13話 商業都市オウマ
「それでは、フィル様お元気で」
「はい、温泉の運営頑張ってください」
「本当に金銭は要らないんですか……?」
「はい、それよりこの冬を無事に超える事を優先してください」
僕がそう言うと、長老は涙ぐんだ。
「必ず! 必ずやり遂げますのでまたいらして下さい」
「はい、頑張って下さい」
そうして僕達は村を後にした。ガタゴトと馬車は一路サンレーム公国に向けて走る。僕がふとシオンを見ると、シオンは卵を取りだして眺めていた。
「それ本当にキレイだね。ホーマさんの店で見た時、本当に宝石かと思ったよ」
「我々ティリキヤの民は竜を信仰しています。身近な竜であるワイバーンは王族にとってお守りのような友のような存在なのです」
そう言ってシオンは卵を愛おしそうに撫でた。隣のレタがうれしそうに僕に言う。
「フィル様、王族の子が産まれると、国で最も険しいキシャバテの山中に卵を取りに行くのです」
「そうです。そして名前を付けて一緒に育つのです。この子はマギネといいます」
「へぇ……どれぐらいで孵るの?」
「大体十年から十五年といわれています」
「へぇ……」
それじゃもしかしたら卵が孵るかもしれないんだ。ワイバーンを間近で見た事ないから見てみたいな。
「よっと!」
「……レイさん何してるの」
レイさんは手綱を握りながら、鞭を空中に振り回した。
「ああ、キレイな鳥が居たので捕まえました」
「鳥?」
「路銀にならないかな、と」
びっくりした鳥は荷台にひっくり返っている。僕はそっとその鳥に桶をかぶせた。
「分かったけど、安全運転でね」
「はい、分かりました」
そうしている間に次の街が見えて来た。僕等を振り返ってレイさんが言う。
「今日はあそこで一泊ですね」
「ほー、大きい街ですね。商業都市オウマ、か」
僕は地図を広げて確認した。僕等が滞在していたロージアンの街の数倍の規模だ。
「ここで物資の補給が出来るね」
「さっきの鳥もここでお金にしよう」
僕達は検問を通り、宿を探した。安くてうまいと評判の宿屋を無事見つける事が出来た。
「じゃあ、僕達買い出しとさっきの鳥を売ってくるから、シオンとレタはここで留守番しておいて」
「はい、分かりました」
キレイな鳥はまだ生きている。羽根だけでも良いお値段がつきそうだけど、生きていたらもっと高く売れるだろう。
「これが売れたらレイさんのワインを沢山買おうね」
「いいんですか?」
「うん、馬車の操縦してもらってるし。この街は大きいから色んなワインがあると思うよ」
「いろんなワインですか……」
レイさんはうっとりとした顔で呟いた。そんなレイさんを連れて僕は先に鳥を売ってしまう事にした。
「すいませーん」
僕はホーマさんの店のような何でも屋を道行く人に教えてもらってドアを開いた。
「なんだい、なにか要り用かい?」
奥から出てきたのは厳つい顔の男だった。
「あの、この鳥を売りたいんですが……」
「なになに、これはルク鳥か……んん?」
「どうしました?」
厳ついながら笑顔を浮かべていた店の親父が難しい顔をした。
「ちょっとそこで待っていてくれ」
そういうと店の奥に入って行ってしまう。取り残された僕とレイさんは顔を見あわせた。
「どうしたんだろうね」
「さぁ……そこまで珍しい鳥ではないと思いますが」
すると、表から鋭い声が聞こえた。
「そこの二人、動くな!」
見ると衛兵が何人も店の周りを取り囲んでいた。
「なっ!?」
「はったおして帰りますか」
レイさんがごきっと手首を鳴らした。僕はそれを慌てて止める。
「レイさん、街中でまずいです……あと、宿にシオンとレタがいるんですよ」
「そうですか……ではどうするんです?」
「この場は大人しくしてよう。大丈夫だよ。別に悪い事なんてしてないんだし、ちゃんと事情を離せば分かってくれるさ」
僕達は衛兵の前に進み出た。
「えーと、僕達になんの用でしょう」
僕は衛兵に聞いてみた。衛兵は僕に槍を突きつけてこう言った。
「ベイジャーク家のペットの鳥を盗んだ疑いだ、神妙に縄に付け!」
「……はぁ?」
それは僕等にまったく身に覚えのない容疑だった。
「とぼけるなよ、ベイジャーク家の家紋の入った足環をした鳥を連れてきたではないか。ここで金に換えようとしたんだろうが、残念だったな」
「……いや、捕まえはしましたけど、それはその辺を飛んでたんですよ」
そうは言ったものの、衛兵は言う事を聞かなそうだった。まぁ、それがお仕事なんだろうしね。
「フィル、どうします?」
「とりあえず……この衛兵についていってみよう」
この持ち主に直接会って誤解を解かないと無理みたいだ、と僕は判断した。
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