第114話 出発の前に(1)
亮汰を助けにヴァルハート近くの孤島へ向かう、と決めた翌日、俺は報告と先日の礼を言いに各獣老たちの元へリオウと共に周ろうとしていた。
ちなみに昨日一緒にリオウの話を聞いていた女性陣はスイーツの食べ過ぎで胃もたれ、と言う残念な理由で俺の屋敷で出発まで待機している。
「よし。じゃあまずはレオンの所だな。」
各獣老の領地へと繋がる転移魔法陣へ足を掛けようとした時、後ろからバタバタと走ってくる足音が聞こえた。
「ギンさん!待ってくれ!!」
「ハビナ?もう胃もたれはいいのか?」
「う、うん。あの程度で動けなくなる程、獅子族は軟弱じゃないからな!うっぷ。」
ハビナは偉そうに胸を張るがすぐに口を手で押さえ始め、明らかに苦しそうだ。
「辛かったら休んでいればいい。出発前には声をかける。」
「いや、ちゃんと父上と母上には挨拶してから出かけたい。大森林の外へはほとんど出た事がないから。」
ハビナは呼吸を整え一呼吸着いてからそう言った。
「そうか。じゃあ行くとするか。」
4つある魔法陣の内一つに乗りレオン邸へと向かう。
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転移魔法というだけあって一瞬でレオン邸のすぐ裏手へたどり着いた。便利すぎる。
「しかしいつも使ってるけど改めて凄いな。」
以前も言ったがこれを現実世界に持ちこんだら全てのバランスが崩れるよな。
『我の創ったモノだからな凄くなくては困る。』
リオウのドヤ顔が見える。リオウは竜言語魔法自体は、俺以外にも理屈と魔力量次第で使える者がいてもおかしくないと言っていたが使えるのと創るのでは全く違う。
やっぱりどの世界でも創る者が一番凄いと個人的には思う。ドヤ顔が加速するのであえてリオウには言わないけど。
「うん!こんな凄い魔法を創っちゃうリオウ様は本当に凄い!
ハビナはそう言うと駆け足で屋敷の中に入って行った。両親に会えるのが嬉しいのだろう。と言っても長期間離れていた訳では無いし転移魔法陣でいつでも会えるだろうに。
『竜の王、か・・・』
「ん?リオウ、何か言ったか?」
『いや、気にするな。』
リオウが何かぼそっと呟いた気がするがよく聞こえなかったな。
「じゃあ俺たちも行くとしよう。」
先に行ったハビナを追う様にレオン邸へと足を踏み入れる。
屋敷へ入るとすぐに侍女がやって来て広間へと通された。この部屋は以前獣老会議で俺が獣老に任命された時に来た事があるな。
コンコン、と侍女が部屋をノックした後ドアが開かれる。
そこには獅子族のレオン、プラネ、ハビナ、と鰐族であるガジュージがいた。ガジュージはホントにレオンが好きだな。自分の領地にいるところをあまり見ないんだが。
「おお!ギンジ殿!具合はどうだ!?心配していたぞ!」
「無事でよかった。ギンジ殿。」
「二人ともハビナちゃんからギンジさんの容態は聞いていたでしょう?でも、元気そうで何よりだね。」
俺の顔を見るなりレオン、プラネ、ガジュージがにこやかに声をかけてくれる。
俺は3人の顔を見てどうしてもいたたまれない気持ちになってしまいそのまま頭を下げた。
「3人ともすまなかった。あんな事をしでかしてしまって3人にも怪我をさせてしまった・・・幸い大事にはなってない様だが何と謝罪していいか・・・本当にすまない!」
「・・・ギンジさん、頭を上げて欲しい。サルパ老からも聞いたはずだ。今回の事は周りにほとんど被害もなかった。ギンジさんの意志でない事は明らかだったしね。」
すぐにガジュージが、ふぅと少し溜息を交えて答えた。
「ガハハハ!そうだぞ!それに2度もギンジ殿と戦えて俺は嬉しかったぞ!次は負けん!」
「いや、あのギンジ殿を相手にするのは自殺行為だぞレオン。ともかく私個人も、奴隷にされ捕らわれていた同胞たちもを救って貰った大恩ある者に水を掛ける様な事はしたくないのですよ。だからどうか頭を上げて下さい。」
レオンもプラネも気にするなと言って俺の肩をポンと叩いた。
俺はその優しさに胸がいっぱいになってしまった。
「・・・本当にありがとう。」
俺はもう一度レオン達に礼を言った後、亮汰がある場所に捕らわれている可能性が高い為ヴァルハート経由で救出に向かうつもりである事を伝えた。
「なるほど。カセ殿が行方不明だとは聞いていたがそんな事になっていたとはな。生きていたという事が唯一の救いだが・・・」
「彼もまた大森林の危機を救ってくれた一人だ。私達も誰か一緒に向かうべきだろう。」
「子供たちも心配していたよ。プラネさんの言う通り大森林からも兵士を出そう。」
レオン達も亮汰の事を案じてくれている様だ。同族である獣人でもない人間の為に力を貸そうとしてくれている。本当に優しい種族だな。
「いや、皆がそう言ってくれるのはありがたいが亮汰がああなったのは俺の責任だ。皆に迷惑をかける訳にはいかない。それに亮汰がいる場所は船でないといけないらしい。大人数では厳しいだろう。」
「ふむ・・・ならば獣老の誰か、もしくはプラネに・・・」
「父上、母上。私はギンさんの助けになりたい!ギンさん達に迷惑はかけないから一緒に行かせて下さい!」
レオンが腕を組み思案している所にハビナが大声で叫んだ。
俺としてはもしまたハビナが危険な目にあっては嫌だからレオンたちに駄目と言って貰えれば少し安心するのだが。
「そうか。先日の決闘でお前の実力は理解している。そこらの輩に遅れは取るまい。それにギンジ殿がいるのなら安心だな!ガハハハハ!」
「私たちの分まで頑張るのだぞ!」
「ちょっ!レオンさん、それにプラネさんまで・・・ふぅ。仕方が無い。ギンジさん、ハビナちゃんを頼むよ。」
「ありがとう!頑張って来ます!」
レオンの家族はガハハハと笑っているしガジュージはやれやれと言った顔をしている。
信頼してくれるのは嬉しいが、親として、同じ獣人の仲間として本当にいいのだろうか?
実際ハビナは何度も危険な目にあっている。主に俺のせいで。
もちろん今回はそうならないように細心の注意を払うつもりでいるけれど。
「結局そうなるんだな。レオン、プラネ、ガジュージ。俺も全力でハビナを守る。少しの間ハビナの力を借して貰うよ。竜装化の暴走に関してはほぼ無いと言ってもいいだろうとリオウも言っているから・・・」
「わかった。わかった。リオウ様のお墨付きならばそれで問題ないだろう!」
俺が全部言い終わる前にレオンはそう言ってまた高笑いをし始めた。
本当に分かっているのだろうか。
「では3人とも行ってきます!」
ハビナが元気にそう言った後、俺たちはレオン達3人に見送られレオン邸を後にした。
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