第115話 出発の前に(2)

レオン邸から出た俺たちは、そのままサルパの屋敷へ向かい、事情を説明した。


サルパも自分が付いて行こうかと言っていたがまたもハナちゃんの超高速カットインでNGを喰らっていた。サルパはどれだけ仕事をしていないのだろうか。


続いてミズホの所へ顔を出したがミズホは留守の様だった。待っているのもあれだったので俺たちは自分の領地へ戻る事にした。



「あ、来た来た!ギンジ君待ってたよ!」


「あら~。入れ違いになると困るから待っていて正解だったわね。」



転移魔法陣で戻ると俺の屋敷の前にはメーシーとミズホが俺を待っていた様だった。



「どうした?二人とも何かあったのか?」


「まぁね。それよりこれを見てよ!まだ試作品サンプルしか出来てないけどこれで上手くいけば・・・」



そう言いながら嬉しそうにメーシーが渡してきた物を手に取る。これは注射器、か?一体何故・・・あ、もしかすると。



「まさかこれが例の奴隷化を解除する為の研究成果か!」


「うん!ちょっと見てて。ミズホさんお願い。」


「はいは~い。えいっ。」



メーシーに促されミズホがおもむろに何かを首に装着した。


あれは!?奴隷化の魔具じゃないか!



「お、おい!大丈夫なのか!?まぁいざとなれば俺が外せるが・・・」



メーシーはいいからいいからと魔具の核に向けて注射器の針を当てた。

魔具を付けられているミズホはボーっとして瞬きもしていないな。



「これに魔力を通して・・・っと。それで、ちゅ~っと押し込めば・・・」



魔具に対して注射器の中身を押し込むようにすると魔具の核がバキンと音を立てて崩れて行った。



「おお!これは!」


「やった!成功だよ!これを量産出来ればギンジ君以外の誰でも魔具を壊せる!」


「凄いぞ!さすがエルフのお方だ!獣人たちはこういう事は苦手だからな!」



メーシーの言う通りこれが量産化出来ればもう魔具による奴隷化に怯えずに済む。

ハビナも興奮しながらメーシーの手を取りブンブンと振っている。

メーシーが期待に完璧に答えてくれた形だ。



「ふぅ~。あら~。上手くいったみたいね~。身体を張った甲斐があったわ~。最も、ローイングの名を持つあなたに失敗は無いと思っていたけれど。」



先程まで目の光を失っていたミズホが目に色が戻りその均整のとれた体をぐーっと伸ばしながらそう言った。

しかし以前も言っていたがミズホとメーシーは知り合いらしい。



「ま、まぁ私の名前なんてどうでもいいんだけど!それで奴隷化解除の理論と方法はこれでいいとして一つ問題があるんだ。」


「問題?それはなんだ?」



ここまで上手くいっているのなら是非とも完成させたい所だ。



「この道具、仮にスレイブキャンセラーって呼ぶけど、このキャンセラーに使っている魔力の増幅装置みたいな物の原料が今ではほとんど手に入らないんだ。昔はよく鉱山で採れたみたいなんだけど・・・試作品に使った物もようやく手に入れたんだよ。」


「そうなのか。材料が無いんじゃあな・・・クソッ!せっかくメーシーが形にしてくれたのに・・・他に何か――――」



『あるぞ。』



「え?」



突然リオウの声が聞こえた。あるぞって言ったよな?何があるんだ?



『ある、と言ったのだ。エルフの娘が言った道具の原料がな。』


「ほ、本当ですか!リオウ様!それは一体どこに・・・!」



メーシーは刀に喰いかからんとする勢いで問いかける。それだけ真剣に考えてくれているのだろう。



『まさに今から行こうとしている孤島にだ。その原料、マリンライトは魔力が長い年月をかけて蓄積されると出来る鉱物だ。あの孤島は長らく結界で隠されてきた。誰も手を付けておらぬはず。ならば確実にあるぞ。』


「そうなのか!良し!亮汰を助けるのともう一つそこに行く理由が出来たな!」



亮汰を救出しその孤島にも転移魔法陣を作れば原料はいつでも採りに行ける。

孤島に行く理由も増えたがその分絶対に失敗出来ないな。


その後メーシーもスレイブキャンセラーの最終調整をヴァルハートでしたいと言うので王国まで一緒に行くことになった。


ミズホについては少し気になる事があるとかで自分の領地へ戻る事にした様だ。



「さて、あいつらはもう復活しただろうか。」



屋敷の中に入るとドアを開けてすぐにある大きなエントランスに東雲さんと西城が旅支度を終えソファーでくつろいでいる所だった。もう胃もたれは大丈夫な様だ。


あ、東雲さんはチャイナドレスはやめて、一番最初に来ていた薄紫色の短い司祭服のような物に下は白のパンツスタイルでニーハイのブーツを履いている。うん、やはり似合うな。


ふと、思ったのだがこの世界に来て一番最初、ライーザさんが魔法で俺たちの身体から酒を抜いたよな。胃もたれとかそういったものは治せるのだろうか?今度聞いてみよう。



「お、来た来た!遅いで須藤!」


「ちょっと香織。私達が一緒に行けなかっただけでしょ?ごめんね、銀次君。」



俺たちに気が付くと二人はパタパタとこちらに近づいてきてそう言った。



「別に構わないよ。獣老達にあいさつは済ませたからいつでも出れるぞ。ん?スララはどこ行った?」



出発しようと思ったのだがスララがいない事に気が付いた。いつもソファーでゴロゴロしているのに。あいつには昨日頼みごとをしていたのだが・・・



「わー!ご主人様ー!置いてかないで欲しいのですー!!」



キョロキョロと辺りを見回しているとスララがキッチンの方からダッシュでこちらに走って来て俺の頭の上にぴょんと飛び乗った。



「何やってたんだ?頼んでおいた事はやって置いてくれ―――おや?これは・・・チーズ・・・だと・・・?」



頭の上のスララを掴んで目の前にぶら下げて見る。スララの口の周りにはチーズのカスが大量についていた。確かにチーズをたくさん食べていいと言ったが。



「こ、これは違うのです!少しのつもりが気が付いたら・・・で、でも!ご主人様に言われた事はバッチリなのですよ!?」



昨日ヴァルハートへ向かうと決めた後、スララには先にヴァルハートへ向かって貰い今日俺たちがそちらに行くから以前俺が使わせて貰っていた部屋を人払いしておいて欲しいと伝えて貰っていたのだ。


転移で行くことになる為、突然謁見の間に大人数で飛んでは驚かせてしまうだろう。

人払いして貰った部屋ならば問題ない。



「まぁいい。頼まれごともちゃんとこなしてくれた様だし今回だけだぞ?」



スララはわーい!と笑顔でしっぽを振っている。



「じゃあそろそろ行くか!」


「おっしゃー!待ってろや加瀬!」


「香織。その言い方だと討伐しに行くみたいだよ?」


「まぁ彼は殺しても死ななそうだけどね。」



そんな事を言われている亮汰を少し不憫に思いながら俺は転移魔法を唱えた。

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