第116話 王国再訪、突撃幼女

「じゃあ行くぞ!同空間転移カオスゲート!」



俺は転移魔法を使いヴァルハート王国の一室へ飛んだ。



「よし、っと。さぁついたぞ。」



例のごとく一瞬で以前俺がヴァルハートで使わせて貰っていた客室へついてしまった。



「毎度の事なんやけど須藤のコレほんまに凄いわ。」


「全くだ。何度体験しても不思議な感覚だ。」



西城とハビナも他のやつらより転移には慣れているはずなのに大層感心している様子だ。まぁ通常だと大森林からヴァルハートへはかなりの日数がかかるみたいなので致し方ないと思う。



「あたちも使えるのです!帰りはあたちがびゅーんって連れて行ってあげます!ワンワン!」


「うふふ。じゃあ帰りはスララちゃんにお願いするね。ご褒美には・・・?」


「チーズ!」



東雲さんもスララの扱いが上手くなって来たな。わーい、としっぽを振るスララを穏やかな笑顔で撫でる東雲さんを見ているとこっちまでほっこりしてくるな。



―――――ん!?これは・・・殺気か!?



「ギンジーーーー!!!」


「――――な!?チィ!」



何かが向かってくる気配を感じた俺は急いでその場から跳躍し回避した。


空中で旋回しながら横目でそれを見るとある人物が高速で地面と平行に飛んでくる所だった。



その人物は突然の事で回避をするしかなかった俺を通り越し、すぐ後ろにいた人物へ突っ込んだ。



「ぐぇ・・・!な、なんや・・・何が・・・」



西城の身体がくの字に曲がっている。すまんな。

だが今、西城に突き刺さってるやつを見たらそこまで怒る事も出来ないだろう。


と言うか俺は何故こんなに突進の標的にされるのか。


その人物はひしゃげた西城の身体からぽんっと言う効果音と共に現れ西城の顔を覗き込んでいる。



「あれ~?ギンジじゃないの?ってカオリ?ワーイ!あそぼ、あそぼー!」


「コ、ココちゃん・・・?なんでこんな所に・・・てかウチもうアカンかも・・・」



西城は突っ込んで来た人物がヴァルハート騎士団副団長ギャレスの娘、ココだと確認するとそのまま前のめりに倒れ込んだ。成仏してくれ。


白目を剥いている西城に東雲さんが慌てて回復魔法をかけている。



「サ、サイジョウ殿!?大丈夫ですかい!?す、すいやせん!こら、ココ!ちゃんと謝りなさい!」



すぐにココの父親であるギャレスも西城にかけより安否を確認している。

どうやら二人とも元からこの部屋にいたようだな。



「久しぶりだなギャレス。娘を上手く隠せていた様だな。王女様から言われて俺たちを待っていてくれたのか?」


「ギンジ殿!お久しぶりです。その節は本当に感謝してますよ。それにしても流石ですね。ココのアレを避けるとは。おおっと、順番が逆になってすいやせん。仰る通り王女様からギンジ殿達の来訪を待ってお連れするように賜っておりやす。」



ギャレスはそう言って膝を付き敬礼の様な仕草を見せた。

ココを帝国の監視から取り返した後、二人は一度帝国の残党に追われたがギャレスが難なく退け、王城でエミリア王女の帰還を待っていたらしい。



「そうか。まあココのロケット頭突きは以前一度見ていたからな。それに西城には以前、人柱になる事を了承して貰ったしな。」


「す、須藤ぉ・・・人柱ってこの事だったんか!まあええわ。ココちゃん、元気そうでなによりやったなぁ。」



復活した西城が俺に恨み節を言いつつもココとじゃれあっている。



「うん!あ、マユミもいるー!はやく騎士団ごっこしてあそぼー!あれ?リョウタは?リョウタがいないとまもの役がいないよー?それともこっちのワンちゃんとしっぽもふもふのおねえちゃんがまもの役?」



ココはそう言ってスララとハビナを指差している。

子供にとってみたら獣人は魔物のくくりになってしまうのかも知れないが。



「あたちは魔物じゃないのです!立派な聖獣なのですよ!ワンワン!」


「そうだ!私は誇り高き獣人だぞ!加えてギンさんの・・・嫁だ!」



スララとハビナがバーンと胸を張り、鼻息荒くも偉そうにしている。



「えー?ギンジのおよめさん?ふーん・・・でもダメ。わたしのボーイフレンドだからわたしのきょかをとってちょうだいね!」


「は?」



ハビナに向かって腕全体を使って大きくバッテンをしているココを見て思わず間抜けな声を上げてしまった。



「え?須藤ってロリ・・・」


「銀次君ってそうだったの?うぅ・・・でも・・・」


「まさかギンさんは幼女が・・・?やはりこの胸が邪魔なのか!?クソッ!一体どうすれば・・・!」


「」



女性陣たちが驚愕の表情をしている。勘弁してくれ。


確かに以前ボーイフレンドにしてあげると言っていたがって文字通り男友達だろう。



「いい加減にしろ。俺は小さいのに興味は無い。とっとと王女に船を借りにいくぞ。」



俺はギャレスと共に部屋を出る事にした。


先の「小さいのには興味ない」発言を聞いて、精気を失った目に再度光を湛えた女性陣もついて来た。

なんだそれ。


どうやらココはこの部屋に残していくらしい。ココは不満丸出しの顔をしていたが仮にも王女との謁見だし仕方がないだろう。



「ねーねー!ギンジもカオリもあとでぜったいあそんでよ!?あとマユミともふもふのおねえちゃん、どうやったらそんなにおおきくなるの?」



ココは部屋を出る直前、東雲さんとハビナにそう尋ねながら2人の胸を交互に揉んでいた。

マズイ。これはダメだ。



「コ、ココちゃん!?ま、まぁ、ぎゅ、牛乳をたくさん飲んだらいいんじゃないかな?」


「あとは適度な運動と大森林の美味しい空気だな!」



東雲さんは恥ずかしそうにそれっぽい事を言い、ハビナは胸を張ってそういった。


ココはふーんと言いながら何かを考えているようだ。と、その横で西城が隠れてメモを取っているのを俺は見逃さなかった。



ココを残しギャレスの後に続き相変わらず広い廊下を歩きながら謁見の間に向かう。

そう言えば気になる事があったな。



「なぁギャレス。そう言えば騎士団はどうなってるんだ?お前も所属していた暗部にもそれなりの数がいた様だったが。」



元々ヴァルハート王国にいた騎士団も団長のライーザさんは大森林へ逃亡し、副団長のギャレスも帝国に娘を握られ暗部と呼ばれる勇人の私兵になっていた。


帝国が撤退した今、現状はどうなっているのかふと気になったのだ。やはりファンタジーなこの世界だ。魔物もいれば他国との争いもある。兵士なしでは住民は不安になるんじゃないか?と。



「そうですね。あっしも恥ずかしい話ですが我が身かわいさに騎士団を裏切ってしまいやした。その後団長が抜け、団員たちも初めは帝国軍に反発していたんですが不思議な事に日に日に態度も思想も帝国軍みたいになっていきやした。」



ギャレスは本当に不甲斐ないと言った表情で話し出した。団員たち皆がおかしくなっていたのか。



「まぁあっしと共に暗部に属した団員たちは特に変でしたね。命令を聞くだけの人形の様でした。結果、ギンジ殿たちを襲う事も強要してしまい申し訳ありません。罰するのならばどうかあっしだけにしてやって下さい。ですが、帝国軍が去ってからの団員たちは以前と同じようにこの国の為に尽力しようとしていやす。まるで憑き物が落ちたようでさぁ。」



そうだったのか。確かに元々騎士団にいた連中は俺の事も西城たちの事も知っている。

ましてや団長であるライーザさんに攻撃をしかけるなんておかしいよな。


全員がギャレスの様に弱みを握られていたとも考えずらい。となると・・・



『恐らく銀次の読み通りであろう。ヤツが支配者ルーラーの力を使ったのだろう。さらに支配を強めたい人間にはご丁寧に闇魔法を使っていた可能性が高いな。』


「やはりそうか。ギャレス、安心してくれ。団員たちは操られていただけだ。処罰なんて考えてないさ。」


「ありがたきお言葉感謝いたします。」



リオウの言葉で確信が持てた。あんなに一生懸命だった騎士団の皆を罰するなんて出来ない。しかしヤツ、グレインは魔具で奴隷を作ったり魔法で操ったりが好きだな。



「それと今のが王女様や団長から聞いていたあの・・・」



ギャレスはおっかなびっくりと言った様子で俺の腰にある刀を凝視している。


そうか、以前ギャレスに会った時はまだ刀は持っていなかったな。



「ああ。俺が契約したドラゴン、リオウだ。リオウの言う通り全ての元凶がいる。俺はそいつらを絶対に許さない。」



俺の怒りに燃える目を見てギャレスもそうですかと深く頷いた。

その後しばらくして謁見の間に続く大扉の前へたどり着いた。



前回俺が謁見の間に勇人の存在を感じ、感情のままスキル双飛竜そうひりゅうを放ち×の字に切り裂いたはずの大扉は俺たちがこの世界に召喚された時と同じ様に荘厳な雰囲気を放っていた。


大急ぎで修理改修したのだろう。これについては申し訳ない事をしたと思っている。



「さぁ、皆様方お入りください。王女様がお待ちです。」


「ああ。了か・・・おや?」



ギャレスが謁見の間に入る様に促しそれに従おうとしたが何かおかしい。


突然妙な違和感に襲われた。



「なんや須藤。どうかしたんか?」


「銀次君。何かあった?」


「めずらしくギンさんも緊張しているのか?だったらここは嫁として私が・・・」


「わーい!だったらあたちが一番乗りするのです!」


「ハ、ハビナ!スララ!待てっ!」



女性陣が大扉を開けようとするが慌てて止める、が大扉は徐々に開いていく。


何かマズイ。そんな気がしてならなかった。



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