第130話 無敵の男

ノルンが映し出した2つのモニターには亮汰と戦うハビナとライーザさん、ドラゴンと戦う東雲さん、西城、スララの姿があった。



「これは・・・おい、ノルン!一体どう言う事だ?なんで亮汰がハビナたちと戦ってるんだ?それにあっちのドラゴンは・・・」


「だーかーらー。ゲームだっていったじゃない。安心してよ!とりあえずシャラーグの方は殺したり殺されたりする事はないからさ!」



ニコニコと楽しそうにモニターを見つめるノルン。


シャラーグの方、という事は東雲さんたちと戦っているあのドラゴン。やはりあいつは塔の下で見た体中傷だらけのマッチョと同一人物って事か。



「その言い方だと亮汰の方は安心できないって聞こえるんだが。確かに亮汰じゃあハビナとライーザさんの相手は厳しいだろうけど。でもあの二人が亮汰を殺すなんて・・・」


「え?違うよ?あたしが言ってるのは加瀬君があの二人を殺しちゃうんじゃないかって話。一応彼には全力でやれ、でなければ殺すって言ってあるからねー。」



ムフフ、と顔をほころばせながら言うノルンに俺は激しい苛立ちを覚えた。



「お前っ!もしあの中の誰か一人でも死んでみろ!絶対に・・・絶対に許さん!」



ノルンの襟首を掴みそのまま片手でグイと持ち上げる。襟を掴むその手がギリギリを音を立てるのを自分でも感じていた。



「うぐっ・・・!く、くるし・・・!」


「銀次!その辺にしてやってくれ。こいつの悪い癖だ。・・・ノルンよ。今のはお前の自業自得だ。わかっているな?」



我を忘れ全力で掴んでいた手が突如引き剥がされた。ふと声がした方向へ顔を向ける。

するといつの間にか人型になっていたリオウが俺の手を取っていた。

まるで子供からおもちゃを取り上げる様にスッと外された感覚だ。



「ゲホっ、ケホ。うー・・・銀ちゃん、さっきの仕返し?まぁあたしもちょっとふざけ過ぎたかなー。ごめんね?」



そう言いながらノルンはぺこりと頭を下げる。あっさりしすぎじゃないか?なんだか拍子抜けしてしまったな。



「いや・・・俺も女の子に突然すまなかった。」


「女の子!?キャー!女の子だって!リオウっち今の聞いた?あたし女の子!」



ノルンが冗談だと謝ってきたし俺もやり過ぎたなと謝罪を返すと突然ノルンのテンションがおかしなことになった。なんだ、俺は地雷を踏んでしまったのだろうか。



「・・・ふぅー。って言うか銀ちゃん力に馴染むの早すぎない?油断してたとは言えあたしが掴まれるなんて・・・リオウっちはどう思う?」



ひとしきり喜び終わったノルンがぽつりとリオウに問いかける。

確かにさっきはノルンに俺の首を捕らえられ、命の選択権を握られたばかりだったな。

あれか?リオウの[創造]の力が戻った事が原因だったりするのだろうか。



「うむ。我の力が戻った事もあるだろうが・・・我が選んだ人間だぞ?普通の人間と一緒にしてもらっては困るな。」



なぜかリオウが自分の事のように偉そうにしている。

よくわからないがまあいい。それよりも・・・



「話を戻すぞ。なんで亮汰があの二人の相手をしていて尚且つ勝てる可能性がある?亮汰のスペックじゃあ流石に無理だと思うんだが。」


「んー。とりあえず見ててみようよ。その方が早いと思うから。」



ノルンにそう言われ俺は亮汰たちが戦っているモニターに目を落とした。





「うおおお![疾激流舞しつげきりゅうぶ]!!」


「『優雅なる風の精霊と清らかなる水の精霊よ。我に従いいかづちと化したまえ。我が標的に落ち焦がせ!<<サンダーボルト>>』!」



ハビナの風を纏った拳の連撃とライーザさんの精霊魔法が亮汰を襲う。

二人の息の合った連携は強力なようで衝撃により亮汰を覆い隠すように土煙が上がっている。


ライーザさんが使った精霊魔法は雷か。初めて見るな。



「へぇ。あの騎士の子、複合魔法も使えるんだ。よっぽどの才能が無いと難しいんだよあれ。」



ノルンの解説を聞き複合魔法と呼ばれる存在を始めて知った。

複合魔法は強力だがかなり高度で魔力の消費もデカいらしい。そもそも多系統を使いこなせないとまず不可能だそうだ。


多系統・・・確かメーシーの称号がオールマジック、全ての系統の魔法が使えるとかなんとか言っていたな。とするとメーシーはとんでもない魔術師なのかも知れないな。



「そうなのか。初めてみるが詠唱も風と水を使っていた様だな。ライトニングセイバーを使うライーザさんならではなのだろう。」


「あの騎士の子は強くなる。加瀬君よりも鍛えがいがありそうだよ!ふふふ。楽しみになってきた!あたし色に染めちゃおう!」



ノルンはモニターを見ながらなにやらぶつぶつとほくそ笑んでいる。

ちょっと気持ち悪いな。



「だが今の攻撃は強力そうだった。いくら亮汰が修行したとはいえあれでは・・・」


「どーかな?まー見てて。」



ノルンはニコニコと余裕の表情を崩さない。これは何かあるな。





「やったか!?」


「はぁ、はぁ、ハビナ殿。そうなら嬉しいのですが今までの事を考えると・・・ッチ!やはり・・・!」



舞い上がった土煙が晴れだすとそこにいる人影をみてライーザさんとハビナの表情が悔しそうに歪む。という事は、だ。



「ハッハー!!全然効かねぇな!あんたらの力はそんなもんか!?」



二人の攻撃を受けても全くの無傷の亮汰が腰に手を当て見下すように笑っていた。



「今のでも無傷、ですか。全く呆れて笑いが出る。」


「おいカセぇ!!貴様何かズルしてないか!?」



二人はギリ、と奥噛みしながら武器を構える。しかしその表情は疲労と焦りが浮かんでいる。





「アハハ!ズルだって!あの獣人の子なかなかいい感してるじゃん!」



ハビナの負け惜しみとも取れる発言を聞きノルンは嬉しそうに笑っている。



「いい感だと?ノルンお前亮汰になにかしたのか?」


「銀ちゃんは気が付かない?あの加瀬君の姿を見てもさ。」


「亮汰の?うーん、相変わらずの筋肉バカっぽいとしか・・・あ、まさか・・・」




亮汰の姿を見ると普段とは違い金色のオーラに包まれている。という事は今の亮汰はスキル天上天下てんじょうてんげを使っているという事だ。


10秒間の間、無敵になれるという固有スキル。発動中は文字通り無敵。俺の全力も通さない。だが前述の通り10秒間という短すぎる時間制限がある、のだが・・・



「銀次よ気が付いたか。加瀬のスキルの持続時間が長すぎる。ノルン、お前"創った"な?」



リオウの言う通り俺が亮汰たちの戦闘を見始めてから10秒はとうに過ぎている。

にもかかわらず亮汰の体は金色に包まれたままだ。リオウの言い方だとノルンが何かした様だが?



「ご明察。リオウっちから預かってた[創造]の力を借りて加瀬君の時間制限を取っ払うトンデモアイテムを創っちゃいましたー!言うなれば神器ってやつ?パチパチー!凄い?凄いでしょ?」


「本来の持ち主ではないお前があのレベルの神器を創る為には相当量の力を使っただろうに。よくやる。」


「まあねぇ。あたし天才だからー。って言いたいけど意外とキツかったかな。だから女勇者ちゃんたちの方はシャラーグに任せる事にしたしね。」



おい、なんかノルンがヤバい事をサラッと言ってのけたぞ。

リオウもなるほどな、ぐらいに言ってるけど。



「なっ・・・!天上天下の制限を無くすだと!?となれば今の亮汰に勝てる奴なんで誰もいないだろ!それこそグレインにもだ。」


「そう!と言いたいところだけど流石にそこまではね。私が常に魔力供給していなきゃならないし効力があるのはこの塔の中だけかな。」



なるほど、そういう事か。それでも今の亮汰は文字通り無敵。ハビナとライーザさんどころか俺も倒すことは出来ないだろう。



「でもそれじゃあノルンが言うゲームにならないだろ。絶対に勝てないチートがいたらそれはもうゲームじゃない。」


「うん。それじゃ意味ないからねー。こっちの戦いはアレに気が付けるかって所が一番のポイントなのです!」



ノルンはズビシッ!と効果音が付きそうに人差し指を立てて俺に突き付けて来た。



「取り合えず乗るけどアレ、とは?」


「いー質問ですねぇ。とは言えこのままじゃ審判を司る者としては申し訳ないからヒントを出そうかな。――――ほいっ。後はあの子たち次第だよ。」



どこかで聞いたことのあるセリフをいいながらノルンがモニターに向けて手をかざすとキィンと澄んだ音が響いた。

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