21話 バージル王子

「もうレイさんはワイン飲むの禁止ね」

「そんな殺生な……昨日は美味すぎてつい度を超してしまったのです」

「じゃあ度を超して飲むのは禁止!」

「うむ……」


 朝から僕はレイさんにお説教をかましていた。レイさんのおかげで晩餐会が途中で切り上げになったからだ。


「で、これからサンレームの葡萄畑を見学させて貰う訳だけど……」

「はい、飲み過ぎないようにします……」


 飲まないって選択肢は無い訳ね。


「人間は恐ろしいものを作るものだ……」

「あのね、ワインは適量なら体にいいんだよ?」


 僕がまたキッと目をつり上げてお説教すると、レイさんは耳を塞いで逃げてしまった。


「まったくもう……」

「従者と仲がよいんだね」


 僕が振り向くとそこにはバージルが居た。


「失礼、ドアが開いていたものだから」

「ああ、大丈夫です。もう時間ですか?」

「いえ、ちょっと……お話がしたいと思って」

「僕とですか?」


 バージルが頷いたので僕は彼を部屋に招きいれた。


「この国はどうですか」

「そうですね、まだ街の様子とか見てないからなんとも。でもこの庭は素晴らしいです」

「この庭専用の魔法使いがいるんですよ。だから四季を問わず花が愛でられる」

「へえ……魔法使いを徴用しているのはステラーンドと代わりないんですね」

「ええ」


 僕は庭を見下ろしながら、バージルと話しをしていた。


「シオンは? 視察にはやってくるのですか?」

「いえ、姫はまだ体調が優れないみたいです……この先の事を考えると付いてきて欲しいのですが」

「この先……」

「ええ、結婚までにティリキヤとはなにもかも違う、こちらの事を彼女は勉強しないといけません」


 バージルはちょっと浮かない顔でそう言った。


「バージル王子はこの結婚に乗り気ではないみたいですね」


 僕がそう言うと、彼は慌てて首をふった。


「そんな訳ではありません。ただ……あんないたいげな少女に無理をさせているのではないかと……ちょっと思っているだけです」


 それを聞いて僕はちょっとほっとした。


「バージル王子」

「はい?」

「そんな風に思っている人が近くにいるならシオンはきっと頑張れますよ」

「そう、そうですか……あの……こんな事を言っていたのは父上にはどうか内緒にして下さい」

「良いですけど……」

「どうもね、俺は気が弱いと父上に言われる事が多くて……」


 バージルはそう言うと、また後でと部屋を去って行った。気が弱いか……そうとも取れるかもしれないけど、ああやって人を思いやれるのは良いことだと思うけどな。


「施政者ともなればそうもいかないか……」


 でも、シオンの婚約者が優しそうな人で良かった。


「それにしてもシオンは大丈夫なのかな」


 ここに来てからシオンの心からの笑顔を見なくなった。バージル王子が嫌だ……とかないよなぁ……。


「フィル、ご機嫌は治りましたか」

「レイさんどこに言ってたの」

「お庭に。このお花を貰いました」

「ああ、魔法の花だね」


 僕はレイさんの持っていた花を一輪手にした。本当だ、魔力が通っている。いったいどうやってるんだろう??


「温度をいじっているのかな? それとも魔力を流し続けていると何か変化があるとか?」

「魔石をブレンドした溶液で育ててるそうですよ」

「溶液かー、その調合知りたいなー」

「フィル」


 花をいじくり回しながら僕があれこれ考えて居ると、レイさんが急に呼びかけた。


「なに?」

「フィルは魔法が好きなんですね」

「うーん、嫌いではないのかな。これしかして来なかったしね」

「そうですか……では魔法を使えるようになりたいですよね」

「うん、そりゃもう……」

「この私と練習しましょう。きっと使えるようになりますよ」


 レイさんはそういってたわわな胸を叩いた。使えるようになるかなぁ……でも失敗したときにレイさんが近くにいれば安心かもしれない。


「うん、じゃあレイさんと練習する。よろしくね」

「はい」


 その時、ドアがノックされた。


「フィル様、そろそろお時間でございます」


 葡萄畑の視察の時間がやってきたみたいだ。


「レイさん、しつこいようだけど……」

「はい、ほどほどにします」


 レイさんに念を押して僕達は葡萄畑の視察へと向かった。

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