12話 たのしいお風呂
「まず、かぶるくらいに水に一晩晒してアクを抜いて下さい。それからこれくらいお砂糖を入れて……」
レタが村人にジャムの作り方を教えている。
「シオンは教えないの?」
「私は仮にも王族なので」
「あ、そうだったね」
「それにレタは料理上手ですから……。他にも刺繍や絵も得意で……」
「器用なんだね、羨ましいなぁ……」
僕がそういうと、シオンはじっと僕を見た。
「……時々、思うんです。レタをこの旅に連れてきて良かったのか」
「へ?」
「レタも裕福な家の出ですし、とっても良い子なのに……私に着いてきたばっかりに危険な目に遭わせてしまいました」
「シオン……」
自分だって人質代わりに遠い国にやられたのに……。
「シオンとレタは仲良しなんだね。うらやましいや」
「フィル様?」
「僕はそういう相手いないからさ」
「フィル様は優しいのに」
「こういうのは気が弱いって言うんだよ」
僕はシオンにそう言った。邪魔するな、足をひっぱるな……僕の同級生はみんなそんな事しか言わなかった。
「おーい、フィル様。夕食が出来ましたんで食べて下さい」
「ありがとうございます」
僕達は村人達の素朴な持てなしを受けた。村の蓄えを出して今後は生鮮食品は別の村から運んでくる事になりそうだと長老は言った。
「保養所だけではやっていけないかもしれないので、火山灰の土地でも育つ植物を教えますよ」
僕は学園時代のノートから災害に強い植物を長老に伝えた。
「ありがとうございます……!」
「よかったですね、これも偉大な偉大な魔法使いフィル・オルグレンのおかげですね」
「レイさん!」
レイさんはこの地方特産のコケモモのワインを手にふふん、と笑った。まったくレイさんは……これ以上事を大きくしたくないのに……。
「フィル様、温泉の準備ができました。是非一番に入って下さい」
「え、ホント!?」
「まだ岩場がごつごつしてますので気を付けてくださいね」
「はいっ」
村の人の言葉に、僕はほくほくしながら温泉に向かった。温泉は簡易的に布で目隠しをした状態だったけど、十分入れそうだった。乳白色のお湯に硫黄の香りがする。
「おっと、ちょっと熱いけど……こりゃいいな」
道中もちょっと埃っぽくてお風呂に入りたかったんだ。
「ふわーっ! 気持ちいい」
「うん、そうですね」
独り言に唐突に返事をされて僕は飛び上がった。まさかこの声は……。
「私はもう少し熱い方が好みです」
「レ、レイさん……!? なんで入って来ちゃうんですか?」
「フィルが入っているからです」
「入っているから入ってきちゃ駄目なんです!」
僕は裸をバッと両手で隠した。なんだこれ? 逆じゃないか?
「フィル、気にすることはありません。私はドラゴンですよ」
「ドラゴンでも気にします!」
そうなのだ。ドラゴンだとしても見た目はただのお姉さんなんだもの。僕は色々と不都合が生じてしまう。その時、うしろからまた気配があった。
「あ、フィル様……シオンが背中をお流しします」
「シオン!? レタ!? なんで君たちまで入って来ちゃう訳?」
「私達の国では親愛を示す為に一緒に湯船に入るのです」
「本当は浴衣を着るんだけど無いからしょうがないわよね、レタ」
「はい、致し方ありません。おひい様」
僕は眩暈がした。なんでみんな僕がいるのに普通にすっぽんぽんで入ってくるんだ。僕だって男だぞ! と、慌てて温泉から出ようとしたら足を滑らした。
「あっ」
「危ない!」
僕はごんっ、と岩に頭をぶつけて気を失った。
「うーん……」
「あ、レイ様! フィル様が目を覚ましました!」
僕が目を覚ますと三人が上から心配そうに覗き混んでいた。
「温泉で頭をぶつけたんですよ、大丈夫ですか?」
レタがそういいながら額の布を取り替えてくれる。
「え、ああ……大丈夫そうです」
「そう良かった」
「あんなにはしゃぐと思わなかったです。やっぱり男の子ですね」
「レイさん!! 元はと言えばレイさんが入って来ちゃうから……!」
「元気が一番」
駄目だ、話が通じないや。僕がため息を吐いているとレタがこう言った。
「安心してくださいね、体はみんなで洗ったのでもうこのまま眠ってしまって大丈夫ですよ」
「……なんだって?」
「無事親好も深められてよかったです」
体を……洗った……? 気を失ってる僕を? なにこの人達、おかしいんじゃないの。って事は僕のすっぽんぽんも見られちゃった訳だ……!
「あああああ」
「フィル様!?」
「フィル大丈夫ですか!? やっぱり頭が痛いのですか?」
「……いや、大丈夫……お願いだからしばらくそっとしておいて……」
今度こそ僕は頭を抱えた。ひどいやっ。もう!
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