41話 入らずの森
「そろそろメッロの街につくぞ」
名無しの声に僕はごくり、と緊張のあまり喉を鳴らした。
「フィル、今日はとりあえず街に泊まって、探索は明日からですよ」
「う、うん」
レイさんが僕の体のこわばりを解くように背中をさすった。
「名無し、フィルがカチコチです。もっと丁寧に操縦して下さい」
「無茶言うなよ!」
そうしている間にも、メッロの街が見えてきた。
「宿を取って、街の聞き込みかな」
アルヴィーは膝の上のイルムの羽毛を撫でながら言った。
「ばっか、お子ちゃまの聞き込みなんか当てになるか。俺に任しておけ」
名無しはそう言って鼻を鳴らした。
「ふん、高いところからの視察だったらイルムの方が早いもんね」
「ほら、そこ! 喧嘩しないで」
わちゃわちゃと賑やかにしながら僕達はメッロの街に入った。
「なんか普通の街だね」
「お師匠さんもそうだけど、そこそこ物資の買い出しが出来る程度の街の近くの森が暮らしていくには丁度いいんだってさ」
「へぇー」
僕達は早々に宿を決めると、日が暮れる前に聞き込みに回った。
「あのー、この近くの森に魔法使いが住んでたって話は聞かないですか」
「さあねぇ」
もう七年も前になるからか、街で有力な情報は得られなかった。
「そろそろご飯にしようか」
ぐーっ、と僕の腹時計が鳴った。すると、名無しが僕の横をすり抜けていった。
「俺はもうちょっと粘ってみる。代わりにコレ、ちょっと使わせて貰うぜ」
「あっ、それ僕のお財布!? いつの間に」
「あとでちゃんと返すよ!」
そう言って名無しは薄暗くなり始めた街の雑踏に消えていった。
「……まあ、あっちは専門家みたいなもんだから。任せようぜ」
「うん」
そうして僕等は食事を終えて、それぞれ就寝の準備をしていた。
「名無し、帰ってこないね」
「大丈夫ですよ。さ、フィル早く寝ましょう」
レイさんが僕を寝かしつけにかかったあたりで窓にコツン、と何かが当たった音がした。
「おーい、開けてくれ」
「……名無し!」
開けた窓からするりと入ってきた名無しはポンと僕に財布を投げて返した。
「街のご老人達の口をなめらかにするためにちょっと使ったぞ」
「何かいい情報があったの?」
「ああ、魔法使いが居たなんて話は聞かなかったが、この近くに『入らずの森』って言われている一角がある」
「入らずの……」
「そこに行くと、化け物に囲まれたり、変な幻覚を見たりするそうだ。例えば森になれた漁師が方向を見失ったりな」
名無しはそこまで言うと、ニッと笑った。
「アルヴィーのお師匠の居た森とちょっと似てないか?」
「そう言われると……」
「きっとそこがラスティスの居た森で間違えないでしょう。お手柄でした名無し」
レイさんがそう言うと、名無しはちょっとポカンとしてレイさんを見つめた。
「……なんですか、その顔。気持ち悪いですね」
「う、うん。これこれ……」
名無し……なんて業が深いんだ。レイさんが普通に褒めたのならそれで喜べばいいのに……。
「じゃあ、明日イルムを飛ばしてその森のあたりを探ってみよう」
「そうだね、アルヴィー」
時間は深夜に差し掛かっていたので僕等は早々に眠る事にした。
そして翌日。僕達はその『入らずの森』を見下ろす崖の上に立っていた。
「あの谷の向こうが例の森だそうだ、イルム頼むぞ」
「お任せ下さい、主」
バサッと羽音を立ててイルムが森へと飛んでいった。
「大丈夫かな……」
「イルムには無理をしないで様子だけ見てこいって言ってある」
「おい、もう戻って来たぞ」
名無しが指差した先にはイルムの姿があった。ちょっとふらふらしながら飛んでいる。
「イルム!」
「申し訳ございません、主……」
「結界があったのでしょうか」
「そうです、レイ。強力な結界が張られていました。それから沢山の魔獣の姿も見えました」
「十分です。イルムよくやりました」
「ぴいいい~」
ぐったりとしたイルムにマギネが駆け寄った。
「大丈夫です、マギネ」
レイさんはイルムに手をかざしてその傷を癒やした。
「さて……この先は私を先頭に進むしかないでしょうね」
すっく、とレイさんが立ち上がった。そして僕を振り返る。
「フィル、決して側を離れないで下さいね」
「う、うん」
僕達は崖を降り、谷へと向かった。ここから先が『入らずの森』地元の漁師も恐れて近寄らない領域。
「さーて、早速おいでなさったぜ」
名無しが辺りを見渡してナイフを構えた。すると、茂みから何頭もの狼が現れた。
「うわっ、狼だ」
「……ただの狼じゃないみたいだ」
「名無し、その通りです。こいつらは魔狼です」
グルルルル……とうなり声を上げながら僕等を囲んだ狼。その一匹が合図をするように遠吠えをすると、ビキビキと音を立てて狼たちは半獣半人の姿になった。
「ただの狼も魔物の狼も、襲ってくるもんに代わりはねぇ……ぶっ殺すだけだ」
名無しはナイフを何本も魔狼達に向けて放った。しかし、分厚い鉄の様な毛皮に阻まれ、ナイフは地に落ちた。
「……なるほど。ただのナイフじゃ役に立たないってか」
その間にも、魔狼達はじりじりと距離を縮めてきていた。
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