27話 熾火
「それじゃあ、俺はこれから領主様の農園の視察についていくから、頼むぞ」
「うん!」
「返事ははい!」
「はい」
翌日、思いっきり不機嫌そうなアルヴィーから引き継いで、僕とレイさんはジャスターさんの護衛をする事になった。
「じゃあな! ジャスター様を外にだすなよ! いいな!」
「はーい」
ひらひらと手を振ってアルヴィーが出かけていった。
「……で、ジャスターさんどこに行くつもりなんです?」
「……市場の布問屋に……」
「じゃあ、ついて行きますよ」
「お、おう……」
ジャスターさんはやっぱり黙って出かけるつもりだったみたいだ。
「どうして黙って一人で出かけるんですか? あ、責めてるつもりはないんですが。アルヴィーの言うとおりあぶないじゃないですか。実際あぶない目にもあった訳ですし」
「……放っておいたら兄上やその子供達に害が及ぶかもしれないだろう?」
「自分はわかりやすい的のつもりだったんですか」
「ああ、ただ昨日のは予想外だった。君たちには感謝してるよ」
ジャスターさんはそう言って頬を掻いた。
「それじゃあ、分かりやすく市場を流しましょうか」
「ああ」
レイさんには少し後ろを歩いて貰う事にして、僕達は市場を練り歩いた。驚いたのが、みんなジャスターさんの顔を知っていて気軽に声をかけてくる事だ。
「人気物ですね。ぼく全然知りませんでした」
「私がここに来たのも一月前だからね」
なるほど、僕達が旅をしている間にやってきたのか。
「さ、ここからあまり治安が良くなくなってきますけど……行きます?」
「無論いくさ。せっかく護衛もいるんだし」
僕達は下町のごみごみした通りを歩いて行った。すると、とうとう現れた。
「よう、良い仕立ての服だなおっさん」
「場違いだなぁ……」
ガラの悪い二人組が僕等の行き先を遮る。
「あのー、あなた達誰に頼まれたんですか」
「な、なんだと?」
僕がそう聞くと図星なのか、男達は一瞬怯んだ。
「ちょっとお話聞かせて下さい」
「ふざけるな。お前達こそ、永遠にしゃべれなくしてやる。殺しても構わないって言われてるんだ」
男がそう言った瞬間、後ろに控えていたレイさんが飛び出した。男の鼻に膝蹴りを一発。もう一人の男はナイフを握った手をひねって折られた。
「ずるいですね。こっちは殺すなって言われてるんですけど」
「があああっ」
男達は痛みにもがいている。僕とレイさんはその男達をしばりあげた。
「レイさん、この男とちょっと話がしたいんですけど」
「はい、分かりました。おい、ちんぴら。さっさと吐かないと指が全部なくなるぞ」
「どこで覚えてきたの、そんなの……」
それでも効果は十分だったみたいだ。
「りょ、領主の弟に痛い目見せろって言われたんだよ! 世直しとか気取って俺達の街ででかい顔してるからなぁ!」
「……誰に?」
「それは、いででで! うちらのボスだよ!」
「……ボス?」
レイさんにひねり挙げられた男は悲鳴を上げてボスの存在を吐いた。
「じゃあそいつの所まで案内してくれ」
「それは無理だ!! 殺される!」
うーんここまでかな? と思った時、ぞくっといやな気配がした。レイさんが素早く僕とジャスターさんに多い被さる。そこに何本ものナイフが突き刺さった。
「おっと、手が滑った」
「お前……」
そこには黒いコートを羽織った男が立っていた。襟元の羽根飾りがきざったらしい。そしてその男の投げたナイフで二人は絶命していた。
「ぼっちゃん……とジャスターさん? お散歩は控えて貰えませんかね」
「……あんたは?」
「さあねぇ……あんまりあんたにこの辺をうろうろして欲しくないだけさ」
名無しの男はナイフを弄んでいる。
「そこの女、すごいな。俺の嫁になれよ」
「……私はフィルの下僕です」
「そりゃ残念だ」
男はまたナイフを投げた。レイさんはそれを手で払って落とした。
「じゃあ、良いこと教えてやるよ。俺達に指示を出したのは領主様そのものだぜ」
「……そうか……」
「おやぁ? 分かってたって顔だな」
男はくくく、と楽しそうに笑った。
「知りたいことは分かったろ、とっととお家に帰りな」
「ジャスターさん……」
「フィル君、帰ろう」
「いいんですか?」
あの、目の前に思いっきり悪そうなヤツがいるんですけど。
「ああ、やる事が出来た」
「は、はい……」
ジャスターさんの言う通りに僕達は領主館へと戻った。
「今日はありがとう。また何かあったら呼ぶから」
「あの……ジャスターさん……」
「私は大丈夫だよ」
ジャスターさん、身内に裏切られて苦しいだろうに……。
「フィル、行きましょう」
「レイさん」
僕はレイさんに引っ張られてホーマさんの店へと戻った。そして数日後、領主達がこの街を去る事になった。その間、ここを治めるのは領主の弟という事だった。
「あーあ、やっぱこうなったか」
「先に手をだしたのが悪いんですよ」
「そうなんだけどさ」
僕が店先でぼやいていると、ころがり込んできた人物が居た。
「アルヴィー、どうしたの?」
それはアルヴィーだった。顔を真っ赤にして涙目である。
「……やめてきた!」
「そっか、ここで働く?」
アルヴィーはじわっと涙を浮かべると、激しく頷いた。
「ジャスターさん……」
もうあの気さくに街で微笑んでいたジャスターさんには会えない。僕はそんな確信とともに、丘の上の領主館を見上げた。
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