14話 ベイジャーク家の事情
僕らは衛兵達の駐屯所に連れていかれた。
「今からベイジャーク家の面通しがある。大人しくするように」
「……はい」
僕とレイさんは後ろ手に手錠をはめられた。レイさんにはなんの意味もないだろうけどね。
「町長、こちらです」
そうしてやって来たのは金髪の中年男性と、同じく金髪のツインテールにした女の子だった。
「こいつらがカミュを盗んだのね」
「止しなさい、フローラ。決まった訳じゃない」
フローラと呼ばれた女の子は憎々しげに僕達を睨んだ。そのフローラを抑えて男性が僕に聞いた。この人が当主なのかな。
「では聞く、どうしてベイジャーク家に忍び込んで鳥を盗んだのか」
「その前に、僕達は盗んでいません。この街に来たのだってついさっきだし、鳥は街の外で捕まえました」
「衛兵、そうなのか?」
「確かに都市の入場記録ではそうなっています。しかし誤魔化そうと思えばそこは誤魔化せます」
生真面目そうな衛兵が背筋を伸ばして答えた。
「では質問を帰る、昨晩は何をしていた」
「この近隣の村に泊っていました」
「ふむ……そこの、早馬を出して聞いて来てくれ」
男が指令を出すと、衛兵が動いた。しめた。村では昨日は大騒ぎだったからきっと大丈夫。
「では、その間に……なぜ我が家に侵入したのだ」
「入ってません」
僕ははっきりと答えた。いつまで濡れ衣を着せるつもりなのかな。あんまり長引かせると、レイさんの辛抱が限界を迎えてしまう。
「……君たちはリード家の手の物ではないのか」
「……なんです、それ?」
僕が疑問の声を上げると、男はため息を吐いた。
「いや、なんでもない」
「ベイジャークさん、あなたたちはリード家という所から嫌がらせされているんですか?」
「さっき言った事は忘れてくれ」
そのまま、しばらく時が過ぎた。すると息を切らした馬と衛兵が待機場所に飛び込んで来た。
「はあ……はあ……」
「どうだった」
「確かにこの子供達は昨日村に滞在していたようです」
「そうか……済まなかった、おい離してやってくれ」
僕達は手錠を外してもらった。ああ、手が痺れた。
「じゃあ、僕達はこれで」
そのまま去ろうとした所を男が呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ、犯人扱いして申し訳ないからうちでお茶でも飲んでいってくれ」
「いや、旅の物資を買わないといけないので……」
「それはうちのものにやらせよう。さあ」
男があまりに熱心なので、僕等はちょっとだけその男の家に寄る事にした。
「うわぁ……大きなお屋敷……」
僕が呟くとフローラは自慢げに鼻を鳴らした。
「そりゃそうよ、うちは町長なんだもの」
「町長?」
「そう、このオウマの街では代表者を選挙で決めるの。うちのパパは資本も人望もこの街で一番なのよ」
「へぇ……」
僕達はベイジャークさんの後ろに付いて仲に入った。内装も立派なものだ。
「やっぱり、来たことは無いみたいだね」
「もちろんです」
そして応接間に通された僕達の前にお茶が出された。うーん、これは良い香り。高そうな茶葉を使っているんだろうな。
「それで、リード家ってのはなんなんです?」
僕は気になっていた事をベイジャークさんに聞いた。
「うむ……それは口を滑らした。聞かなかったことにしてくれ」
ベイジャークさんはそう言ったが、隣のフローラがぺしぺしと机を叩きながら言った。
「ちょっと前にこの街を拠点にした成金よ! きっとうちが目障りなのよ」
「フローラ、黙りなさい」
「でもパパ! 私の寝室に入ったのよ? 捕まえないと」
「それはそうなんだがな……」
このベイジャークさんは思慮深そうだが娘には甘そうだった。
「とにかく、こっちの警備を厳重にしておくから……」
「このままじゃ夜も眠れないわ」
何だか大変そうだな。僕の寝込みなんか襲おうものならレイさんにぎったんぎったんにされそうだけど。……あ。
「あ、あの~……」
「そうしたんだい、君」
「フィルです。僕はフィルといいます。良ければ僕、お嬢さんの身代わりになりましょうか?」
「フィル……」
「実は僕は魔法使いなんです。お嬢さんの部屋に忍び込む悪漢を捕まえてみせましょう」
レイさんがまたちょっと呆れた顔をして見ている。しかたないじゃないか、目の前のトラブルを見過ごせないタイプなんだよ。それと今回はちゃんと理由もある。
「一日一万ガルドでどうでしょうか。実はちょっと路銀が足りていなくて」
「おお……いいのか?」
「ええ、ただしこっちも目的地があるので三日間だけで」
「……分かった。私も娘が心配だ。協力してくれるとありがたい」
ベイジャークさんは僕の手をとって握手をした。鳥は売れなかったけど、ここらで一稼ぎしてから次の街を目指そう。
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