4話 ロージアンの街

 ロージアンの街は中規模の要塞都市だ。僕は学園に来る前にこの街で一泊した事がある。


「あっちで検問を受けるんだ」

「へー、フィルは良く知ってますね」


 レイさんは強いけれど、こういう人間の世界の事については疎いみたいだった。仕方ないか、ドラゴンだもん。

 僕達は門を抜けて停車場に着いた。


「ここで馬と馬車を預けるんだ。……お金足りるかな」

「それじゃあこうしましょう」


 レイさんがスカートの裾をちょっと持ち上げると馬車と荷物が消えた。


「なにそれっ」

「なにって、収納魔法ですけど?」

「そんな規模の見た事ないよ」

「もっと入りますよ」

「うへぇ」


 僕も収納魔法はなんとか使えるけど、コインくらいしか入らない。


「……で、この街で何をするんですか?」

「うーん、できれば仕事を探したいなって」

「仕事?」


 レイさんは首を傾げた。


「うん、生活しなきゃならないし……学校にお金も送らなくちゃね」

「学校?」

「学校を壊しちゃったのは事実だし、ちょっとでも弁償しないと」

「追い出されたのに悠長ですね」

「そうかな」


 レイさんはちょっと怒っているように見えた。


「だったらさっきの盗賊の懸賞金も貰っとけばよかったじゃないですか」

「そういう訳には行かないよ。たいした事してないんだし、あんなに親切にしてくれたんだよ?」


 僕がそう言うと、レイさんはため息をついてしょうがないですね、と言った。


「あ、分かってると思うけど街中でドラゴンの姿になっちゃ駄目だよ」

「はいはい」


 レイさんに釘を刺してから、僕達は街の中で中くらいの宿屋に泊る事にした。レイさんがいるので個室が欲しかったし、そんなに長く居るつもりもなかったからだ。


「狙うは住み込みの仕事だな」


 小さい頃と違ってまだ力もあるし、読み書きや計算も学園で習った。本職の魔法使いとまでは行かなくてもなにか仕事はあるだろう。


「でもまずは腹ごしらえっと。レイさん、下の食堂に行こう」

「私はいいですよ。ここにいる。食事はしないし」

「一人の食事は寂しいよ」

「そ、そうか。なら」


 可笑しいよね。学園に居た頃は周りに大勢いたのに一人で食べていたくせに。今朝の朝ご飯は本当ににぎやかで美味しかったんだ。


「本日のシチューにパン……あと……」


 僕はレイさんを見た。さっきはお茶を飲んでたな。


「ワインをください。こっちだけ」


 僕は食事を、レイさんにはワインを頼んだ。


「うん、まぁまぁおいしい」


 運ばれて来たシチューは味はそこそこだがボリューム満点だった。鶏肉にごろごろと芋が入っている。一方、レイさんは気乗りしない顔で赤いワインに口をつけた。するとパァっと顔が輝いた。


「……うまい。うまいですよ、フィル」

「あっ、お口に合ってよかったです」


 レイさんは少し興奮気味にワインを飲み干して、もう一杯頼んだ。


「おかわ……」

「レイさん、予算が……」


 さらにレイさんがおかわりしようとした所を僕はとめた。


「むう……働かなければならないとはこういう事ですか……」


 レイさんは指を咥えながらそう言った。ちょっと違うと思うけどね。とりあえずこの街で仕事を探すというのには賛成して貰えそうだ。


「女将さん、この辺で人手が欲しいところとかないですかね」


 僕は宿の女将さんに聞いた。女将さんは僕を頭のてっぺんからつま先まで見ると、そうねぇと考え始めた。


「煙突掃除ならいつでも人手が足りないわね、細身の方がいいし」

「煙突ですか……」


 高い所はちょっと怖いなぁ。それしかなかったら仕方ないけど。


「あっ、そうだ。三軒先のなんでも屋が使い走りが欲しいとか言ってたわね」

「本当ですか! じゃあ明日行ってみます」


 仕事探しは明日にする事にして僕達は部屋に戻った。用意してもらったお湯で簡単に体を清める。


「レイさんはいいんですか」


 ベッドから動こうとしないレイさんに聞くと、こう答えた。


「この服も髪も鱗と変わらないから必要ありません」

「そうなんだ」

「それより、身支度はすんだんだでしょう?」

「はい、もう寝ます」

「ではこっちへおいでおいで」


 レイさんはポンポンと自分の寝転がっているベッドを叩いた。


「……嫌ですよ!」

「二人の方があったかいでしょう」

「駄目です! 絶対だめ!」


 どうしてもレイさんは一緒に寝たいらしいけど、僕はごめんだ。僕はもう一つのベッドに飛び込んで毛布にくるまった。


「冷たいですねー」


 そんな声が聞こえてきたが僕は無視した。

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