第129話 審判を司る者

「リオウ、だよな?お前その姿は・・・」



俺の目の前にいる綺麗な顔立ちをした長髪の男に問いかける。

雰囲気というか感覚でリオウだとわかってはいるのだがどうしてもイメージと結びつかないのだ。



「うむ。首のあたりがこるからこの姿はあまり好きではないのだが。ノルンが一度見せておいた方がいいと五月蠅いのでな。ノルンよ、もういいだろう?戻るぞ。」



そう言うとリオウは銀色の光に包まれると以前見た巨大なドラゴンの姿に戻っていた。



「首がこるって。爺みたいな言い方だな。まあ実際リオウがいくつなのか知らないけど。それよりもリオウ、ここから出るにはどうしたら――――」


「あーあ。リオウっちの人型結構好きなんだけどなー。あっ、人型の時はリオウっちって呼んじゃいけないんだった。またシャラーグにグチグチ言われちゃう。ね?リオウ様?でももう戻ってるし別にいいかー。」



俺の言葉を遮るようにリオウの隣でわちゃわちゃと話すゴスロリ少女のノルン。恐らくこいつも・・・



「様など付けなくていい。そのなんとかっちと言うのも止めるよう言っているはずだが。なぜ西城といい訳の分からぬ呼び方をするのだ。・・・まあいい。ノルンよ。」


「はいはーい。銀ちゃんもなんとなく気付いているようだけど、ね?さぁわれのしんのすがたをみるがよい!」



ノルンは芝居がかった口調をし、またもその場でくるくる回っている。その直後ノルンの体から緑色の光が発せられそれは徐々に目が眩むほど強く発光した。




「じゃじゃーん!これがあたしの本当の姿でーす!どう?カワイイ?カワイイよね?」



光が収まり俺の頭上からの声に目を向けるとそこにはリオウよりも一回り小さいが俺たちからすると巨大な緑色のドラゴンが空に浮いていた。


明らかに演出であろうがガーッ!と咆哮を上げている。



「・・・予想はしていたが、やっぱり驚いたな。」



先程俺が攻撃を仕掛け、捕らわれた際に見せた力、リオウと顔見知り、そのリオウの言動から推測すればノルンたちがリオウと同じ竜であることは想像に難しくなかった。



「うーん。その薄い反応。ちょっとつまらないけどまぁいいや!。私は一応「審判」を司るドラゴンなのだ!よろしくね!」



ノルンはその巨大なドラゴンの体躯に似合わない甲高い声で自己紹介をする。

よろしくねって言われてもな。



「審判・・・いや、リオウの感じを見ていれば俺たちの敵では無さそうではあるが・・・しかしまずなんで亮汰を攫ったりしたんだ?お前たちの目的はなんだ?その辺りを説明してもらえないとこっちとしても反応に困る。」


「ああー。んーめんどくさいけど話しておかないとだね。リオウっちもちゃんと補足するよーに!」


「うむ。」


「なんであなたの事も話すのに偉そうなの?全くもう。えーっと、こんなに目線が違うと話しづらいから戻るね。」



そう言ってノルンはまたも緑色の光を発すると元のゴスロリ少女の姿に戻っていた。



「ふぅ。やっぱこっちの方が落ち着くー!だってカワイイでしょ?ねぇ?」


「あ、ああ・・・そうだな。それより早く説明してくれ。」



どうなの?とグイグイ顔を寄せてくるノルンを押しのけながら説明をと促す。なんだか面倒な奴だな。



「ん。じゃあまずここはどこかって話なんだけど、なんとここは私の精神世界でーす!ここで迷っちゃうと私が探さない限り永遠に出られませーん!」


「そうか。そんな気はしていたが。」



それでリオウによって連れていかれた俺の精神世界と似ていたのか。人の心の中ってのはこんな感じなんだな。いや、ノルンは竜だけど。



「やっぱその反応つまんない!じゃあさ、加瀬君の事!あれは攫ったって言うよりむしろ助けてあげたんだよ?感謝して欲しいよねー!彼も君も。」


「助けた、だと?」


「そうだよ。あの時、加瀬君の天上天下は切れる寸前だった。無敵が切れたらあの魔力量で加瀬君は一瞬で灰になってたかなー。だからその直前にこの私の能力で次元の扉を開けて彼を回収したって訳。」



確かにあの時に最大出力で放った竜言語魔法アトミックレイを無敵状態ではない亮汰が受けたら・・・ノルンの言う通りになっていただろう。



「そうか。亮汰も言っていたかも知れないが俺からも感謝するよ。だが俺も助けたって言うのは?」


「えー・・・だってほら、銀ちゃんがあのまま加瀬君を焼き殺してたら銀ちゃんの心は今と同じようにしていられるかな?」


「あ・・・それは・・・」



ノルンは少しだけサディスティックな笑みを浮かべながら俺の顔を覗き込む。

ノルンの言う通りだ。もし俺が亮汰をこの手で殺していたら。多分、俺は自分に絶望し怒りのままにすべてを・・・



「ね?だから私はあなたたち二人の、ううん。この世界にとっての恩人だという事を忘れないよーに!リオウっちもだよ!貸し1つね!」


「・・・わかっている。」



リオウも神妙な面持ちでノルンの言葉を肯定している。やはりあのままだと俺は"そう"なっていたのだろう。



「それについては改めて礼を言わせてもらう。後はなぜわざわざ俺たちを挑発して塔の攻略なんかをさせたんだ?そのまま亮汰に会わせてくれれば良かったんじゃないのか?」


「それはねー。このままじゃあ銀ちゃんたちは確実に死ぬからだよ。」


「え?」



死ぬ?どういう事だ?



「それについては我から話そう。以前銀次はグレインと戦ったな?その時にどう思った?」



俺が言葉に詰まっているとリオウが俺に問いかけて来た。グレインと戦った時、か。



「そうだな。ハッキリいって敵う相手じゃないと思ったな。後に教えてもらった竜装化を全開にしてもどうか・・・」



グレインの異様な雰囲気もそうだったしグレインと魔法を打ち合った時、あいつが手を抜かなければ確実にやられていただろう。



「うむ。我もグレインの力があそこまでになっているとは予想外であった。あの時は銀次を無理に竜装化させる事でなんとかしようとは思ったが・・・銀次以外の連中の安全は保障できなかったがな。」


「なっ・・・!おいリオウ、お前・・・!」



さらっと言いやがって。俺だけが助かったなんてそれこそノルンがさっき言っていた事になりかねないじゃないか。



「まあまあ。そうは結果ならなかったからいいじゃない?で、話を戻すけどこのままじゃ銀ちゃんたちはあいつに勝てない。だから鍛えてあげようって訳!」



そういってパチンとウィンクをするゴスロリ少女。

ドラゴンに鍛えてもらえるのはありがたい事だが気になることもある。



「結果論だとそうだが・・・まあいい。だがなんで俺だけじゃなくあいつらもまでそんな事を?」


「んー。だって銀ちゃんたちと一緒に来て今はあいつの所にいる男の子。あの子――――」


「ノルンよ。それは今はいい。とにかく銀次の足を引っ張られても困るのでな。強くなれるものならなっておいた方がいいだろう。」



ノルンの言葉を切る様にリオウが言う。なんだかリオウのそういうのは珍しい気がするな。言い方も含めてだ。



「わかったよ。それで俺はどうすればいいんだ?ここは時間の流れが違うらしいし何か修行的なものでもするのか?」



そう言ってはみたものの修行って何するんだろうか。重い物を持って走るとか素振りとかか?



「いや。銀次の方はもういい。我の力をノルンから返して貰ったからな。ここから出て力の使い方を確かめればいい。」



ああ。確かノルンがリオウの「創造」の力を持っていたんだったな。

この様子だとリオウから奪ったのではなくてグレインから守っていたって感じか?



「お、その顔!説明しなくても理解してくれたみたいだねー?そう!私はリオウっちの力を守るためにこの島を封印して隠してたんだよ!」


「!?」



びっくりした。心を読まれたのかと思ったぞ。そんなに顔に出てたか?



「そ、そうなんだな。ありがとう。じゃあ取り合えずはここを出てあいつらに話をした方がいいな。」


「ダメダメ!今いい所なんだから!さっきも言ったでしょ?ゲームは楽しくないとね!」



そう言いながらノルンは両手を前方に突き出すと大きなモニターの様な窓が2つ現れる。



「あれは、亮汰!?それにこっちはドラゴンか!?」



一つのモニターには亮汰と戦うハビナとライーザさん、もう片方にはドラゴンと戦う西城、東雲さん、スララが姿が映っていた。

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