第113話 囚われの勇者

亮汰の事をミズホとメーシーから聞いた俺は咄嗟に駆けだしていた。

と言っても衝動にまかせて闇雲に、という訳では無く確かめたい事があったからだ。



「あいつは、リオウは多分この辺りに・・・いた!」



リオウが刀に宿ってからなんとなくあいつがどこにいるのか分かる様になって来た。


それを頼りに探っていくと先日皆で食事をした広間で東雲さん、西城、ハビナが夕食を摂っている隣に椅子に座っている(立てかけてある)俺の相棒であるリオウ(刀)を発見した。



「はぁ、はぁ、・・・・リオウ、ちょっといいか?」


『む。銀次か。どうしたそんなに慌てて。』



切らせていた息を整えてからリオウに話しかけると妙に落ち着いた返事を返すリオウ。

リオウは俺がここへ向かっている事は分かっていた様だ。



「あ!銀次君!もう起きて大丈夫なの?」


「さすがの須藤もノーガードでスララちゃんの特攻はキツかったみたいやな。」


「ギンさんなら大丈夫と思っていたけどあれはさしずめ黒い弾丸だったからな。でも元気になってなによりだ!」



続いて女性陣も口を開いた。ありがたい事に皆心配してくれていた様だ。


スララには流石に自重するように皆で言ったみたいだがあのうるうる顔にやられてしまい強くは言えなかったらしい。



「ああ。色々悪かった。それよりリオウに教えて欲しい事があるんだが。」


『教えて欲しい事?・・・ふむ。あれか。加瀬亮汰の事であろう?今もその話をしていた所だ。』


「!?」


『それに関する話をしようとした所また銀次が眠ってしまったのでな。元から頼まれていた娘たちに話していたのだ。』



俺が質問する前に内容を当てられてしまった。そこにいた3人の女性陣は少し気まずそうな顔をしている。やはり先程西城たちはあえて亮汰の事を言わなかったのか。



「え?あ、ああ。そうだけど良くわかったな。皆のその表情。やっぱりあいつが行方不明と言うのは本当な様だな。」


「・・・回復させる人に亮汰君を選んじゃった私の責任だよね。また私は・・・」


「あ、う・・・ごめん須藤。あの時のウチじゃあどうにも出来んかった・・・加瀬を煽ってただけでウチも同罪や。」


「だがそうする以外に道は無かったのだろう?マユミたちが責められるべきでは無いはずだ!」



ハビナの言葉もむなしく彼女たちはさらに表情を暗くしてしまった。

だが今は落ち込んでいる時ではない。



「皆を責めるつもりは無い。元をただせば全て俺が原因なんだ。皆に感謝こそしても責任を押し付けるなんてありえないさ。それで、リオウ。お前は以前勇者の存在を感じる事が出来ると言っていたな?」


『うむ。勇者の存在、と言うよりは勇者の称号を持つもの、と言った方が正確だが。』



それに何の違いがあるんだ?良くわからないがまぁいい。



「じゃあ単刀直入に聞くが亮汰あの後どうなった?生きているのか?それとも死んで――――いや、俺が殺したのか?」


「銀次君・・・」



口にしてしまうとどうにも自分に対しての怒りやふがいなさが押し寄せてくるが努めて冷静なふり・・をしてリオウに問いかける。


東雲さんたちはもうリオウから聞いているのかもしれないがその表情からはどちらなのか読み取る事が出来なかった。



リオウが答えるまでの間がやけに長く感じた。

嫌な予感がする。やはり俺は・・・!



「須藤・・・な、なんや?急に身体が・・・」


「うぅ、さ、寒い・・・」


『・・・銀次よ。そんなに殺気と魔力を解放するな。大気が震えているぞ。先程娘らにも話したが勇者加瀬は、生きている。銀次は殺しておらぬ。間違いない。』


「ッッ!そ、そうか・・・!良かった、訳ではないけど良かった。西城たちも朝にそうと言ってくれれば・・・」



ピンと張りつめていた糸が一気に緩むのを感じた。


今だ亮汰の行方が分かっていない事もあるし俺のやった事が無くなるわけでもないが生きているという事が本当に嬉しかった。



「やっと治まった・・・ふぅ。いや、ウチらもさっき聞いた所やったんよ。リオウちゃんには頼んどったんやけどずっとわからんかったみたいでさ。」


「銀次君にはしっかり分かってから伝えようと思ったんだけど・・・ごめんね。」


「獣人の子供たちもアイツにはなついていたからな。子供たちに悲しい顔をさせずに済みそうで良かった。」



俺の感情が緩むと同時に西城たちが地面にぺたんと座り込み応えた。

知らずに気持ちが外に出てしまっていたらしい。



『西城よ。「ちゃん」はよせと言ったはずだが?もう一度操ってやろうか?』


「げ!?アレだけはホンマにもう勘弁してや!リオウちゃ・・・さん!助けてまゆまゆ!」



西城はそう言いながら東雲さんの影に隠れて震えている。よっぽど例の闇魔法がトラウマらしい。ま、あんなの晒したらそうなるか。



「まあ西城の痴態はどうでもいいが、リオウがすぐに亮汰の存在を確認出来なかった理由でもあるのか?」



敵の、グレインや勇人の手に落ちた、とか。だがあの時の一瞬であそこにいた誰にも気づかれないように攫って行くのは難しいと思うが・・・


・・・西城がどうでもいいとはなんや!と憤っている。うるさいな。



『うむ。我はこの世界にいる・・・・・・・勇者の称号を持つものは感知できる。だがあの日以来今日までその加瀬の存在がわからなくなっていた。初めは死んだのかと思っていたがエルフの娘の話を聞いて死んでしまった可能性は低いとふんだ。』



「エルフの?メーシーか。」



確かさっきメーシーが何か言いかけていたような気がする。急いで出てきてしまったからちゃんと聞けなかったが。メーシーは何を見たのだろう。



『エルフの娘は銀次の放った竜言語魔法が加瀬を巻き込んで爆発する直前に次元の裂け目を見たと言っていたのだ。』


「なんだって!?」


「次元の裂け目だと?」


「あの外敵が現れる時に出るアレの事?」



リオウの言葉にハビナと東雲さんも反応する。ここから先は東雲さんたちも聞いていないみたいだ。


次元の裂け目・・・外敵が現れる時に気味が悪い音と共に空間が裂ける。

俺は以前そこに落とされた事もある。



『うむ。次元の裂け目に囚われたとなれば感知するのは難しいのだ。そしてアレを開けるのはグレインの他には現状一人しかいない。』


「グレイン以外に!?そうなのか・・・しかし今回それがグレインでない確証でもあるのか?」



俺たちの側についた亮汰がグレインや勇人に捕まったのなら最悪だ。

東雲さんの様にグレインの闇魔法で操られでもしたら・・・



『エルフの娘から聞いた話ではヤツではないな。それは安心するがいい。』



よくわからないがリオウがここまで言うのなら今回亮汰を攫って?行った奴はグレインでは無いっぽいな。とすると自ずともう一人の人物になるだろう。



「それでリオウが亮汰の存在を感じたという事は次元の裂け目から出てこれたって事でいいのか。」


『そうなるな。もしくは結界を張った場所に連れて行ったかだ。恐らく後者だろう。つい先日勇者と共にある場所が現れた。』


「で、どこの誰なんや!?加瀬を攫って行ったヤツは!?」


『・・・』



西城が喰い気味にリオウに問い詰める。西城もいつも喧嘩ばかりしていたが亮汰の事が心配な様だな。


対してリオウは少し言いたく無さそうな雰囲気を醸し出している。



「俺からも頼む。亮汰にはちゃんと謝罪をしなくてはならない。その為にも捕らわれているのなら助けに行きたいんだ。」


『・・・むぅ、まあ仕方がない。そいつの名はノルン。現在はある孤島にいる筈だ。恐らくそこにはもう一人・・・』



しぶしぶと言った感じでリオウが呟く。グレインの話をする時とは少し違う様だが。



「孤島か。そうすると船が必要になるか?」


『うむ。その孤島はヴァルハートからそう離れていない。ヴァルハートで船を調達するがいいだろう。』


ヴァルハートか。エミリア王女にも来てくれと言われていたしライーザさんを迎えに行きがてら行ってみるか。

王女に頼めば船を融通してくれるかもしれない。



「そこに加瀬がいるんやな!?よっしゃ!ウチも行くで!?」


「私も行くよ!私も亮汰君に謝らなくちゃ!」


「私も今回は駄目と言われても付いていくからな!?もう留守番はごめんだ!」



三人とも鼻息を荒くしているな。まぁ断る理由はないが。


「分かった。じゃあ明日、皆に説明するとしよう。と、その前にレオン達にはしっかりと礼を言わないとな。」



レオン達や大森林を傷つけてしまったのにもかかわらず許してくれたのだ。

まずは彼らに話をするべきだろう。



「そうと決まれば腹ごしらえや!須藤もたくさん食べて早く元気になるんやで!」


「私もまだお腹すいちゃってるし銀次君の分も持ってくるね!」


そう言って彼女たち三人は俺の夕食とハナちゃん特製の大量のスイーツを持ってくるのだった。


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