第118話 ヴァルハート王国の陰謀


「なぁ・・・王女様。こんなに集めて何するつもりだ?」


「うふふ。」


エミリア王女は俺の問いかけを笑顔でさらっと流した。



「我がヴァルハート王国の国民の皆様!よくお集り頂きました!こちらが我が国の危機を幾度も救って下さいました勇者様ご一行です!」



戸惑う俺たちを後目にエミリア王女は颯爽と前に出て俺たち勇者の紹介をする。

ご丁寧に風の精霊魔法を使い声を拡声しているようだ。


王女の拡声された声をかき消すように民衆の割れんばかりの歓声が響く。



「皆様!お聞きください!現在我が国は危機に晒されております!先日の帝国軍の非道なる侵略により先代国王は討たれてしまいました!外敵による脅威も未だ去ってはおりません!しかし私たちはそれらを乗り越えていかなくてはならないのです!」



・・・・



エミリア王女の言葉に民衆は息をのむ。。

俺たちの存在により国民の士気を高めるのか?さらに王女は続ける。



「その為には私では力不足・・・私たちには強く、聡明な、リーダーが必要です!先代の国王以上に、皆を導いてくれる王が!」



おい。この流れは・・・



「そこで!先の条件に完全に合致した人物が一人おります!このヴァルハート王国の中で最も強く、この国、いえ、この世界の為に戦ってくれる王!スドウギンジ様です!私は彼を次期国王になって頂きたく思っております!皆様いかがでしょうか!?」



エミリア王女はそう言うと一歩下がり俺の肩をポンと押しバルコニーの最前へ立たせた。




うおおおおぉぉぉ!!


勇者様!!いえ、国王様!!


国王陛下万歳!!


キャー!!抱いて!!




「お、おい・・・マジか・・・」



民衆は今まで以上の大歓声を上げている。この王女・・・やりやがった!

俺がキッと王女を睨みつけると王女はペロッと舌を出し軽くウインクをしている。


さらに俺の両脇にはライーザさんとギャレスがまるでスターを引き立てるように俺にバッと両手を広げている。

やはりこの二人もグルか!



「銀次君・・・ほんとに王様になっちゃった・・・?」


「ホンマかいな・・・こんな急に。ま、ええか!これからも頼むで王様!」


「わー!ご主人様が王様なのです!ワンワン!」


「ワハハハハ!流石はギンさん!おや?これで私もこの国の王妃なのか!?」



最後のハビナには皆で違うぞと突っ込んでおいたが。



「わあ、あれはなんだー」



突然ライーザさんが凄く不自然なセリフを大声で叫んだ。


皆が一斉にライーザさんを見るとライーザさんは城下町の先の草原地帯の上空を指さしていた。



「あれは・・・魔物か?なんかフラフラしているが・・・」



ライーザさんの指さす方角に目を向けると魔物が3匹フラフラとこちらに飛んできていた。



「あ、あれは!魔物!ガーゴイルの群れ!すぐに迎撃しなくては!しかしあんなに離れていては・・・!クソッ!このままでは国民に被害が・・・!」


「ギャレス、お前まで・・・」



さらに続いてギャレスの名演技が光る。演技で間違いない。

魔物の群れって。3匹だけだし明らかに満身創痍だ。恐らく騎士団の仕込みだろう。



「わあー国王陛下、なんとかしてくださいー出来るだけ派手なやつでー」



ライーザさんが俺に迎撃しろと言ってくる。派手で目立つ様に魔物を倒し国民に勇者の力を誇示させようと言うのだろう。しかし・・・



「ライーザさんって演技下手なんやな。」


「あはは・・・そうだね・・・」


「あれは酷いのです!ワンワン!」


「なんだ?あの程度、誰でも軽く倒せるだろ?そもそもすでに虫の息じゃないか。」



ハビナ以外はなんとなく状況を理解したようだな。

ギャレスが慌ててハビナに耳打ちしてハビナも納得したようだ。



「ギンジ様。今は国全体が一つにならなければ行けないのです。どうか、お願い致します。」



エミリア王女は小声でそう言い国民にわからないように頭を少し下げた。

ぐっ、謁見の間に続いてここも乗るしかないのか・・・?



「ああ、たいへんだー」


「・・・ライーザさん。ちょっとどいててくれ。」



俺がそう言うとライーザさんはわざとらしくバタバタする動きを止めて、わかりましたと脇に控えた。



「はぁ、早めに済まそう。リオウ、三連発だ。」


『あまり魔力を込めすぎるなよ。この当たりが吹き飛んではマズいだろう?』



「わかってる。――――行くぞ。『炎滅せし剛竜波ドラゴンキャレス』『激流爆翔げきりゅうばくしょう』『殲滅する光アトミックレイ』」



俺は銀色に淡く輝く左腕を前に突き出し竜言語魔法三発を放った。

炎の竜、水の竜、光の竜を象った魔力がそれぞれ唸りを上げて魔物に向かっていく。


あえて速度を抑えた竜言語魔法はフラフラになりながらも草原上空から城下町近くまで飛来してきた魔物の群れ(3匹だが)に着弾。


そして三発の竜言語魔法は魔物の断末魔さえ掻き消しながらドン、ドン、ドン、と爆音をたてると同時に赤、青、白の特大の花火の様な光が上がった。



「うわぁ。綺麗・・・!」


「昼間やけどええもんやなー。」


「美しい!流石ギンさんだ!」



花火を見たことのないエミリア王女やライーザさんたちは口をポカンと開けて花火を眺めている。西城も言っているが夜だったらもっと映えるかもしれないな。


種火にされた魔物が若干かわいそうな気もするが。




うおおおお!!一撃だ!!


陛下の魔法が魔物をやっつけたぞ!


国王陛下、万歳ー!!


心が洗われるようじゃー


勇者様が国王だなんて怖いものなしだぜ!!


俺、陛下になら・・・




国民たちも突然襲来した魔物を一撃で葬り去る国王を見れてヒートアップしている。

こんなんで一つにまとまるのだろうか。



「皆様!私たちにはこの様に陛下がついております!私たちも陛下の期待に応えられるようヴァルハートを強く、大きくしていきましょう!」



エミリア王女が最後に叫ぶと国民たちはさらに歓声を上げた。


これはもう陰謀だろ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る