第127話 塔の上で待つ人は


「皆さんお気をつけて!必ず上で会いましょう!」


「オッケーや!ライーザさんたちも気を付けるんやで!」



私たちと逆の塔へ向かう為、つり橋を走るカオリ殿たちに声を掛けるとカオリ殿の元気な声が返ってきた。

マユミ殿も笑顔で頷きスララ殿はふりふりとしっぽを振って答えてくれた。



「ライーザさん!ぶち破るぞ!いいな!?」



塔の入り口である大扉を前にハビナ殿が両手に装着した爪を構える。

扉は木製だろうか?今更行儀よく入っていく事もあるまい。ここは勢いでお願いしようか。



「ええ!ハビナ殿頼みます!」


「良し!行くぞ![ビーストクロー]!!」



ハビナ殿の素早く鋭い攻撃が大扉を切り裂いた。私たちはそのまま足を止めることなく塔へ侵入する。

塔へ足を踏み入れる前にちらと反対を見るとこちらと同じくマユミ殿の魔力弓が一閃、入り口を吹き飛ばしていた。あちらも気合十分な様だ。


内部へ侵入するとそこはだだっ広い部屋の奥に上層へと向かう階段が螺旋状に伸びている。



「さて、常識的に考えればあの階段を上っていく事になる、か。」


「うおおおおお!ライーザさん!階段だ!一気に駆け上がるぞ!」



テンションの上がっているハビナ殿が奥の螺旋階段に向かって走っていく。



「ハビナ殿!無警戒に突っ込んでは・・・!」





カチ



ん?今なにか音が・・・チッ!あれは!?



「ハビナ殿!上だ!!」


「何!?しまった・・・!!」



突如ハビナ殿の頭上に巨大なトゲ付鉄球が現れた。それはハビナ殿を押しつぶさんと猛スピードで落下してくる。



「この程度!・・・え?こいつ!付いてくるぞ!」



ハビナ殿は即座に鉄球の落下地点を避けようと地面を蹴る。


しかし誰もいない個所に落ちるはずの鉄球は自然の法則を無視しハビナ殿を追尾するよう軌道を変えながら落下してくる。何者かに操られているように。


それを見た私は鉄球へ向かって跳躍、手にした剣に魔力を込めた。



「ハビナ殿!伏せて!はあああああ![ライトニングセイバー]!!」



横薙ぎ、唐竹。魔力によるエネルギーを纏わせた剣を十文字に鉄球へ走らせる。感触は悪くない。

ズン、と重厚な音を立てトゲ付鉄球は四つに地面へ落ちた。



「ふぅ、ハビナ殿。お怪我はありませんか?」


「ああ!大丈夫だ!ライーザさんありがとう!考えずに突っ込んでいってすまない・・・貴重な魔力を使わせてしまった。」



ハビナ殿は申し訳なさそうな顔をしながらうなだれている。



「心配しなくても大丈夫です。魔力量には自信があるので。ギンジ殿と出会ってからは特に。」



以前ギンジ殿に挑み自分の限界を超えて力を使った後、彼に回復してもらってから自分の魔力量が急激に増えているのを感じていた。



「そうか。だが限界があるだろう?私はギンさん程ではないが少しずつ魔力が回復するからライーザさんは出来るだけ温存しておいてくれ!」



確かそうだった。ハビナ殿はギンジ殿の隷属者になった事で微量ながらギンジ殿と同じく魔力の自動回復があった。そもそも今の鉄球もハビナ殿の力なら切り抜けられたかも知れない。

いや、かも知れないでは駄目だ。私は騎士。人を守ることが使命だから。



「・・・ええ。ですが私も後悔したくないのです。ですからお互いに力を合わせて行きましょう!」


「ああ!私がライーザさんを守り、ライーザさんが私を守る!これで完璧だ!」



ハビナ殿が私にまかせろ!と自分の胸をドンと叩くとその巨大な胸がぶるんと揺れる。

思わず胸当てをしている自分の胸と見比べてしまう。人並にはあると思ってはいたが・・・



「そうですね。恐らくあの階段を上っていく事になるでしょう。時間も多くはありません。出来るだけ迅速かつ慎重に進みましょう。」


「了解だ!足元に注意して進もう!」



周囲を警戒しつつ足早に螺旋階段を昇ってゆく。道中、落とし穴だったり槍が降ってきたり様々なトラップが行く手を阻むがそれを乗り越え昇ってゆく。


かなりの階層を上がっただろうかまたも広い大部屋に出た。上層への道は・・・あれか。大部屋の先に階段を発見した。だが簡単に通してくれそうにもないな。



「ちょっとした休憩場所、という訳ではなさそうだな!」


「ええ。この気配・・・なかなか数が多そうです。」



ハビナ殿も不穏な空気を感じたようで爪を構える。

すると予想通り、暗闇から無数の魔獣が姿を見せた。



ゲゲッーーーー!!


アオォーーーン!!


ガアァァーーー!!



魔獣共は私たちを補足すると思い思いに雄たけびを上げる。


先程砂浜で戦ったサハギン、それからリュカンティス、ロックゴーレムなどその種類は多岐にわたっているがそのどれもが黒いオーラに包まれたギンジ殿曰く、(蝕)と呼ばれるものだった。

やはり先のサハギンの群れもノルンたちが仕掛けた事が浮き彫りとなった。



「この数、中々に骨が折れるかも知れません。ハビナ殿いけそうですか?」


「ハハッ!余裕だ余裕!私の背中には王国騎士団最強の騎士がいるのだからな!存分に暴れてやる!」


「元、ですよ。ですがこれは心強い。では参りましょうか!さあ!魔獣共!私の剣の錆になりたいものからかかって来い!」


「五大獣老レオン・バーサスが娘!ハビナ・バーサスの力を見よ!」



私とハビナ殿が同時に魔獣の群れへと飛び込む。目の前のサハギンを薙ぎ、返す刀でリュカンティスを屠る。

ハビナ殿の言う通り魔力を温存するべく出来るだけスキルは使わず剣技で戦う。牽制するために初級の精霊魔法は使っているがそう問題はないだろう。


ハビナ殿はブーストダッシュを使い加速しながら次々と魔獣を引き裂いている。

やはり並みの魔獣ではハビナ殿の攻撃に耐えられ無い様だ。


あらかたの魔獣を屍に変え残るは最後の一体。恐らくロックゴーレムであろう一際大きな魔獣にハビナ殿が飛び掛かる。



「これで、最後だ![ファングクラッシュ]!!」



双爪を交差させるとゴーレムの体が上下半分に分かれボロボロと崩れ落ちた。



「終わったか。流石ですね。ゴーレムを爪で粉砕するとは。」


「ハハハ!ギンさんから貰った力のおかげだ!というかあの魔獣、ライーザさんも倒していたじゃないか?」



ロックゴーレム相手には抑えてはいたが魔力を込めた攻撃をしていた。でなければ簡単に倒せはしない。



「私はまだまだです。さあ先へ進みましょう。かなり昇ってきましたからね。もうそろそろ最上階でもいい頃です。」



少し自虐気味に答え奥の階段を目指す。このままでは駄目だ。もっと強くなりたい。

せめて皆と肩を並べられるように。


ここから先はあまりトラップもなく淡々と上へ目指して走る。

どの程度上ったのか分からなくなってきた頃、先を進んでいたハビナ殿の足がピタリと止まった。



「ライーザさん。これはちょっとヤバいかも知れない。」


「ハビナ殿?何かあったので・・・この気配は!?」



階段をあと数歩上がると見えるであろうその場所から発せられる異様なプレッシャーに私とハビナ殿の足はすくんで止まってしまった。



「久方ぶりで忘れていました。これが怖いという感覚でしたね・・・でも!」


「ああ。ここでしっぽを巻いて逃げる訳にはいかない!ここで引いてはギンさんの嫁は名乗れんからな!」



顔を見合わせて頷くと階段を一歩、一歩踏みしめていく。

階段を上った先に天井はなく塔の屋上まで来たようだ。屋上には石造りの大きな台座が置かれていてその前には・・・



「・・・この俺の殺気を受けてその足を前に進めるとはな。やはりあんたたちには期待できそうだ。」



見覚えのある男が静かに立っていた。


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