第112話 犯した罪


「起きて下さいご主人様ー!」


なんだ?胸の辺りが重い・・・そうか。俺はまた気を失ってしまっていたのか。

いくら万全で無かったとは言え気絶しすぎだろう。俺。



「あら~。スララちゃん。そんなにしたら愛しのご主人様が永遠に起きて来なくなっちゃうわよ~?でもそろそろお夕食の時間だしねぇ。ここはお姉さんが気持ち良~く起こして・・・って、あら~。起きちゃったの。残念。もう体は平気かしら~?」



胸の苦しさの他に何か大切な物を奪われる様な気配を感じカッっと目を開くと、そこには妖艶な笑みを浮かべるミズホの顔が目の前15センチ程に迫っていた。


バッチリ目があった後ミズホは心底残念と言った表情と上記のセリフと共に俺から離れていった。



「ああ。身体の痛みもほとんど無いみたいだ。万全で無かった身体を強制的に休ませてくれた原因は・・・お前か。スララ。」



仰向けになった状態でチラッと目線を胸の方へやると、俺の上で伏せの態勢で大きな目を申し訳なさそうにうるうるさせているスララが見えた。



「うぅ・・・王女を送って行って帰ってきたらご主人様が目を覚ましたって聞いてつい・・・ごめんなさいなのです・・・」


「分かったよ。まあスララには先日助けて貰った借りもあるしな。あの時はありがとうな。」


「いいのです!でもアレは忘れて欲しいのです・・・あんなはしたない姿、思い出しただけで赤面なのです!」



俺は体を起こしながらスララを撫でてやった。スララは目を細めて嬉しそうだ。


俺が暴走した時は亮汰はもちろんだがスララの力も大きかった。俺の魔力球を一口で飲み込んだし。本当に不思議な生き物だな。リオウは「器」としか言わないが・・・



「おっと。私もボロボロになりながらも頑張ったんだけどなー。そこの所も評価して欲しいのだけどね。次期国王様っ。」



そう聞こえた方へ目を向けると大きめの白衣を身にまとったダークエルフ。メーシーが立っていた。良く見ると緑の長い髪が若干ボサついている。


奴隷化を解くための研究をしてくれているとサルパが言っていたがその影響だろうか。



「もちろん皆に感謝してるさ。もちろんメーシーにもな。本当にすまなかった。もう体は良いのか?だがその国王様ってのは止めてくれ。まだ了承した記憶は無いぞ。」


「ふふっ。私なら大丈夫。まぁそう言っても多分無駄だよ。エミリア王女はああ見えて中々やり手だからね。」



メーシーはやれやれと言ったポーズで苦笑いをしている。確かに意外と強引な感じではあったが。ん、王女と言えば・・・



「なぁスララ。さっき王女を送って行ったって言わなかったよな。それはヴァルハートへって事か?」


「あい!そろそろ戻らないと国政がどうとかと言ってまちたのであたちが転移魔法でヒューンと送ってあげたのです!落ち着いたらどうかライーザさんを迎えに来ながら王都へ来てほしいと言ってまちた!ワンワン!」



なるほどな。俺がぶっ倒れていたから転移できるのはスララしかいないからな。

どうやらライーザさんも護衛という事で一時王女と共にヴァルハートへ行ったらしい。


スララには後でちゃんとご褒美をやらないとな。



「よし。今度好きなものを買ってやる。それと今から夕食みたいだから今日はたくさんチーズを食べてもいいぞ。」


「本当ですか!わーい!ご主人様ありがとうなのです!ワンワーン!」



スララはそう言うとすっ飛んで部屋を出て行ってしまった。大好物のチーズを求めて行ったのだろう。



「あら~。カワイイわねぇ。でもギンジ君?お姉さんも直接はあの場へ行けなかったけど、避難誘導だったり森の消火だったり頑張ったのよ~?空飛べるの私以外そんなにいなかったし。」



そう言いながらミズホはそのスーパーモデルの様な身体をしなだれかからせてくる。


確かにそう言った役目の人物がいなくては侍女や職人たちが余波で犠牲になっていたかも知れないのだ。

そう考えると本当に申し訳なくなる。



「そうだな。ミズホもありがとう。獣老としての評決も本当に良かったのか?」


「あら~。冗談よ~。ちょっとお姉さんもアピールしたかっただけだから。獣老としても問題ないわ~。これからも大森林の為によろしくね。」


ミズホはパチンとウィンクをしながら俺の唇にちょんと指を当てた。

・・・む。かなりドキッとしてしまったぞ。



「まぁ。それにしてもカセ君の事は残念だったわね。せっかく本人が一番頑張ったのにあんな事になっちゃうなんてねぇ・・・」



ミズホが突然困った様な顔をしながらそう呟いた。亮汰がどうかしたのか?やっぱりあいつ容体があまり良くないのか?



「どう言う事だ?亮汰がどうかしたのか?」


「え?あら~。あの日の事は全部聞いたんじゃ・・・お、お姉さんも聞いた話でしかないから・・・ねぇ?」


「・・・」



何故かミズホは罰が悪そうにメーシーを見る。がメーシーもサッと目をそらしてしまった。そういえば亮汰の事は西城たちも頑張った、としか言わなかったな。


他の奴らは目を覚ました、まだ本調子ではないだのと話が出ていたが・・・一体亮汰に何が。



「亮汰については何も聞いていない。きっちり教えてくれ。恩人って事になるだろうしあいつが困っているなら助けたい。借りは返さないとならないからな。」



俺はそう言ってミズホかメーシーの言葉を待った。

二人とも言いにくそうな雰囲気が伝わってくる。


この一瞬の間がとても長く感じられ自分の唾をゴクリと飲み込む音がやけにはっきり聞こえてた。



「ふぅ。あくまで私は聞いた話よ。落ち着いて聞いて頂戴ね。」


「・・・わかった。善処する。」



ミズホが観念したように口を開いた。はっきり言って悪い予感しかしない。



ドラゴンになったギンジ君を身を挺して止めに行ったカセ君は、あの日から行方が分からないみたいなの。」


!?やはり悪い予感が・・・


「な・・・!なぜだ!?あいつはスキルで無敵だっただろう!?それが何で!!」


ちょっと待ってくれ。あの日から亮汰が見つからない?だから西城達も・・・



「という事は、何か?ま、まさか・・・俺が、亮汰を、殺し―――」


「大丈夫!カセ君は死んだ訳じゃ無い!と思う、しか言えないんだけど・・・とにかく私はあの時の事ちゃんと見てたからそれを伝えるよ。」



言いかけた俺にメーシーが言葉を被せてきた。


心の内からあの感覚が湧き上がってきそうだったがメーシーの死んだ訳じゃ無い、というその言葉に少しでも寄りかかりたくて俺はぐっと感情を抑え込んだ。



「分かった。頼む。」


「うん。あの時―――――」



そう言ってメーシーはゆっくりと諭す様に話し始めた。




「―――――と、言う訳なんだ。」


「そうか・・・そうするとやはり俺は亮汰を・・・クソッ!」



メーシーの話を要約すると、俺の竜言語魔法による光竜を亮汰が跳ね飛ばしたはずが亮汰も光竜と一緒に巻き込まれてしまった様だ。


その際に光竜は上空で大爆発を起こして消えたのだが亮汰の姿はどこにも確認出来なかった。


無敵スキルが切れていなければ恐らく死んではいない。もし切れていればあの超威力の爆発だ。跡形も無く・・・


まずは確認をしなくては。切れたり悲観したり絶望するのはその後だ。その場の感情に流されてはいけない。少し前に痛い目を見ているじゃないか。


そう思い俺はドアを乱暴に開け放ちある所へ駆けだした。



「でその時に一つ気になる事が・・・って、行っちゃった。やっぱり言わない方が良かったかな・・・」


「あら~。仕方ないわよ~。遅かれ早かれ分かっちゃう事だし。今は私たちも彼の無事を祈りましょう。ね、メーシー・ローイングちゃん?」


「ヒッ!え、えぇ。そうですね・・・ミズホさん。私が見たものが見間違いで無いのなら多分彼は・・・」



蠱惑的に微笑むミズホに対しメーシーは一瞬ぶるっと震え気まずそうに返すのだった。


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