍ら、しゃがみこんだ道端の青々とした野原の間。
夕焼けの大地を見た、海原のボートの上。
でも、ヤスさんだってとっくに結婚などしているはず。
そして、自分自身の子どもをこしらえ、存分に慈愛を降り注いでいるはず。
私のことなど、記憶の片隅に追いやられ、そして次第に消え去っていってしまっているはず。あたかも蝋燭の光がすっかり燃え尽きるかのように。
いい想い出となって。
義務すらなかった女児を慈しんだ自分にすっかり満足して。
すると、ちょっとした怒りすら私に浮かんだ。
でも、義務がないからこそ、だからこそ愛しいところだってあったのではないかと。
父のアルコール依存は進み、私は少女となった。
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