第125話 再起
「君はこっちでおるすばん♪」
「何!?」
俺の前に映像という形で現れたノルンがそう言うと、あの何とも形容しがたい音と共に足元の空間が割れ俺はその裂け目に落ちていく。
「チッ!竜装化!!」
咄嗟にリオウから教えられた竜装化を使う。今の俺では部分的にしか竜装化出来ないがその副産物である翼で落下を防ぐ為だ。
「とりあえずは滞空出来たが・・・」
やはり肩甲骨辺りから生えている翼を使ってみるが片翼では上手く飛ぶことが出来ない。
そもそも俺は自力で飛ぶことなんてやった事が無いのだ。
先ほどのサハギン戦でも脚力を使い大地を蹴り滞空していただけだからな。
「ギンジ殿!!」
「須藤!?」
「ギンさん!!クソッ!私も・・・!」
「ダメなのです!下手にあそこへ行ったら二度と戻れないかも知れないのです!」
仲間の皆が慌てて声を上げ裂け目に落ちていく俺に手を伸ばす。
ハビナは俺を追いかけて裂け目に飛び込もうとした様だが、あれは・・・スララか。
スララがハビナを止めたらしい。
「そんなに抵抗しないでよ。君がそんな一瞬で竜装化出来るのには驚いたけど。リオウっちは中々いいパートナーを見つけたんだね。」
ノルンはそう言うと裂け目の上からすーっと降りてきて滞空している俺の目の前にやってきて、俺の手に握られている刀に手をかざした。
「リオウ!どうすればいい・・・!リオウ!?」
『・・・』
刀に向かってリオウに問いかけるも反応がない。意識を集中させるとそこにいるはいるようだがなんというか存在が若干希薄に感じる。
リオウに何かあったのか?あるいは
「大丈夫。リオウっちには少しだけ静かにしてもらってるだけだから。」
「静かにだと!?一体どういう事だ!」
ノルンは俺の質問には答えず、にししと笑い裂け目の上を見上げた。
「シャラーグぅ!私はこの子と行ってるから後の説明はよろしくねー!」
ノルンがそう叫ぶと空間の裂け目がギチ、ギチと音を立てて閉まっていく。
「俺がおとなしく連れていかれると思ってるのか!?
閉まりかけている空間を無理にでもこじ開けてやろうと竜言語魔法をフルパワーで打ち込むつもりで魔力を集めようとした瞬間、体中から一気に力が抜けていった。
竜装化も今の一瞬で解けてしまったようだ。
「じゃあ皆またねー。」
「銀次君!絶対にたすけ――――――」
バチン
ノルンが上に向かって手をひらひらと振ると空間の閉まる音と共に必死に叫ぶ東雲さんの声も途切れた。
「待て!ノルン!・・・クソっ!」
空間の裂け目が閉まると同時にノルン(の映像)は消えてしまった。
俺はどこかに浮かんでいる様な、揺られている様な感覚を覚え辺りを見回してみると見覚えのある景色があった。
そこには色々な人物、風景が無数のウィンドウの様な物に映っている。
「やはりここは・・・以前にも・・・」
そう。俺がヴァルハートで勇人に裏切られた後、不気味な人型外敵に空間の裂け目に落とされた時に見た景色と同様だ。
ウィンドウは無数の数が高速で流れていて詳しくは分からないがそれでも一度目の時よりも冷静に見れる。だがウインドウに映っている景色、人物、時代は恐らく統一性がなく逆になんなのか分からなくなってしまった。
「リオウ、リオウ!・・・ダメか。」
刀に宿るリオウに再度声をかけるがやはり反応がない。
リオウの存在は感じるのでいなくなってはいないとは思うが・・・
俺自身の体も思うように動かせないな。こちらもノルンが何かしたのだろうか。
―――――どれだけの時間が経っただろう。竜言語魔法、精霊魔法、スキル、出来ることはやろうと思ったが魔力を上手く操作出来ない。動くことも出来ず流れるウィンドウをぼーっと眺める。前回ここから引っ張り出してくれたリオウは反応がない。
もしかして永遠にここから出られない?そんな考えが頭をよぎる。
ここで、終わる?何も出来ずに?死ぬのか?・・・ふざけるな。亮汰に借りを返して無いし待ってくれているであろう仲間もいる。それに、あいつと、勇人との決着がついて無いんだ!
「おい!リオウ!起きろ!いつまで寝ている!俺はまだ死ねないんだ!お前もこんな所で終われないだろう!?」
叫び、無理やり魔力を刀に送り込む。これでリオウが起きるかは分からないが今俺にできるのはこれぐらいだ。
とてつもなくでかいプールにホースで水を送る。そんな徒労感を感じつつも俺はオートMリカバーで自動回復する魔力を送り続ける。
「はぁ、はぁ、はぁ、そろそろ限界だぞ・・・!」
オートMリカバーでの魔力回復が少なくなってきた気がする。それよりも俺の体力が限界になってきた。だが諦めるわけには・・・!
『銀次よ。お前もよくやるな。』
突如刀の鍔が赤く輝きリオウの声が聞こえた。
「リオウ!?やっと起きたか・・・手間かけさせやがって・・・」
『ノルンのやつめ、こうも力を使ってくるとは・・・だがもう大丈夫だ。礼を言うぞ。後は我がやる。銀次は休んでいるがいい。』
リオウはそう言うと刀から赤く巨大な手の形をした魔力を創り出した。
「そうか・・・これも、見覚えがある、な・・・」
巨大な魔力の手はその爪で空間を切り裂く。
以前もこの赤い手が空間を割り俺をここから出してくれたんだったな。
前回は乱暴に鷲掴みにされ振り回された様な気がするが今回は俺を優しく包み込み外へと運んでくれている様だ。
俺はその心地よさに絶対の安心感を持って静かに目を閉じた。
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