第126話 騎士の采配


時は少し遡る。



      ライーザ・キューラックside



「じゃあ皆またねー。」



「銀次君!絶対にたすけるから!」



バチン



ギンジ殿が落ちていった空間の裂け目はマユミ殿の叫びも虚しく無情にも閉じてしまった。

あの裂け目には何度も見覚えがある。外敵が襲来する時に出来るものだ。


それを意図的に発生させる事の出来るあの少女は必然的に・・・いや、憶測で考えるのはやめた方がいいだろう。ギンジ殿に宿っているドラゴン、リオウ殿はノルンと言っていたあの少女を知っている様子だった。



「クソッ!!お前!言え!ギンさんをどこへ連れて行った!」


「・・・」



そして現状目の前にはもう一人。シャラーグと呼ばれた傷だらけの大男はハビナ殿の怒声を無視するように静かに腕を組み目をつぶって立っている。

目の前にとは言っても実際にはここにいる訳では無いらしい。事実先ほどハビナ殿の攻撃はすり抜けてしまっていた。


どうする。リオウ殿を宿し化け物の様な強さを誇るギンジ殿を一瞬で連れ去った相手だ。戦って勝てるとも思えない。そもそも実体でないのなら戦う事すらも出来ないのではないか?


考えろ。頼るべきギンジ殿がいない今、この中では年長者の私が恐らく一番場数を踏んでいるはずだ。引くか、それとも――――ん、そう言えば・・・



「おい!そこのムキムキマッチョマン!何か言ったらどうや!?なんも言わんのやったら・・・」


「カオリ殿!ちょっと待ってください!・・・シャラーグ殿、でよろしかったかな?私は元ヴァルハート騎士団団長であり今はギンジ殿の騎士であるライーザ・キューラックと申す。」


「・・・」



カオリ殿を制して目の前の大男に名乗る。すると先ほどまで目を伏せていた大男がこちらをギロリと見据えて来た。



「これから私たちがするべき事を教えてもらおうか。先ほどのノルンと呼ばれた少女に説明をと言われていたと記憶しているが。」


「・・・む。説明?ああ、そうだ説明だったな。お前たちには選択が出来る。」



少しの沈黙の後、シャラーグはそう答えた。なんだ?まさか忘れていた?



「選択、それだけでは説明になっていない。ちゃんと答えてもらおう。」


「そ、そうだよ!早く教えて!」



マユミ殿もあせっている様だ。無理もない。ギンジ殿が裂け目に落とされてしまった所を二度も見ているのだ。



「・・・一つはこのままここから去る事。今後この島に近づかなければお前たちの命は保障しよう。・・・もう一つは―――――」


「ふざけんなや!仲間を置いて逃げるなんて出来る訳ないやろ!そんな事もう二度と・・・!」


「そうなのです!絶対にご主人様を助けにいくのです!」



シャラーグの言葉にカオリ殿とスララ殿が即座に噛みつく。私の思いも二人と同じだ。

だが少し待ってあげても良かったのでは?まだ話途中だったようだし。



「お二人とも落ち着いて。シャラーグ殿続きを。」


「・・・俺は話すのが苦手でな。すまない。・・・もう一つはこの二つの塔をお前たちで攻略する事だ。塔にはそれぞれ須藤銀次、加瀬良太が捕えてある。二つの塔の屋上まで行き、そこにある証を手にすれば即座に二人を開放する。・・・だが条件がある。時間制限がある事、さらに屋上の証は同時にゲット・・・手にしなければならない。時間制限をすぎちゃ、過ぎてしまったり片方だけを先に取ってしまった場合は二人の安全は保障しないからよろしくね。いや、保証はしないぞ。・・・むぅ、ノルンのやつめ・・・」



「え?」


「ゲット?よろしくね?なんやこいつ・・・」


「見た目と違ってかわいらしいな。」



シャラーグの急な口調の変化に皆困惑しているようだ。当のシャラーグは映像越しでもわかるほどに顔を赤くしている。よく見ると彼は何やらメモを持っているみたいだ。


あらかじめノルンに渡されていたのだろう。恐らくそのメモにはあの少女の話し言葉で先ほどの説明が書いてあったのではないだろうか?

まあいい。それよりも・・・



「せ、説明は理解した。皆さん、どういたしましょう。二塔同時攻略により戦力の分散は必至。そもそも塔の攻略自体が罠、とも取れますが・・・」



私はその後に帰ってくるであろう言葉を分かっていながら皆に問いかけた。



「ライーザさん!そりゃ愚問ってやつやで!」


「うん!銀次君と亮汰君は私たちが助けなきゃ!」


「ライーザさんだって同じ思いだろう?」


「キューちゃんも意地が悪いのです!」



やはり皆の意見は私と一緒だった。どんな恐ろしい相手でも関係ない。


エミリア王女や王国の危機を二度も救ってくれ、私の命をも救ってくれたギンジ殿。今度はこの命に代えても救ってみせる。私はギンジ殿の騎士だ。


カセ殿も大森林で私たちの為に命を張ってくれた。勝手にこの世界に召喚してしまった私たちを。

それに報いらずになにが忠義か。


・・・スララ殿のキューちゃんとは私の事でいいのだろうか?


「やはり皆さんも同じですね。ではこれより二つの塔の攻略を開始します!シャラーグ殿!それで良いか!」


「わかった。制限時間は日没まで、あと4時間ほどだ。同時に攻略出来れば編成は問わない。一人と四人だろうが二人ずつで一人留守番だろうがな。」



あと4時間。多いとみるか少ないとみるか・・・それにシャラーグの言う通り編成も重要になってきそうだ。



「・・・では俺は行く。お前たちが来ると言うのなら容赦はしない。来るまでに生きていればな。」



シャラーグは最後に屋上で待つと言うとその映像は徐々に消えていった。



「這ってでも行ってやる。騎士の誇りにかけて。」



もう誰もいない空を睨みつけ一人ごちる。



「それでキューちゃん。振り分けはどうするのです?」



スララ殿がそう言い私の顔を覗き込んでくる。やはりキューちゃんとは私の事だったようだ。



「スララ殿。その呼び方だとライドホークのキューちゃんと被ってしまうのだが・・・」


「あ!そうでちたね。うーん、じゃあ姉御でいいですか?」


「姉御はよせ!」


「ぶー。けちー。」



スララ殿は少し考えた結果ライさんにした様だ。全く。これは帰ったらギャレスにお仕置きだな。



「でもホントにどうしよう?何かあるか分からないしバランスよく分けた方が良いよね?」


「バランスよくって言ってもなぁ。やっぱりライーザさんに決めてもらうのがええな。」


「そうですね・・・」



これは悩む。カオリ殿とハビナ殿は近接前衛型、マユミ殿は魔法後衛型、私は近接よりだが支援もいけるだろう。スララ殿に至っては少し曖昧ではあるが竜言語魔法を操れ、転移が使えるのが大きい。


[前衛1人、後衛1人の2人組]と[前衛2人、後衛1人の3人組]に分けるのがいいだろう。

回復魔法が使える私とマユミ殿は分けるとして、カオリ殿には出来るだけ3人組にいてもらいたい。私以外では唯一ギンジ殿の力の恩恵を受けていない様だから。となると・・・



「では、カオリ殿、スララ殿、マユミ殿の3人組と私とハビナ殿の2人組に分かれてはどうでしょうか?」



殲滅力、生存確率を考えて分けたつもりだ。私とハビナ殿の組に魔法力が欲しいところだが仕方がない。私が両方やればいい。



「ウチはええよ!スララちゃんにまゆまゆもよろしく頼むで!」


「まーいいでしょう。オシリデッカイ勇者の尻拭いでもしましょうか!ワンワン!」


「うん!何かあっても回復は任せておいて!もう絶対に大丈夫だから・・・!」



と言ってもこの中で一番、防の値が高いのがマユミ殿だったりする。固い上に遠距離からの魔法弓、これはいささか卑怯なのでは?なんて思ってしまう。



「私はライーザさんとだな!あなたとなら心強い!よろしく頼む!」


「ハビナ殿には負担がかかってしまうかもしれませんがよろしくお願いします。」


「大丈夫だ!まかせてくれ!ライーザさんの剣技にも頼らせて貰うからな!」



ハビナ殿はそういうとキラキラした弾けるような笑顔で手を差し出してきた。

やはりこの方たちは気持ちのいいお方だ。人間も獣人も関係ない。改めてそう感じた。



「ええ。わかりました。元騎士団長の力、存分に振るいましょう!」


「では急いでギンさんとカセの所へ向かおう!」


「よっしゃ!こっちは3人いるんや!ぱぱっと攻略したるで!」


「香織。焦って証を取ったらダメだよ?同時に取らないと。」



マユミ殿の言う通り同時に証を手にしなければならない。それがやつらの決めた条件だ。



「まずは屋上へついたらお互いに反対の塔を確認しましょう。あの距離なら目視で分かるはず。・・・必ず全員、屋上で会いましょう!では、出撃!」



私の号令で各々が塔へ向かい駆け出す。今度は邪魔は出てこない。


それを確認し私もハビナ殿の後を追いかける。こちらの橋が我が主、ギンジ殿へ向かう道であればいいな、と若干淡い期待を抱きつつ。

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