5話 仕事探し
「う……やっぱり……」
朝、目を覚ます。すると当然のようにレイさんは僕のベッドに潜り込んでいた。
「おはよう、フィル」
「おはようございます」
反応したら負けだと思った僕はすまして朝の挨拶をした。
「さ、さっさと朝食に行きましょう」
「うん、また付き添いですね」
そんな赤ちゃんみたいに扱わないで欲しい、と僕は思ったけれど口には出さなかった。
「女将さん、おはようございます」
「おはよう。よく寝られたかい」
女将さんはにっこりと微笑んだ。厨房から漂ういい匂いにぐーと腹の虫が鳴る。
「はい。スープとパンを貰えますか」
「あ、ワインとやらをくれ」
僕が朝食を頼むと、レイさんが両手をあげてワインを頼んだ。
「レイさん、朝からお酒を飲んじゃだめですよ」
「フィルはご飯を食べるんだし、おあいこじゃないですか」
結局、レイさんのよく分からない理論に負けて女将さんにワインを持ってきてもらった。
「ふう、美味しいです。樽一杯でも飲めそうです」
「そ、それは困るなぁ」
レイさんはグラス一杯のワインを一息に飲むとうっとりと呟いた。よっぽど気に入ったみたいだ。たんまり稼ぎがあれば昼から樽酒を飲ませてあげられるんだけどね。
「さ、そしたらワインの為に仕事を探して来ます。レイさんは……」
「無論、付いて行きますよ」
「そうですか……やっぱり」
僕はこの過保護なドラゴンを連れて街に出た。確か三軒隣のなんでも屋だったかな。
「すみませーん」
そこは怪しげな雰囲気の店だった。重たいカーテンの向こうにカウンターの様なものがあり、あちこちに瓶やガラクタが転がっている。
「あれー、いないのかな」
「いや誰か居ますよ」
レイさんがカウンターの向こうを指さした。僕がつま先立ちでそこを覗くと、小柄なお爺さんがそこに丸くなっていた。
「あのー! おはようございまーす!」
「ひゃああああ!?」
僕が大声を出すと、お爺さんは驚いて飛びあがりカウンターの端にゴツンと頭を
ぶつけた。
「ごめんなさい」
「なんじゃー? 客か?」
お爺さんはぶつけた頭をさすりながら僕を見た。
「いえ……そこの宿屋でここで使い走りを探してると聞いて」
「おお、そうだ。ぼうず、ここで働く気か」
「はい、できたらそうしたいと」
「そうか……名前は?」
「フィルです」
僕はお爺さんに名前を名乗った。
「ワシはホーマ。ところでそこのお嬢さんは?」
「あぁ、その……付き添いというか……」
「ふうん? なんだか妙な匂いがするのー」
お爺さんはレイさんの方を見て不思議そうな顔をしている。そういえばこのお爺さん、妙に背が低いな。
「もしかしてホーマさん……」
「そうじゃよ、ワシはノームだ」
ノームは人間より小柄で色んな知識を持っている。たまにこんな風に街にすんでいるノームもいる。感も人間よりするどいのだろう。レイさんの違和感をいち早く察知していた。
「仕事内容を教えて貰えませんか」
僕はホーマさんの興味を遮るようにして、話を続けた。
「うん、ワシが作った薬や道具を届けて貰いたい。仕事が無い時はここの片付けやワシの手伝いをして貰いたいんだが……あんた計算は?」
「読み書きも計算も出来ます。手先はあまり器用ではないですが……」
「構わんよ。一月金貨一枚、10万ゴルドでどうだい」
収入もそんなに悪くはない。住み込みだったらって話だけど。
「あの、住み込みは無理ですか?」
「そうだの……この店舗に店番代わりになら住んでもかまわんよ」
「本当ですか! では雇ってもらえますか?」
「いいよ、といいたい所だが……」
ホーマさんはちらりとレイさんを見た。
「あの娘の正体は一体なんなのかね?」
「うーん……」
雇い主になるのだから話しておいてもいいと思うけど、どう説明したらいいものか……。
「フィル、私が説明しましょう」
僕が迷っているとレイさんが助け船を出してくれた。よかった。
「ホーマ、私はドラゴンです」
「へっ、ドラゴン……? 人化もするのかい」
「ええ。それで今は家のないフィルと旅をしているのです」
「ドラゴンがなんでこんな男の子に……?」
「気に入ったからです」
レイさんのめちゃくちゃな説明に、僕とホーマさんの顔が引き攣った。
「そうか……ぼうずも大変だな……」
ホーマさんはなんだか気の毒そうな顔でこっち見てくるし! 僕は頭を抱えた。
「どうせならあんた、店番もしてくれないか。二人で15万ゴルドだそう。なに、このカウンターに座っててくれりゃいい」
「フィル、それでかまいませんか?」
「いいですよ……僕は」
僕が頷くと、レイさんもホーマさんに頷いた。
「それじゃあ、あんた達の使う部屋を案内するよ」
そこは店の二階でベッド以外何にも置いていなかった。
「ベッドが一つしかないが……」
「問題ないです」
ホーマさんが申し訳無さそうに言ったのを食い気味にレイさんが遮った。
「それじゃ、明日から仕事って事で」
「はい、よろしくお願いします」
僕等はそのまま生活用品を買うために街に出た。
「これ、レイさんの分」
レイさんに財布から二枚ある金貨のうち一枚を渡す。
「? 私はなにも必要ないぞ」
「レイさんも働くからお金を持つ権利があるんだよ。そうだな、ワインでも買ったらいいよ」
「ワインを……買う……」
僕がそう言うとレイさんはとっても嬉しそうにニッコリと笑った。
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