47話 ティリキヤの民

「それではこのままティリキヤに向かいますよ!」

「レイさん! ドラゴンのまま国に入る気?」

「大丈夫です。あそこは竜を信仰する国。このままで問題ありません」


 その言葉と共にレイさんは飛行のスピードを上げた。僕達は振り落とされないようにしっかりとしがみついた。


「そろそろ一度降りましょうか?」

「そうしてくれ! フィルが吐きそうになってる!」


 国境を越えて、レイさんがそう言ってくれた時、僕は名無しに支えられて吐き気を堪えていた。いくら魔法が使えるようになったからってこういうとこまでは変らないんだなぁ……。


「フィル、すみませんでした。久々に飛ぶのが楽しくて……」

「だ、大丈夫。僕もう治癒魔法も使えるしね」


 地面に降りたって自分に治癒をかけて、僕は周りを見渡した。


「ここがティリキヤ……」


 さっきまで雪がふっていたがここの土地は暖かい。草木も青々としている。


「少し休憩をしましょう」


 レイさんの言葉で僕達は昼食をとる事にした。火を熾している間に、イルムとマギネは狩りに出かけた。


「すっかりなかよしさんだね」

「ああ、大きさも同じくらいだからな。マギネはもっと大きくなるんだろうけど」


 そんな風に雑談をしていると、草むらからごそごそと気配がする。僕は近くの木を操作してその気配を捕らえた。


「わぁっ?」


 逆さづりになって出てきたのは褐色の肌の青年だった。


「あ、もしかしてティリキヤの人!?」


 なにか動物かと思ったのに。ちょっと乱暴な事をしてしまった。僕はすぐにその青年を放した。


「あ、あんたら竜を見なかったか!?」

「竜?」

「ああ、村から飛んでいるのが見えて、様子を見に行ってこいって言われたんだ」

「それならそこに」


 僕はレイさんを指差した。レイさんは笑顔で手を振りながら、鱗と黒い羽根を出現させた。


「あわわ……本当に精霊竜だ……」


 青年は額を地面にこすりつけてレイさんを拝んだ。


「どうか、我が村にご滞在を!」

「申し訳ないが私達は急いでいるのです」

「とっておきの神酒を用意しておもてなしいたします!」


 酒、と聞いてレイさんの動きが止まった。そしてちらちらこちらを見てくる!


「レイさん、今晩はそこに止めて貰おうか……」

「そうですね、フィルがそう言うのならしかたありません」


 そんな訳で僕達はその青年の後をついて、ティリキヤの民の村にお邪魔する事になった。分かりやすいようにかレイさんは翼を鱗を出しっぱなしである。


「おお! 精霊竜様じゃ」

「えがった、えがった」


 村の人達はレイさんを見ると一斉に拝んだ。そして連れてこられたのが、村長の家である。


「精霊竜様、よういらしたの。お連れの方も今宵はゆっくり休まれよ。いやはや飛竜の子までいるとはのお」

「はい、お世話になります!」

「ぴい!」

「村長、ティリキヤは水の綺麗な所で、そこで仕込んだ酒は格別だそうですね」

「そのどおりですじゃ。これ、とっときの酒を持っておいで」


 レイさんは持って来られた透明な酒の匂いを嗅いだ。そして一口すする。


「うん、穀物の柔らかい甘さに、華やかな香りがありますね」

「この辺で採れる穀物をここの山水でしこんでおります」


 満足そうにレイさんが酒を飲んでいる間に、僕は家の外に出た。そしてこっそり指輪の光を発動させる。


「もう少し東……か」

「なにをしてるんですか?」


 ひょっと後ろから顔を出したのはさっきの青年である。


「ああ、この光の先に捜し物があるんだ」

「へぇ、あの先の崖は先日崩れたばっかりだから気をつけた方がいいぜ」

「それ、本当? 他に何か異変は無かった?」

「いや? 村長なら何か知ってるかも知れないけど……」


 青年の言葉に、僕はすぐに村長の家に戻った。


「村長、東の崖のあたりで近頃異変はありませんでしたか?」

「うーん、崖崩れが起きた後しばらく煙がたっとったと聞いた」

「そうですか……」


 もしかしたら、父さんの封じた悪魔になにかあったのかもしれない。でも地元の人になにも危害が加えられていないところをみると大した事ではないのかもしれない。

 どっちにしろ、朝になったら様子を見にいかなきゃだな。


「くくく、美味しい酒ですねぇ」

「ささ、もう一杯どうぞ。こんどは森の栗の木から作った酒ですじゃ」


 レイさんも盛り上がってるからな。僕は明日に備えて早めに寝る事にした。

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