Chapter 4: 最悪の再会
私は、アンジェラ・エリス・スノウ。
エリスは母方の祖母の名前。スノウと名付けられたその名前はもともと雪が降る寒い所から父方の先祖が来たらしい。
『雪は溶ける事で春を起こすのだよ』
祖父は言っていた。
私が初めて氷魔法が出来ないのと分かった時、残念だった。その時の理由は、暑い夏にきーんと冷たい氷菓子が食べたいから。
でも、今は春。外は、少し肌寒い。
洞窟の中だからあまり気温は変わらないと思ったけど、夕方は冷える。コートを持ってこなかったのを後悔しつつも、時計台を遠目に街の東の方向に歩いた。道には旅芸人が芸を披露し弦楽器で演奏をしていた。フォルンより早いテンポで早い足の動きではないとつまずきそう。他国だと音楽も違うのね。
やっと、環境省の漆黒の建物の前まで来た。
案内板があり、『
あれ、二つ?
一つは威圧感がある黒で……うーん。もう一つはどちらかといえば……そう、物置小屋にありそうなシンプルな造り。短時間で作られた感がある。
好奇心から『苦情』門の隙間から見ると、何だか熱帯雨林にありそうな大きなまだら模様の赤黒い花が多数あった。毒を持っていると言われても不思議ではない。
何これ?
不思議に思っていると可愛い小鳥がチュンチュンと囀りながら花の近くを飛んだ。すると、一つの花が大きく牙をむいて開いた。
ガブリ
小鳥が消えた。
モグモグとしている花の周りに黄色い羽根が舞い散った。そして、羽根は近くの金色の機械によって吸い込まれていった。
証拠隠滅までする徹底ぶり。
「……うん」
青ざめた私は一言しか言えなかった。
選択肢は一つしかないのね。
私はそーっと『
中には五階建ての吹き抜けがあり、壁には大きな茶色の時計。その麓には全体が真っ白な幻想的な木が一つ生えてあった。
「えっと……窓口はどこかな?」
木の側に白い木製のブランコが見えた。よく見ると、ブランコは木に巻き付いてなく、天井に直接繋がっている。一番上には六角形の穴が蜂の巣のように並んでいた。光が差し込み、真ん中の絵に夕日の光が注ぎ込む。オレンジ色に照らされた流星の絵だった。
「えっ?」
私、このブランコ何処かで見たことある。一人じゃなくて、誰かと……
変に懐かしい気持ちになる。でも、思い出せない。
あっ、絵本で読んだかな?きっとそうかも。
恐る恐る中心に歩いて行くと、絵がキラキラ光っているのがわかった。光る貝殻を塗料に混ぜていたのだろうか?そう思っていると、カタンと音がなり、壁の細長い白いタイルがゆっくりと斜めに降りて来た。
カシャン カシャン
音を鳴らしながら一本足の金色の機械が壁から出て、地面を飛びがながら私の方にやってきた。私より一回り小さくて細い大きさ。くちばしが長い鳥の形だった。私の目の前に止まると、お辞儀した。私も戸惑いながらする。横長の頭の上は黒いフリップ式の文字があり、手前には二つの丸い黒いボタンがあった。
ここを押すのかな?
返事は無かったけど、文字は読めた。
『苦情?
YES / NO』
あの食肉花を見たら、誰も『YES』を押さないでしょう。
『NO』を押すと、パラパラパラと文字が動く。
『ファイナルアンサー?
YES / NO』
私はあの食肉植物を想像しながら、『YES』を押す。
後の質問ははっきり言うと意味不明な内容の羅列だった。
『フジツボは夢を見る?
YES / NO』
『虹の端にお宝が埋まっているのを探しに行ったか?
YES / NO』
『蝶々は完全変態な生物?
YES / NO』
『豆腐でドミノができるか?
YES / NO』
豆腐ってなんですか?
反射神経を問う質問や、
「10.05秒で押せますか?
YES / NO』
記憶を試す質問もあり、
『23回前の質問で何を押した?
YES / NO』
一瞬、考え込む質問もあった。
『「NO」を押してください
YES』
毎回答えるたびに何故か押す力が強くなっていく。最後には叩きつけるようにボタンを押す。
おっと。
『これを押す君は
YES / NO』
今度は説教ですか。
数問後、やっと質問が止まった。
『白い椅子に座り、三分お待ちください』の文字が出てきた。
辺りを見回しても椅子は見当たらない。
ブランコは、白いから、これかな?
私は白い綿のロープを両手に持ち、ブランコに腰掛ける。新しい檜の香りがする。意外。金属だと思っていたのに……
鳥の機械が起立し、壁に戻っていった。
カシャン カシャン
機械音がホールの中を木霊する中、私は考え込んだ。
今までの質問は何だったのでしょうか…… この前の赤眼の男の子の様にムカムカしてきた。いえ、思い出したくないです。
パタン
壁が閉まる。太陽は地平線に沈み、既に部屋は暗くなっていた。
あれ、何も起こらないの?
すると、私が徐々に上に上がっている事がわかった。
カシャン カシャン
どこか遠くに滑車が動く音が聞こえる。
壁にある大きな時計の針が12に差し掛かった。
時計の音がホール中に鳴り響いた。
「えっ、何が起こっているの?」
そして、急に床のタイルが螺旋状にパタパタと折り畳んで行き、真下は何も無い空洞の状態になった。
「ひっ!」
私、今魔法ができない状態なのに?
ポッ
近くで光りが点いた。ガスランプだった。
ポッ ポッ ポッ
光の中をゆっくりとブランコが降りていく。
黄色やオレンジ色の光りが周りを照らしていく。下にあった空間は大きな螺旋階段の様に出来ており、壁には沢山のドアやパイプなどが見える。一部の壁には木の根っこが入り込んでおり、その近くには、光る苔やキノコも生えていた。蛍のような虫が近くを飛ぶが、それは機械だった。
「幻想的……」
見とれていると、急にガクンとブランコが激しく揺れた。
イヤイヤイヤ。それは無いでしょう?
底が見えるけど、今、私は10階程の高さにいる。ロープにしがみついた。でも、何も起こらなかった。
安堵感からほっと一息をする。
次の瞬間、嫌な予感通り、私を乗せたままブランコは急降下した。
「きゃーー!」
薄暗い部屋の中で滑車が猛スピードで回っていた。
黄色い光が周りを飛び、クス クスと鈴のような笑い声が聞こえる。
カッシャン カッシャン
先ほどの金色の鳥型の機械が音を鳴らしながら飛び跳ねてきた。滑車の前に来るとツンツンと黒いレバーを突き、違う滑車を反対方向に動かす。すると、元々動いていた滑車は段々と減速したが中々止まらない。
床は目の前。
助けて!
私は衝撃に備えて目をキツく瞑った。
でも、それは来なかった。
急に私は下から抱きかかえられ、ふわっと体が浮き上がった感覚があった。素朴な線香の様な香り。
「大丈夫か?」
それは低くい男の声。その声は何となく、祖父のに似ていた。私は目を開けた。
「ひぃっ」
思わず変な声を出してしまった。漆黒のカラスの形のマスクが目の前にあった。
疫病対策の?
「失礼。これは仕事に必要な物だ。こんな時間に来庁とは緊急の用事か?」
全てが黒い服を身にまとった人に私は抱きかかえられていた。先ほどの落下で胸がまだドキドキする。
マスク越しに目があった。
「「あっ」」
赤眼。
まさか……
次の瞬間、彼は両手を離し、私は床に落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます