24話 帰還

「いつでも遊びに来て下さいね」


 と、バージルが僕の手を握ったので、僕は強く握り返した。


「はい。今度はゆっくりこの国を見てみたいです」


 サンレーム公国の皆に見送られながら、馬車は出発した。バイバイ、シオンにレタ。一緒の旅は楽しかったよ。


「ホーマさん、どうしてるかな」

「思ったより日数かかったから心配しているんじゃないですか?」

「そっか、じゃあ急いで帰らないとね」

「はい、かしこまりました」


 レイさんが馬に鞭を入れると、馬車のスピードが上がった。


「ちょっ、レイさんいくら何でも早すぎるって!」

「むぎゅ!」


 ん? 今なんか変な音しなかったか?


「レイさん何か言った?」

「いいえ?」


 僕は荷台の後ろをまさぐった。


「んぴー、フィル!」

「ま、マギネ! 着いてきちゃったのか?」

「ぴい!」

「どうしよう……」


 今から引き返そうか、そう考えているとマギネの足になにか結わえ付けられているのに気づいた。


「なんだこれ……手紙だ」


 広げると、それはシオンからの手紙だった。


『フィル様へ

 ロージアンの街からサンレームまで、付き添いありがとうございました。このご恩は一生忘れません。ところで、厚かましいお願いなのですが、どうかマギネを連れて行って下さい。

マギネはまだ子供です。この世界をいっぱい見せてやりたいのです。』


「まじか……なぁ、マギネ。シオンはこう言ってるけどいいのか?」

「……? フィルしゅき! まんまもしゅき!」

「うん。それはありがたいんだけど……」

「いいじゃないですか、フィル。ワイバーンは本来は大空を駆け回る種族です。好奇心も強い生き物なんですよ」


 レイさんはそう言ってマギネを抱き上げた。


「さあ、マギネ。沢山の事を見聞きして、大きくなったらあのティリキヤの姫を助けてやるといい」

「あい! まんま!」


 マギネは僕の心配を余所に元気に挨拶した。




 そして馬車は休み無く街道を行き、一週間後にはロージアンの街に着いた。


「おお、フィル無事だったか」

「シオンとレタをサンレーム公国まで送り届けてきました」

「そうかでかしたでかしたのう」


 ホーマさんはそう言って、僕のひざをぺちぺちと叩いた。本当は頭を撫でたかったみたいだけど。


「それで、そこのチビちゃんは?」

「この子はワイバーンのマギネ。しばらく預かることになりました」

「ほう、まぁ店を荒らさなければかまわんよ。さあ旅の疲れもあるだろうから今日はゆっくりおやすみ」

「分かりました。ホーマさん、また雇ってくれますか?」


 僕がそう聞くと、ホーマさんは一瞬止まってガハハ、と笑い出した。


「首にしたつもりはないぞい。明日からよろしくな、フィル」

「……はい」


 サンレームからの御礼の金で生活には困ってないんだけど、僕はホーマさんの店で引き続き働くつもりだった。ホーマさんは知識も豊富だし、器用だし、そんな人の仕事を僕は盗みたいと思ったのだ。なにより魔法が使えなくても大丈夫だしね。


「レイさん、それじゃあ二階にあがりましょうか」

「はい」


 そう言って、僕達は二階の部屋に上がり、窓をあけた。


「ふうーっ! 帰って来た!」


 そう口に出すと、ここが自分の家なのだと実感できた。


「ちょっとほこりっぽいですね」


 レイさんがそう言って浄化魔法をかけた。一瞬でふとんもふかふかになった。


「さあ、休みましょうか」

「うん……」


 あ、やっぱりレイさんとは密着して寝るのね……と思っていると、そこに珍客が現れた。


「ぴいー! まんま、いっしょねるー!」

「ええ?」

「レイさん、マギネと寝てあげて下さい」

「えっ、ちょっとフィル! そんなぁ……」


 ちょうどいいや、これで安眠できるな。僕はレイさんのお守りをマギネに託してさっさと寝た。




 ――翌朝。僕は顔を洗って着替えると、簡単にパンを食べた。そうだ、マギネのご飯はどうしよう。確か生き餌なんだよな……。


「なぁ、マギネ。ごはんなんだけど……ぎゃっ」

「まんま、おいしー」


 マギネは勝手にどこからかねずみを捕まえて食べていた。はは……逞しい事で……。


「ホーマさん、おはようございます」

「おお、フィル。良く休めたかい」

「ええ、やっぱり家が一番ですね」

「そうかい、そうかい」


 そうして僕はまた配達やホーマさんの手伝いをして過ごす毎日を過ごす事になった。


「もうちょっと愛想よくしましょうよ、レイさん」


 レイさんも相変わらず、ムスっとした顔でカウンターに座っている。


「マギネちゃん!」

「んぴ?」


 最近ではレイさん目当てのおっさん達だけでなく、マギネを見に来る子供達もやって来たので僕は駄菓子を仕入れるようにした。


「フィル……あんた、結構めざといねぇ」

「ホーマさんが商売っ気なさ過ぎるですよ」


 そんなこんなで平和な毎日が続いていたのだ。それまでは。

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