第124話 二つの塔

黒いオーラを纏い大量に現れたサハギン(蝕)を倒した俺たちは、島の中央にあるであろう2つの塔を目指して歩いていた。

白い砂浜を抜け、辺りは俺たちの背丈より高い草木が鬱蒼と茂る林道を進む。


こんな時には大森林にいるライドホークのぴーちゃん達が恋しくなるな。道中一度休憩を入れつつ速足で小一時間程歩いただろうか、突如開けた場所に出た。


そこは大きく地面が抉れクレーター状になっており中央に石造りの塔が1本、その100メートル程隣に若干色は違うが同様の石塔がもう1本建っていた。

それぞれの塔の入り口に向かって長いつり橋が掛かっている。



「ここが島の中央か。それに所々クレーターから出ているあの鉱物は・・・」


『うむ。あったか。あれがマリンライトの原石だ。』



リオウの答え合わせも済んだ。やはりそうか。クレーター状の岩肌にキラキラと輝く鉱石が見える。

見る角度によって赤っぽかったり青っぽかったりするのがとても綺麗だな。



「よし!これで獣人たちがちゃんと開放されるんだな!」



ハビナも嬉しそうにガッツポーズをしている。



「そうだな。となるとここに転移魔方陣を設置するためにも無事に帰ってこなきゃな。」



亮汰を取り戻し奴隷化を強制解除させる装置、スレイブキャンセラーの原料であるマリンライトを採掘する。改めてそう決意した。



「さて、ギンジ殿。この二つの塔をどうしましょうか?一つずつ攻略していくか、二手に分かれるか。」


「そうだな・・・」



ライーザさんの最もな質問に腕を組んでしまう。


何かあるか分からない為、まとまって一つずつ攻略する方がいいだろうが一つ目が空振りだった場合時間のロスになる。しかし・・・



「うーん。どうしたものか―――――!?なんだ!?」



どうするか決めかねながらつり橋の先にある塔を眺めていると突如二つの塔の間の空間から強烈な光が発せられた。



「わっ!眩しいのです!」


「くっ!新手か!?」


激しい光に視界が奪われる。俺はなんとか盾になろうと皆の前に出てマントで光を遮ろうと試みた。


しばらくすると光は収まり先程と変わらない景色がそこにはあった。

どこかにワープさせられました、とかは無い様だ。



「収まったか。皆大丈夫か?」


「うん。平気みたい。香織も大丈夫?」


「大丈夫や。何やったんや一体・・・」


「特に攻撃などでは無かった様ですね。」



仲間たちを見渡してみても変化はないな。今の隙に誰かが攫われたりしなくて良かった。



「じゃじゃーん!皆さんこんにちはっ!私はノルン!カワイイでしょ?リオウっちから聞いてるかな?んで、こっちの根暗そうなマッチョがシャラーグ!」


「・・・シャラーグだ。」



「なっ・・・!?いつの間に・・・!」



今の今まで目の前には誰もいなかったはずだ。

だが現実俺たちの前には片目に黒い眼帯をし外ハネの髪が腰まで伸びたゴスロリ衣装の少女と精悍な顔つきをした体中傷だらけのマッチョがいる。

しかも聞き間違えでなければ・・・



『久しいな。ノルン。それにシャラーグよ。』



やはりこいつらが亮汰を攫った犯人か。リオウとは古い知り合いの様だが。



「あんたらが加瀬を!加瀬はどこや!?無事でいるんか!?」


「カオリ!どけ!私が成敗してくれる!」


「ハビナ!よせっ!チッ!世話の焼ける・・・ん?これは・・・」



西城の叫びと同時にハビナが二人に攻撃をしかけようと飛び出した。慌てて捕まえに行こうとするが違和感に気付き足を止める。



「ギンさん!止めないでくれ!喰らえ!ビーストク・・・あれ?」



ハビナの爪が相手をすり抜け虚しく空を切る。



「キャハハハ!せっかちだねー。これは私たちを魔力で投影してるだけだから攻撃しても無駄無駄!心配しなくても加瀬君は生きてるよ!今のところは・・・・・・、ね?」



思った通りここにいる二人は実体では無いらしい。画像?もなんとなく荒いし声も若干エコーがかった感じで聞こえるしな。

試しに竜眼を使用してみる、がやはり視えないか。



「お前たちがノルンとシャラーグ、と言ったか。リオウとどんな関係なのかは知らないが亮汰を返してもらおう。この先の塔のどちらかにいるんだろう?」



問答無用で人攫いなんてするやつらだ。返せと言われて素直に返すはずがないとは思うが一応言ってみる。



「へぇ。この目つきの悪い子がリオウっちと契約した子かぁ。ふーん。ねぇ、シャラーグはこの子どう思う?」


「・・・投影越しでは何とも。」


「まぁそうだよねー。ってゆうかリオウっち私たちの事、全然話して無いの?ウケる(笑)それでよくここまで来たねー?」


「・・・リオウさ、いや、リオウ殿は信頼しているのだろう。だが口が足りないのはいつもの事だ。」



俺はシャラーグの言った信頼、と言うのが誰に対して言っているのか少し不思議に感じた。俺たちの事なのか?それとも・・・



『さて、ノルンとシャラーグよ。お前たちの事だ。勇者加瀬の事は特に心配していない。だがそれも含めて返して貰うぞ・・・持っているんだろう?我の「創造」の力を。』


「なっ・・・!リオウ!?どういう事だ!?」



突然のリオウの言葉に思わず大声を出してしまう。

グレインに封印されたリオウの3つの力の一つ、「創造」の力をこの二人が・・・



「キャー!やっぱりバレてた?上手く隠してると思ったんだけどー?」



ノルンはわざとらしく両手を頬に当てゴスロリスカートを広げてクルクル回っている。

何だか動きが五月蠅いな。



『流石に当初は分からなかったがこの島の結界が弱まっていた時から何となく感じていた。その後結界が解かれた直後に確信した。加瀬がノルンたちに連れ去られた事も含めてな。』



リオウがドヤ顔で語る。



「・・・はぁ。若干俺の理解が追い付いていってないが・・・とりあえず、亮汰は今のところは無事。リオウの力はこいつらが持っているってことで良いな?」


『うむ。』



刀に宿っているリオウが大きく頷くのが見える。なんでそんな偉そうなんだ?


シャラーグの言っている様にリオウは肝心な事は話さないよな。まぁ俺も言いたくない事は無理に聞かない事にしているからってのもあるか。


「だとすればどっちも返して貰わないとな!」




「ノルンさん!亮汰君は無事なんですよね!?だったら姿を見せて下さい!」



東雲さんが心配そうにノルンに問う。確かにリオウは心配していないと言っていたが確認出来るのならしておきたい。



「んー?君はなんだか変わった人間だね?力が不安定というか・・・ま、いっか。加瀬君の姿だっけ?・・・ダーメ!今彼は改造中で大事な所だから!キャハハハ!!」


「・・・もうすぐだ。もうすぐでお前は・・・」



ノルンが何やら自分の後方を見て笑っている。シャラーグも同じ方向を見て何かを呟いた。俺たちには投影されたノルンとシャラーグ以外は見えないが恐らく二人の後ろには・・・



――――――――ぐわぁぁぁぁ!!!くそがぁぁぁぁ!!!



「亮汰君!?」


「加瀬!?あんたら加瀬に何したんや!!」


「す、凄い声なのです・・・」



音声だけだが亮汰の叫び声が周囲に響いた。



「おい!リオウ!心配ないんじゃなかったのか!?かなりヤバそうだぞ!?」


『う、うむ・・・大丈夫なはずだが・・・少なくとも死んではいない。』



慌ててリオウに確認するがリオウも自信が無さげだ。確かに声が聞こえるから生きているんだろうが本当に辛そうだ。もたもたしてはいられない。



「くっ・・・!亮汰!待っていてくれ!こうなったら仕方がない!皆、とりあえず俺は一人で右の塔を!皆はあっちを頼む!十分に注意するんだ!スララ!何かあったら転移で王国まで戻れ!」


「あい!わかりまちた!ご主人様も気を付けて下さいね!」


「ギンさんと離れるのはつらいが仕方がない!速攻でカセを助け出す!」


「こちら側にいれば・・・ですが。どちらにしても急ぎましょう!」



スララ、ハビナ、ライーザさんも気合十分で答えてくれた。

スララが向こうにいれば最悪転移で何とかなるだろう。



「よし!じゃあ行くぞ「おーっと!ちょっと待ったぁ!」



各々がつり橋に向かって駆け出そうとするとノルンの映像が俺の目の前に現れた。

映像で俺たちを止めることは出来ないと思うが突然の事で一瞬足を止めてしまう。



「銀次君、だっけ?君が行ったら面白くないじゃん!ゲームは楽しくないとね!だから君は・・・」



訳の分からない事を言うノルンの映像を切り裂こうと刀に手をかける。


「邪魔だ!」


「一緒にお・る・す・ば・ん♪」




バキ゜ン




「なんだと・・・!」



刀を鞘から抜こうとした直前。あの何とも言い表せない音と共に足元の空間が大きく裂け、俺は空間の裂け目に落ちていった。

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