26話 侵入者

「さあ、これを頭からかぶって」

「……? 毛布じゃないか。なんなの?」


 僕はレイさんから毛布をかぶせられた。僕が怪訝な顔をしているとレイさんはパチンと指を鳴らした。


「……? どうしたの」

「これでフィルの姿は他人から見えません」

「ほ、本当だ」


 毛布に包まれた足下が透けて見えなくなっている。


「この状態で、領主館までいけば見つかりませんよ」

「すごいねぇ、レイさんは」


 こんな魔法、学校でも習わなかった。僕は素直に感心してレイさんを褒めると、レイさんは微笑んだ。


「さ、行きましょう!」


 深夜の闇の中、僕はレイさんと一緒に領主の館に向かった。入り口には衛兵がいる。


「レイさん、これ中に入るつもり?」

「はい、フィル。私に負ぶさって下さい」


 レイさんは僕をおんぶするとまるで体重が無いみたいに屋根に駆け上った。そして人気のない窓を割るとそこを空けて内部に侵入した。


「レイさん……ものを壊しちゃだめだよ」

「あとで直しますから、さあ」


 僕達は領主館の中を歩いていった。この辺が寝室かな? 怪しいやつは特に居ないみたいだ。


「あの部屋、明かりが漏れてる」


 僕は明かりのまだ付いている部屋に耳を押し当てた。


「昼間のように勝手に出歩かれては困ります」

「しかし……あの辺に近頃人さらいがあってね」

「そんな細かい仕事は衛兵がやればいいんです! ご自分の立場をわきまえて下さい」


 この声はジャスターとアルヴィーだ。ほかになんか聞こえないかな、とさらに耳を押し当てようとすると、レイさんに後ろから引っ張られた。そして間髪置かず、ドアがバンッと開いた。


「何者だ……!」

「あわわわわ……」


 僕は慌てた所為で毛布がずれて本体が丸出しになってしまった。後ろでレイさんがため息をついたのが聞こえた。


「こ、こんばんは」

「お前は昼間の……。どうしてここにいる!」

「その、気になっちゃって……様子を見に」

「だったら昼間に来い!」


 アルヴィーの手から氷の刃が出現してぼくに斬りかかる。レイさんは僕をドン、と後ろにやるとその刃を直に受けた。


「なに? 傷一つないだと……?」

「私にそんなもの効きませんよ。暴れるつもりはありませんが、あなたをすぐ殺すことも出来ます」

「くっ……」


 レイさんはツカツカとアルヴィーに歩み寄ると、首根っこを押さえた。


「お前は何者だ?」

「私はフィルの召喚獣です」


 レイさんはにっこりと笑いながらのけぞった。パキパキとその体に鱗が出現する。


「まさか……ドラゴン!?」

「正解です」

「あ、あのーちょっと様子見に来ただけなのであんまり荒事は……」


 僕は呆然としているジャスターさんに声をかけた。


「あ、ああ……」

「レイさんアルヴィーを離してあげて」

「はい」


 レイさんは僕がそう言うと、パッと手を離した。


「まったく……様子伺いなら昼間! 人のいる時に来い!」

「そ、そういわれれば……」


 ちょっと様子見て帰るだけのつもりだったんだけどな。思ったよりアルヴィーの勘が良すぎた。


「まぁまぁ、アルヴィー。そうだこうしよう。君たちを護衛に頼む。それなら私は街を自由に歩けるだろう」

「俺がいるじゃないですか」

「アルヴィーは本来は兄様の護衛だろ? いつもつきっきりって訳にはいかないし……どうだろう」


 僕はレイさんを見た。


「フィルのしたいように」

「それじゃあ、護衛します!」


 僕は元気よく手をあげた。


「ロージアンの下町のホーマの店の下働きのフィルと申します。で、こっちが」

「フィルの召喚獣です」

「召喚獣か……まるっきり人間に見えるな」

「よろしくお願いします」


 レイさんは手を伸ばしてジャスターさんと握手をした。


「……ジャスター様、そんな訳分かんないのと一緒にいるつもりですか」

「まぁまぁ、アルヴィーがうちに来た時も似たようなものだったじゃないか」


 そうジャスターさんが言うと、アルヴィーは面白く無さそうに鼻を鳴らした。


「じゃあ、今度は昼間に来てくれたまえ、フィル君」

「は、はい!」


 こうして僕達はジャスターさんの護衛に雇われた。よーし、命を狙ってくる悪者をやっつけるぞ!


「それじゃあ、フィル。もう寝ないと」

「あ! そうだね。それじゃあまた明日」


 振り向きざまに手を振ると、アルヴィーは思いっきり舌を出していた。

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