20話 晩餐会

「……なにニヤニヤしてるのさ」

「いや、似合うと思いまして」


 さっきからレイさんはにやにやしながら僕を見ている。僕はなんだかフリフリしたシャツと刺繍のがっつり入った上着を着ていた。なんだか居心地が悪いったらない。


「そ、レイさんも似合ってるよ」

「本当ですか」


 レイさんはぱあっっと顔を輝かした。こちらは体にぴったりとした深い紫のドレスでとても良く似合っていた。


「フィル様、レイ様。お食事の仕度が調いました。こちらへどうぞ」

「はっ、はい!」


 うわあ、とうとう大公との晩餐会が始まる……! ギクシャクと歩き出した僕を見てレイさんは吹きだした。


「フィル、手と足が一緒に出てます」

「え!? あれ?」

「抱っこしましょうか?」

「いいよ! そんなの」


 そんな風にわちゃわちゃとしながら僕達は大広間に通された。


「魔法使いフィルとその従者よ、こっちへ」


 玉座に座った大公が僕達を待っていた。なんかもう魔法使いって事になってるけど良いのかな、学校追い出されたのに。


「この度は、シオン姫の救出とここまでの護衛、ご苦労であった」

「はい」


 僕は緊張で震えながら答えた。大公の声は穏やかで理知的な雰囲気があった。


「お礼として、1000万ゴルド相当の金を与えよう」

「は、ははーっ」


 1000万!? すごい。贅沢しなければ十年は暮らせそうだ。


「それでは晩餐で。旅のみやげ話でも教えておくれ」

「はっ」


 僕とレイさんはお辞儀をした。レイさんはこんな時も平常心だ。


「よく平気だね」


 僕は晩餐の間に移動しながらレイさんにこそっと聞いた。


「召喚獣として王家にいた事もあるんですよ。まあ千年も前の話ですが」

「へぇーっ」


 ……レイさん、分かってたけど長生きなんだなぁ。そんなこんなで僕達は晩餐の間に着いた。シオンは僕の斜め向かいの席に居て、その後ろにレタが控えていた。


「まずはシオン姫の無事な到着に乾杯!」


 大公が乾杯の声を上げて宴ははじまった。うわわ、見た事のないご馳走がテーブル一杯に並べられている。


「それでフィル殿、どうやって姫を助けたのですかな」

「ええっと……まずうちの店にドラゴンの卵が持ち込まれて……」


 僕はこれまでの経緯を少々脚色を交えて離した。大公は上機嫌でそれを聞いていた。


「温泉を掘り当てたのはすごい。この国にもそういった温泉が湧いたら国をあげて保養所にするのにな」

「この国にですかー」


 僕はちらっとレイさんを見た。レイさんはこくりと頷いた。


「できるかもしれないです。地脈をきちんと見てみないとですが……」

「おおそうか! よかったら長期滞在も歓迎しますぞ。なんせ優秀な魔法使いは国の宝ですから」

「ええ……はは……」


 まずい……レイさんと離れてる時になにかあったら困るな。僕は冷や汗を拭いつつ、大公に相づちを打った。


「シオン姫、お顔が優れんな」

「いえ、ちょっと長旅の疲れが出た見たいです」

「そうか、おいバージル! お前の婚約者だろう、きちんと相手にせんか」

「……父上。シオン姫はお疲れのようですから」


 へぇ、シオンの結婚相手ってこの人か。僕はバージルと呼ばれた青年をじっと見た。


「さ、シオン姫。無理する事はありません。お部屋に戻りましょう」

「バージル様」


 バージルはシオンを連れて晩餐の間を出た。ふうん、気弱そうだけど紳士じゃないか。


「おおおおおいしい……」


 レイさんは周りを観察している僕の事なんてお構いなしでワインを飲んでいた。


「レイ殿は食事は……?」


 まずい、大公が不思議な顔をして見ている。


「はは……小食で……困っちゃいます……」


 そんな言い訳をしていると、バージルが戻ってきた。


「シオン……姫、はどうでした?」

「やはりちょっと疲れただけのようです。姫にとって大変な旅だったでしょうから」

「その……バージル王子がシオン姫と結婚するんですよね」

「ああ、最も婚約だけで実際結婚するのは姫が15になってからだけどね」

「そうなんだ」


 僕はちょっとだけほっとした。シオンは僕より年下だもん、結婚はさすがに早いよね。


「しかし、こんなに早く結婚が決まるとは私も思っていなかった」


 バージルは、ちょっと戸惑っているような表情だ。うーん、しっかりして欲しいなー。シオンが心配で僕帰れなくなっちゃう。


「……何か?」

「ああ! 何でもないです」


 いかんいかん。それにしてもシオンには幸せになるって確信しないと駄目って啖呵切ったけれど……具体的にどうしたらいいんだろう?


「シオン! このワインもおいしいです!」

「レイさん? もしかして酔っ払ってる?」


 今までいくら飲んでも酔っ払った素振りを見せた事のなかったレイさんがほんのり頬を赤らめている。どんだけ飲んだんだ。


「フィル~」

「ああ! 重い!」


 上機嫌のレイさんがのしかかってくるのを僕は必死でガードしていた。その様子をじーっと見ていたバージルがこそっと僕に聞いてきた。


「フィル殿は年上の女性が好きなのですか……?」

「違いますっ、普通に同じ位の歳の子が好きですっ」

「そうですか……」


 その間にレイさんは僕を羽交い締めにしてくる。……なんかぐだぐだなままで晩餐会は終わった。

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