第117話 勇者の帰還


不思議な違和感を覚えながらも大扉は重苦しく徐々に開いていく。





「我がヴァルハート王国における救世主、スドウギンジ様ご一行のご帰還ーーーー!!!」





扉が開ききると突然、上記のセリフと共にどこからともなくファンファーレの様な軽快な音楽が大爆音で鳴り響いた。



「うわっ!なんだ!?新手の攻撃か!?」


「わー!五月蠅いのですー!」




先に扉を開けて俺たちより一歩前にいたハビナとスララはその爆音に驚き目を丸くしているな。



「なんなん?大層なお出迎えやん!でもちょっと気分ええな!」


「兵士さんたちがあんなに大勢・・・」



西城と東雲さんも事態が飲み込めていないようだ。


俺は俺で目の前に広がる光景を見てああ、やっぱりな、というかやられた、というかきっと微妙な表情をしている思う。


開かれた大扉の先を見てみると兵士たちが玉座まで伸びる長く赤い絨毯の両脇にそれは大勢で並んで立ち、恐らく儀式用の長い騎士剣を頭上に掲げ両脇からアーチが出来る様に交差させていた。



「ささ、どうぞ王女様の下へお進みくだせぇ。」



後方からギャレスがそう促す。もちろんギャレスはこの事を知っていて俺たちを連れてきたのだろう。そのにこやかな笑みが物語ってるぞ。



「まぁ今更回れ右して帰れないしな。」



これから起こる事をなんとなく理解しながら玉座までの絨毯を踏みしめてゆく。


俺たちが一歩ずつ進むと同時に頭上でアーチ状に交差されている兵士の騎士剣がシャキンシャキンと小気味いい音を立てて兵士の胸元へ構え直らせる。



「なんか王様になった様な気分やな~。」


「私たちが召喚された時はここまでじゃなかったよね?」


「なんだか圧倒されてしまうな・・・」



女性陣はキョロキョロとしながら俺の後ろをひそひそ話をしながらついて来ている。

俺も平気な顔をしてはいるが内心この雰囲気に当てられていると言っていいだろうな。


やっとエミリア王女が待つ玉座までやってきた。


普段であれば即、要件を話すのだがこの空気ではそうはいかないな。片膝を付き敬礼の真似事をしてみる。



「勇者様方。よくご帰還なさって下さいました。それと五大獣老のレオン・バーサス殿のご息女、ハビナ・バーサス様。はるばる大森林よりお越し頂きましてありがとうございます。この度は数か月前の外敵襲来、帝国軍の侵略からヴァルハート王国を救って下さり誠に感謝しております。」



2つ並んでいる玉座の一つに座っているエミリア王女はとても柔らかい声で俺たち労いの言葉をかける。


お、その隣にはライーザさんが凛として控えている。なんだかライーザさんの顔を見るのは久しぶりな気がするな。


エミリア王女から以前も礼は言って貰ったはずだから恐らくこれは俺たちにと言うよりパフォーマンスなのだろう。


東雲さんたちもそれをわかっている様で黙って王女の言葉の続きを待っている。



「つきましては、勇者様方に褒美を取らせようと思いますが何がお望みでありましょうか?」



なるほど。先日スララが王女へ俺たちがここへ来る目的を伝えてある。

それを褒美という形で取らせようという訳か。



「はい。それでは船を一隻、ご用意して頂きたい。王女様もご存じの通り俺達には後一人仲間がいる。そいつが敵に拉致されました。共に外敵を退けた勇者加瀬を助けるためにも船が必要なのです。」



あえて俺もこの茶番、と言っては失礼だが王女のパフォーマンスに乗る事にした。

騎士団の兵士たちや城の要職にも理解してもらった方がいいだろうからな。



「船、ですか。・・・わかりました。早速用意させましょう。私たちとしても我が国のために戦ってくれた勇者カセ殿を見捨てるわけにはゆきません。」


「ありがたきお言葉感謝致します。」



俺たちは揃って頭を下げる。俺の隣でスララも伏せの状態をしているのを横目で見て少し笑ってしまった。



「船はすぐに手配させますのでしばらくお待ちください。あぁ、それともう一つ。我が国民の皆も勇者様方に一目見てお礼をしたいとの事。よろしければ勇者様方のお顔を見せていただいてもよろしいでしょうか?」


「え?あ、ああ。別に構いませんが・・・」



エミリア王女はわざとらしく手をポンと叩きスッと席を立ちあがり玉座の後ろにかかっている分厚いカーテンを開けるよう兵士に指示をした。


その後ライーザさんがどうぞこちらへ、と王女の後へ誘導してくる。国民皆ってどういう事だ?



「うーん。なんかこうかしこまった空気だと疲れるわ。」


「まぁ私も苦手だけどしょうがないよ。こういうのも政治じゃ大事な事だから。」


「私も少し肩が凝ったな!少しゆっくりしたい。」


「それはその無駄にデッカイのが原因じゃないのですか?ワンワン!」



女性陣たちもさっきまでの緊張感は堪えたらしくボヤいている。

確かに西城とハビナはああいうのは苦手そうだ。


謁見の間から出るようにカーテンをくぐると通路になっていてその先はバルコニーがある様だった。バルコニーの手前にエミリア王女がニコニコしながら待っている。



「なぁ。王女様。一体何をさせようって言うんだ?出来れば早く出発したいんだが・・・」



謁見の間から出て俺たち以外はいないのでいつもの様に王女に声をかける。

ライーザさんとギャレスは護衛という名目でついて来ているが問題はない。



「うふふ。すみません。申し訳ありませんがもう少しだけお付き合い下さい。ギンジ様。さぁこちらから皆さんのお顔を見せて下さい。カオリ様たちもどうぞこちらへ。」



エミリア王女はそういいながら俺たちをバルコニーに立たせる。

側にいたライーザさんは聞こえるか聞こえないかの小声ですみません、と言ってきたが・・・



「何が何だか・・・って、おぉ・・・!?」




おお!勇者様だ!


俺たちの国を守ってくれてありがとー!


キャー!スドウ様ー!ステキー!


サイジョウ様とシノノメ様もいるぞ!


カワイイ・・・


あれは獣人じゃないか!あんな綺麗な獣人もいるのか・・・!


しかも、で、デカい・・・!


俺・・・アレに挟まれたら死んでもいい・・・!




王城のバルコニーの眼下には国民が勇者一行を一目見ようと大勢ごった返していた。

民衆は俺たちを見て感謝の言葉を口々に叫んでいた。老人の中には拝んでいる人もいる。まぁ例の如く中にはよくわからんやつもいるが。



「ちょ!なんや!この人だかりは!」


「皆私たちの為に・・・?」


「すごい数だな!」


「むー!見えないのです!」


流石にちょっと驚いたな。これは噂を聞きつけて来た、というレベルじゃないぞ。

事前に知らされていて集められたのだろう。


一体何の為に・・・いや、まさかな。


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