9話 奪還作戦
「フィルが殺すなというから、手加減してあげますよ」
「何を、ふざけやがって!」
レイさんの挑発に頭に血が昇った男が突進してきた。それをレイさんは足下をすくい、引こり返す。男は派手な音を立ててテーブルにつっこんだ。
「おい、何やってんだ相手は女と子供だぞ!?」
別の男がレイさんに立ち向かって行く。レイさんはちらりとその男を見ると、無言で顎を打ち抜いた。
「おごぉ……!!」
「よくもやってくれたな」
今度は剣を持った男がレイさんに襲いかかる。しかし、その男の目は驚きに見開かれた。
「な……馬鹿な」
「馬鹿はお前ですよ」
レイさんは自分に振りかぶられた剣の刀身をむんずと掴んでいた。そして男から剣を引っこ抜くと剣の柄で男を殴った。
「これで全員かな」
「レイさん危ない!」
僕は思わず叫んだ。レイさんの後ろから最初につっかかって来た男がナイフを構えていたからだ。
「効かないですよ?」
レイさんは特に慌てる事もなく、男の頭をわしづかみにした。
「丁度いいです。あなたたちが捕まえた子供の居場所を教えなさい」
「ち……地下だ……」
男はそう答えると倒れた。
「フィル、行きましょう」
「あ、ああ……うん」
部屋の奥に地下への入り口があった。
「……まあ」
レイさんは灯火の魔法であたりを照らした。
「……誰?」
そこには赤銅色の肌と白い髪と黒い髪の子供が二人居た。鎖のついた手錠で繋がれている。
「私はレイ、こちらはフィル。あなたたちを助けに来ました」
「助けに……?」
子供達は怯えた顔でこちらを見た。
「ドラゴンの卵を持っていたでしょ? それを頼りにここに来たんだ」
僕はなるべく興奮させないように、優しくゆっくりと語りかけた。
「ドラゴン! あれは大事なものなのです、返してください!」
子供の一人がパッと顔をあげた。随分汚れているけど、女の子みたいだ。
「うん、もちろん。レイさん鎖をとってあげて」
「分かりました」
レイさんはぷつぷつとまるで糸を切るように鎖を切った。
「さあ、行こう」
階段を上がると、そこは惨憺たる有様だ。子供達は目を見開きながらそこを通った。
「あとで、衛兵に言っとかなきゃね」
「そうですね」
まだ怯えている子供をつれて、僕達はホーマさんの店へと戻った。
「ホーマさん、この手錠とれますか?」
「お安いご用じゃ」
チキチキと細い棒を使ってホーマさんが手錠をとる。
「ほら、これ君たちのだろう」
僕は赤いドラゴンの卵をその子達に渡した。
「マギネ……良かった、生きてる!」
女の子は胸元の袋にその卵を入れると、きゅっと抱きしめた。
「着替えを用意したから、あっちで体をキレイにするといいよ」
僕の古着を用意して、桶を手渡した。女の子なのにこんな扱いされてかわいそうに。二人が汚れを落としている間に、僕はお茶を淹れた。
「あの……ありがとうございました」
「ああ、さぁお茶をどうぞ」
僕がカップを手渡すと、二人はお茶を怖々と飲んだ。
「どう、落ち着いた?」
「その……このご恩をなんとお返ししたらいいか」
「ほとんどやったのはレイさんだし。困った人を助けるのは当然のことだよ」
そう言って僕は二人に笑いかけた。そういえば、この二人の名前を聞いて居ない。
「二人とも、よかったら名前を教えてくれる?」
僕がそう言うと、白い髪の女の子がピンと背を伸ばして答えた。
「私の名前はシオン、こちらはレタです……すごいですね、あの男達を一瞬でやっつけるなんて」
「やっつけたのはそこのレイさんだよ」
「確かに私ですが、フィルがやれといったからです」
「あの……貴方は?」
シオンが不思議そうにレイさんに問いかけた。
「私ですか? 私はフィルの
それを聞いたシオンとレタの目が大きく開かれる。
「ドラゴン……人化してるということはまさか精霊のドラゴン」
「お前達は私をそう呼ぶのでしたっけね」
レイさんがそう答えると、シオンとレタは地面に頭をついた。
「ありがとうございます……! このような形で精霊竜の加護を頂くとは……」
「あ、あー……二人とも顔を上げてください」
おでこをすりむきそうになっている二人に僕は声をかけた。すると、バッと二人が僕を見た。
「という事はこの方は精霊の竜使い……! 申し訳ありません、こんな着替えまで……」
「あーいや、そのー」
「国に着きましたらこのお礼は必ず……!」
「そんなのいいですから! ……ん?」
僕は違和感を感じて二人を見た。肌の色や、さっき来ていた服の意匠からしてこの国の人間では無い。……まさか。
「あのー、君たちのお父さんとかお母さんは? まさか二人で旅をする訳じゃないよね」
「それは……お付きの者達はレタを除いてあの男達に殺されてしまいましたし、仕方ありません」
「ん? お付きの者?」
今度は僕が首をかしげる番だった。
「ああ、申し遅れました。私はティリキヤ王国、第6王女シオン・カーワ・ティリキヤです。レタは私の侍女です」
「王……女……」
僕は眩暈がした。目の前で異国の王女様が子供だけで旅をしようっていうんだから。
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