第119話 王の特権?


「おい!さっきのあれはどう言う事だ!?」



エミリア王女の、と言うかヴァルハート王国の陰謀じみた集会の後、俺はエミリア王女を始めライーザさんやこの国の重鎮を城の一室に集めて吠えていた。


さっきは流れで仕方ないか、なんて一瞬思ってしまったが冷静に考えてみてやはりおかしい。俺に国王なんてどだい無理な話だ。



「どういう事、と申されましても。あのままの意味ですよ?」



俺はかなり本気で怒っているが当のエミリア王女はニコニコとした表情を崩さずさらっと答えた。



「あのままの意味じゃない!この国の王を決めるなんていう大事をなぜ本人の了承を得ずに勝手に決めるのかと聞いているんだ!ライーザさんもだ。俺の騎士になるとか言っておいて俺を騙した。すなわち俺を、裏切ったって事だよな?」


「あ、いや、それは・・・その・・・」



俺がギロリと睨みつけるとライーザさんは罰の悪そうな顔をして目を背けてしまった。



「ギンジ殿!姉御、じゃなかった。団長は反対していたんです!ギンジ殿に黙ってこんな事をしてしまう訳にはいかない、と!団長は責めないでやってくだせぇ!」



そう言い騎士団副団長のギャレスが慌ててフォローする。

ライーザさんは王女の命令に従っただけで俺を騙そうとした訳ではないと。



「やっている事は同じだ!」


「まあまあ。別にええやん。国王ってゆうたって単にこの国で一番偉い人ってだけやろ?周りに変に気を使わなくなる分よかったやん。」


「そんな適当な・・・いいか?権力には責任が付いて回るんだ。俺はこの国の人間たち全ての責任なんて背負えない。いいからさっきの発言を取り消してきてくれ!」



西城の無責任な発言に声を荒げてしまう。だが俺の言っている事は間違っていないはずだ。政治なんて触れたことも無い俺が国を良くするなんて出来るはずも無いんだ。



「カオリ様の仰る通りです。政治などの面倒事は私たちが責任を持って努めます。ギンジ様は政治の事などお気になさらずにどんと構えていてくれさえすればいいのです。今この国に必要なのは国民の心を一つにまとめるカリスマなのです!」



エミリア王女は先ほどまでの笑顔と違って真剣な顔になっている。

その表情からは本心からこの国を憂いている様に見えるが・・・



「そ、そうです!ギンジ殿に黙っていた事は本当に申し訳なく思っています。ですが国王の器などギンジ殿しか思い浮かばなかったのもまた事実!この国の為、いえ!私たちを助けると思って!どうかお願い致します!」



ライーザさんも続けて言う。

その後エミリア王女とライーザさんは城の床に頭を付けた。



「お、おい・・・二人とも止めてくれ!俺はそんな事をして欲しい訳じゃない!」


「いえ!ギンジ様がいいと言って下さるまで止めません!もう私たちにはギンジ様しかいないのです!」



王女たちはそう言い再度頭を下げる。これはてこでも動かなそうだが・・・



「銀次君。大変な事だとは思うけど私たちも力になるからどうにかならないかな?」



王女たちを不憫に思ったのか東雲さんも俺に国王になってくれとお願いしてくる。

少したれ目がちな大きな瞳をうるうるさせてだ。これはキツい。キツいが・・・



「いや、でも・・・」


「大丈夫だギンさん!優れた領主の所には優れた部下が集まるものだ!そうなれば領主などほとんどやる事などない。報告を確認して把握しておくだけだ!と父上が言っていたぞ!」



五大獣老のレオンを父親に持つハビナも擁護に回ってしまった。

だから俺がその優れた領主とやらになる自信がないから言っているんだが。



「ここまできたら諦める他ないのです!あたちもデッカイ勇者たちと一緒にご主人様のお仕事をお手伝いするのです!ワンワン!」



スララも何が嬉しいのかしっぽをブンブンと振りながらワンワン言っている。

他人事だと思って・・・全く。



「・・・わかった。考えてはみるがまずは亮汰の件が先だ。孤島へ行き亮汰を助け出す。それが終わったら改めて答えを出させて貰いたい。だからとりあえず二人とも顔を上げてくれ。」



なんとなく了承しなくてはならない雰囲気が凄いが一端保留にしたい。

出来ればずっと。



「わかりました。カセ様の安否が気になるのもまた事実。無事にカセ様が戻ってきてからまた正式にお願いをさせて頂きますね。」



エミリア王女は顔を上げ完全に断られなかった事に安堵したかの様な顔をしていた。



「ギンジ殿ありがとうございます!それでは船の準備が出来次第すぐに向かわれますか?」



ライーザさんはまるで俺が了承したかの様な明るい笑顔でそう言った。



「ああ。なんかどっと疲れたが亮汰の事が心配だ。出来るだけ早くしたほうがいいだろう。」


「ですが今日はもう日も落ちかけております。船の手配もしばらくかかるでしょうから明日の朝出発してはいかがでしょう?」


『そこまで急がなくても心配はないだろう。多分な。』



エミリア王女の提案にリオウが補足するように言う。リオウは多分な、と言っているがどことなく確信を持って言っている様だった。



「・・・まあリオウがそう言うのなら明日の朝出ることにするか。皆もそれでいいか?」


「ウチも別にええよ。リオウちゃ・・・じゃなくてリオウさんが言うのなら加瀬もまだ生きてるんやろうし。」


「そうだね。少し亮汰君が心配だけど・・・」



皆もリオウが言うのならという事で俺たちは出発は明日にすることにした。



「では勇者様方、ご食事を用意しますのでこちらへ。」



「・・・なあ、王女様少し聞いてもいいか?」



ギャレスが部屋の扉を開け俺たちを案内しようとした時、先ほどから腕を組み何かを考えている様な仕草をしていたハビナがピッと手を挙げて質問してきた。



「どうしましたか?ハビナ様。」


「さっきから考えていたんだが仮にギンさんが国王になったとする。その時に王妃はやはり一人なのか?私としては嫁は私だけであるべきだと思うんだがカオリを第二夫人にしてあげてもいいかなと思ってな!」



「!?」


「ハビナちゃん!?」


「え!?」


「な!なんでウチが・・・!」



何言ってんだこいつは。

突然のハビナの質問に女性陣は驚き、すぐに目の色を変えた。



「た、確かに私もすこーしだけ気になるかも!」


「なんでウチが須藤の第二夫人にならなあかんか疑問やけどこの国の制度っちゅうもんに興味はあるかなー」


「き、騎士が主人に嫁ぐのはありなのだろうか・・・?」



東雲さんに続き、西城、それになぜかライーザさんまでギラついたおかしな目をしている。ふざけているのだろうか。



「うふふ。さすがハビナ様。獣人の鋭さには頭が下がります。この国では基本、一夫一妻制です。が、国王のみ!国王のみ重婚が認められております。今までほとんど例はありませんが。」


「そうなんだ・・・!」


「よし!」


「そうか!よかったな!カオリ!」


「だからなんでウチやねん!でもそうなんか。」



エミリア王女のやけに熱が入った説明に女性陣はガッツポーズをしている。

獣人の鋭さってそれ関係あるのか?



「お前ら・・・今はふざけてる場合じゃないだろう?早く飯をだな・・・」


「ですが!もちろん序列はあります。第一王妃、第二王妃・・・といった具合に。誰が一番王に寵愛を受けるか。言わなくてもお分かりですね?」


「それはもちろん私が第一だ!いくらカオリでもそれはゆずれん!」


「ハビナちゃん?そういうのは銀次君が決めるんじゃないのかな?」



女性陣の背後にそれぞれ謎のオーラが形を作っているのが見える。


ダメだ。こいつら。早く何とかしないと・・・


「でしたら勝負、と言う事でいかがでしょうか?カセ様を奪還した後にでも。」


「いいだろう!実力でねじ伏せれば文句もあるまい!」


「うふふふ。スペックの上がった私の本気。お見せしちゃうよ?」


「須藤の嫁は関係あらへんけど勝負となれば負けるのは嫌やな!嫁は関係あらへんけど!」


「ギンジ殿の騎士として負けるわけにはいかない!」



おおぅ。さらにバチバチと火花が飛んでいるようだ。

そんなに王妃になりたいのだろうか。まぁ女子は昔からお姫様に憧れると言うからな。


ハビナだけは本気な様だが他はそういった理由からだろう。そうだよな?

国王問題に王妃問題なんて頭が痛すぎる。そういうのって俺に決定権があるんじゃないのか?



「おっしゃ!そうと決まったらさくっと加瀬を取り返してきて勝負や!」


「ワハハハハ!燃えてきたぞ!」


「うん!すぐにでも行きたいぐらい!」



さっきまで亮汰が心配だとか疲れたとか言っていたのが嘘のようだ。

なんだか亮汰の奪還がついでにされた気がして少し亮汰に同情する。



「ギンジ殿。モテるのは羨ましい限りですがこれはちと大変ですぜ・・・」


「ああ。そうだろうな・・・」



俺は未だ盛り上がってる女性陣を後目にギャレスと飯を食いに行くことにした。

今は男同士で酒でも飲みたいな。亮汰、待っててくれよ。


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