第128話 見知らぬ相棒
「あの殺気を受けて逃げ出さないとは二人とも流石だな!待ってた甲斐があったぜ!」
とてつもないプレッシャーを感じて一度は足を止めたものの気合で屋上への階段を進んだ私たちの前にまさかと思える人物が立っていた。
「あなたは・・・カセ殿!?」
「おう!久しぶり・・・ってあんたたちにはそこまででもねぇか。」
そこにいたのは大森林でギンジ殿の竜言語魔法から皆を守り、その後行方不明になっていた勇者カセの姿があった。
何やら依然見た時より少し体つきが大きくなっている様な気がする。それと先ほどの殺気、彼が?いや、そんなはずは・・・
「カ、カセ!?チッ、ハズレか!何となくギンさんはこっちだと思ったのに・・・」
「ハビナ殿!ま、まあ無事でよかった。しかし先ほどの殺気は一体?それに・・・」
露骨に舌打ちをするハビナ殿を窘める。その後ふとシャラーグの言っていた事を思い出した。
二つの塔を攻略し同時に証を手にすることでギンジ殿とカセ殿を開放すると。
反対の塔を見るとまだカオリ殿たちは屋上までたどり着いていない様子だった。
私たちはまだ証を手に入れていない。では何故、ここにカセ殿が?まさか塔の攻略とは・・・
「ハズレとはひでぇな。ハビナちゃん。まぁ銀次じゃなくてガッカリかも知れねぇが・・・その様子だと全く理解してねぇみたいだな!ライーザさんは気付いたみてぇだが。」
「む?ライーザさんどういう事だ?」
ガンガン、と両拳を自分の胸の前で打ち付けるカセ殿を見てだいたい理解した。だが何か違和感を感じる。
「こちらの塔の攻略の条件にカセ殿を倒す必要がある、といった所でしょうか。私たちはあなた方を助けるために来たはずなのでよく分からない事になっていますが。」
「正解だ!先に行っておくが・・・殺すつもりでやるぜ。そっちも手加減はいらねぇからよ!」
そう言ったカセ殿がドンと地面を一度踏み鳴らすと強い衝撃が私たちを通り過ぎて行った。
殺す?なんだこの力は?以前のカセ殿より遥かに強い力を感じる。
「ちょ、ちょっと待て!なぜそうなる!?訳が分からないぞ!それに二人がかりでカセと戦うのは卑怯になってしまう!」
「いえ。ハビナ殿。落ち着いてよくカセ殿を見て下さい。二人がかりでも少々厳しいかもしれません。」
躊躇するハビナ殿に冷静になる様に助言させてもらう。ギンジ殿の様に相手をステータスを看破することは出来ないが相手がどの程度の力量なのかはハビナ殿もわかるはずだ。
「!?・・・これは・・・!だがあのカセだぞ!なんで急に・・・!」
「わかりません。なぜ私たちに敵対するのかも。ですが油断は禁物です!」
少し前まで彼はパワーはあるがまだ私の方が総合的には勝っていると思っていた。
あくまで現時点ではだが。彼やカオリ殿、マユミ殿たちは勇者なのだ。
成長率が恐ろしく、しばらくすれば抜かれる事は分かっていた。それでいいしそうあるべきだと思っていたが。
「理由は・・・今は言えねぇ!だが後で教えてやるよ!あんたらをヤッた後にな!オラァ![
ゴッ!!
「なっ・・・!」
「あ、あのスキルは・・・」
突如カセ殿の体から黄金色の闘気が立ち上る。確か彼が使ったスキル、天上天下は一定時間無敵になれるといったもの。
強力だがその分、効果時間は10秒間という厳しいリスクもあるはずだった。10秒間で私たちを倒すつもりなのか。
「さっきも言ったが
カセ殿は以前の彼とは違う素早い動きで私たちに迫る。考えても仕方がない、今はやるしかないのか・・・!
「ハビナ殿!来るぞ!構えて!」
「しかし・・・ええい!わかった恨むなよ!カセ!」
迷いつつも私たちは武器を取り勇者カセと対峙する。
須藤銀次Side
「ん・・・」
どうやら俺は眠っていた様だ。
静かに目を開けるとそこは先ほどまでいた空間の裂け目の中ではなく緑一色に広がった地面と真っ黒い空というおかしな場所にいた。
「ここは・・・」
辺りを見回しふとここに似た場所に覚えがあるのを感じた。
ああ、あれだ。以前リオウに竜装化を教えられた時にきた俺の精神世界だったか?そこの地面は真っ白と色は違うが雰囲気がかなり似ている。
「チッ、異空間からまた異空間かよ・・・ってあれ?リオウ?・・・リオウ!どこだ!?」
緑一色の簡素なベッドから飛び起きる。なぜこんなところにベッドがあって俺が寝ていたのかは今はどうでもいい。
俺の腰に括られている刀からリオウの気配がない。ノルンに落とされた次元の裂け目では確かに気配を感じた。
というか魔力の爪で空間を引き裂きあそこから出してくれたのがリオウだったはずだ。
「どうなってやがる!クソッ・・・!」
焦る。突然身体の半身がバッサリと無くなった様な感覚だ。今までどれだけスペックにしても精神的にもリオウに頼り切っていたのかがわかってしまう。
・・・とにかくリオウを探さなくては。
「ちょっと!ストップストップ!もう起きてそんなに動けるなんて銀ちゃんさすがー。」
どこからともなく聞こえた俺を引き留める声に辺りをキョロキョロと見回す。
「!?お前は・・・ノルン!」
ふと背後に気配を感じ振り向くとそこには俺を空間の裂け目に落とした張本人であるノルンが笑顔で手を振りながら立っていた。
「やっほー。元気、みたいだね。ってゆうかこの世界で迷ったら探せなくなっちゃうかも知れないから気を付けてよ?」
「お前!ここは一体どこだ!?それにあいつを、リオウをどこにやった!?」
「ふふーん。教えて欲しい?どうしよっかなー?」
ノルンは白黒のゴスロリスカートをひらひらとさせながら楽しそうに回っている。
ふざけるな。俺にはこんな所で遊んでいる暇はないんだ。
「だったら力ずくで聞かせてもらう!」
くるくると回っているノルンへ向かって緑色の地面を蹴る。
小さい女の子であろうが関係ない。こいつは普通ではない、多分。
「もー。そんなにガツガツしてる男は嫌われるよ?」
手にした刀を抜きノルンへ切りかかる。リオウの気配は感じないが俺のスペックは下がってはいない様だった。
捕らえた。そう思った刹那、俺の背後から首筋に冷たく鋭い何かが当てられていた。これは、爪か。
「な・・・いつの間に・・・!」
「だからー。落ち着いて?教えないなんて一言も言ってないでしょう?」
俺の首筋に当てられていたのは先ほどまで目の前にいたはずのノルンの爪だ。
その手は子供そのもので小さいが当てられている首筋が凍るほどに冷たい手だった。
「クソっ!ふざけ・・・」
ノルンの手から逃れようとステータス変動で敏に値を振る。
死のバックチョークを逃れた俺はノルンから距離を取ろうと一気に加速した瞬間、ノルンのその小さな手が俺の首を握りつけた。
「ガハっ・・・!一体なぜ・・・!」
ノルンからは離れたはずだ。だが時間を戻したかのように俺はノルンに首を握られている。
「あまり手間取らせないでよ。わたしたちも暇じゃないんだよ?」
俺の耳元にさっきまでの甲高い声とは変わって低く心を押しつぶすような声が響く。
殺される。直感的にそう感じた。
「ノルンよ。その辺りにしておけ。」
「ごめんごめん。思ったよりも早くてちょっと本気出しちゃったよ。」
またもふいに背後から聞こえた声に俺は慌てて振り返る。
そこには白銀の鎧を身に纏い銀色の長い髪をなびかせた長身で綺麗な顔立ちをした男が立っていた。
「誰だ?・・・!?まさかお前・・・!」
「うむ。この姿を見せるのは初めてだったな。」
ふっ、とはにかむように笑うその男に見覚えは無い。が間違いない、と言うか間違えようがなかった。今までずっと一緒にいたんだ。
なぁ、相棒。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます