第131話 無敵陥落


ノルンが発現させたモニターには金色のオーラに包まれ笑みを浮かべる亮汰と焦りの表情を作るハビナとライーザさんの姿が対照的に映し出されている。


今の亮汰は無敵スキルである天上天下てんじょうてんげが時間制限がなく発動しているまさに無敵の男状態だ。

そんな奴に攻略法なぞあるのかとノルンに問い詰める。



「ここは審判を司る者としてヒントを出そうかな。――――ほいっ。後はあの子たち次第だよ。」



ノルンがモニターに向けて手をかざすとキィンと澄んだ音が響く。



「ヒントって・・・おや?亮汰の首元に緑色の、光?」



直後、亮汰は高笑いをしながらライーザさんとハビナに拳を繰り出す。

二人は辛うじて避けつつ反撃を試みるが防御を気にしなくてもいい亮汰の連撃に中々手が出せないでいるようだ。


例の神器の力なのか分からないけど亮汰のスペックも大幅に上がっている様だな。モニター越しで竜眼が使えないのではっきりしないが。





「オラオラオラ!もうお終いかよ!?だったら・・・これでも喰らいな![闘気砲オーラキャノン]!!」



亮汰はここが勝機と見たのか、両拳を突き出しそこから闘気を極太のビームように放つスキルを使用した。

俺が以前見たことのある片方の拳から出す闘気拳オーラナックルと比べ倍以上の太さと威力があるようだな。



「こ、これは・・・!ライーザさん!私の後ろにっ![獅子の咆哮レオ・ハウリング]!ぐっ・・・うおおおおお!!」



ハビナが咄嗟にライーザさんを背にし闘気砲に対峙する。


その直後、スキル獅子の咆哮を使い碧風びゃくふうの武人状態となりハビナの闘気を全開にしてその攻撃を受け止めた。



「ハビナ殿っ!いくらその状態でもこの攻撃は!」


「いいから!絶対に後ろには通さん!その隙になにか・・・!カセを倒す何かを!」



亮汰のスキルを全身で受けるハビナからブシュ、ブシュ!と血しぶきが上がる。



「ガハハハ!倒すだと!?無理無理!このスキルを使っている間は誰も俺を止めらんねぇぞ!銀次でも魔王でも持ってこいや!!」



そう叫ぶ亮汰の闘気砲は勢いを増す。ノルンからの魔力供給にものを言わせているのだろう。



「ガアアアア!!負けん!私は負けんぞ!ギンさんを取り返すために負ける訳にはいかないんだ!」


「ハビナ殿!くっ・・・!何か、何かないのか!・・・すぅ、ハァー。よし!焦るな。集中しろ。・・・ん!?あれは・・・もしかすると!!」





「ハビナっ!おい!ノルン!これ以上あいつらが傷つくのは我慢ならない!俺をあそこに連れていけ!もしハビナたちに何かあったら・・・!俺は・・・!」



俺は思わずモニターに向かって叫んでいた。ノルンは殺すことはないと言っていたが思わずノルンを睨みつける。

俺ならば今の亮汰にダメージを与えられないまでもあの攻撃を防ぐことは出来るだろう。その後いざとなれば竜装化を使ってでも・・・!



「・・・大丈夫だよ。よく見て。あの二人、頑張ったよ。」


「えっ?」



ノルンの少し安堵したかの様な優しい声を聴き再度モニターを覗き込む。


そこにはボロボロになったハビナ、仰向けにぶっ倒れている亮汰、片膝を付き騎士剣を鞘に納めるライーザさんの姿があった。



「く、くそ・・・な、なんで無敵の俺様が・・・な!?じ、神器が・・・!」


「あれだけ派手に光らせていれば何かあると教えている様な物です。一か八かではありましたが。」


「そうか・・・確かに気をつけろと言われてたぜ・・・こりゃあ、俺あとで死んだかも、な・・・あ、もう、ダメ・・・」



亮汰はそう言って白目を向いて意識を失った。天上天下を発動し続けていた反動だろう。死んではいないようだが。



「や、やったな・・・流石ライーザさん、だ・・・あなたなら何とかしてくれると思ったぞ・・・」


「はぁ、はぁ、ハビナ殿が全て受け止めてくれましたから。私は視る事に集中出来ました・・・がふっ・・・!」


「ライーザさんっ!大丈夫!?ウッ!クソッ、体が・・・」


「ええ・・・魔力を一度に出し過ぎただけです・・・ハビナ殿に比べれば全然ですよ。騎士の私が守られてしまうとは情けない・・・」


「誰が守るかなんて決まりはないぞ。後は向こうが終わるのを待たせてもらおうか、な。」


「ええ・・・頼みましたよ、カオリ殿たち・・・」



そう言うと二人は眠る様に地面に伏せた。一瞬焦ったがノルンは回復させるから心配いらないと。

本当か?とリオウにも確認を取るが安心しろと言うので一応は了承した。


しかし一体何が起きたんだ?二人はなんとか亮汰を倒したらしい。モニターから目を離したことが悔やまれるな。



「銀ちゃん。仲間を思う気持ちはわかるけどちゃんと見ててっていったじゃん。」


「す、すまない?しかし・・・」



ノルンは今度は俺に怒ったような呆れたような顔を向けて来た。俺が悪いのか。



「えっと。じゃあ特別に説明するとしますか。―――あ、加瀬君の闘気砲を獣人ちゃんが全力で受け止めてるその隙にぃ!騎士の子が魔力の流れを見極めぇ!闘気砲が終わったその瞬間、ライトニング一閃!力の源である加瀬君が付けてるネックレス神器を叩き壊しましたぁ!って訳。」



ノルンが身振り手振りを入れて丁寧に解説をしてくれた。わかりやすいんだけどなんか昭和の匂いがするんだよなぁ。



「そうか。しかしあの状況でよくネックレスが弱点だってわかったもんだな。」


「うん。あんな時でも諦めずよく視てた。それに比べてあのバカ。大技使った後は注意しろって言ったのに・・・後でお仕置きだな。」



最後の「後でお仕置き」という言葉だけがこの世より遥か深い地の底から響くような冷たい声だったのを聞き、亮汰の地獄は決定したんだなと理解した。

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